第51回の金馬奨を『黄金時代』で、さらに過去には6回のノミネートと合わせて3度の金馬奨を受賞した経験のあるアン・ホイ氏が選ばれた。その記録は李行(リー・シン)や杜琪峰(ジョニー・トー)侯孝賢(ホウ・シャオシェン)など名だたる映画監督と並ぶ功績だ。 *1
彼女のフィルモグラフィは香港創建の歴史に大きく関わる獅子石を扱った『獅子山下(ししざんした)』(英題:Below the Lion Rock)に始まった。第2作目『瘋劫(ふうきょう)』(英題:The Secret)では三角関係により事件が複雑化した実際の殺人事件を扱うなど、社会派な作風でよく知られている。
1981年に『獣たちの熱い夜/ある帰還兵の記録』、『望郷/ボートピープル』の2作を公開してベトナムの窮状を描いた三部作を締めくくり、同年の香港国際映画祭の最優秀作品賞・監督賞を受賞した。溢れるバイタリティによってアジア圏はおろか、全世界にその名を轟かせたのだ。ウォン・カーウァイと並んで香港ニューウェーブの旗手とされており、彼女は現在も精力的に作品を発表し続けている。
また、アン・ホイ氏は若手の才能発掘にも余念がない。
昨年の金馬創投會議では早川千絵による長編企画『天燈幸福』に日台合作の決定を出した。*2 早川監督は、18歳になって死刑囚の祖父、認知症の祖母の存在を知った少女が歩んでいく日々を描いた『ナイアガラ』でPFF2014年グランプリ受賞の経歴がある。彼女は東京フィルメックスが主宰するTalents Tokyoで活動をする傍ら、日台のプロデューサーと連絡をとり、デッドライン間際に金馬創投會議に脚本を提出したという。監督によると、プロジェクトには台湾のテレビ局、観光局、フランスのフィルムセンターCLCが出資しているという。*3
2016年は民進党が台湾総選挙で快挙するなど、中台関係がヒリついている。今、彼女が審査員長に選ばれることには、果たしてどんな意義があるのか。11月1日にノミネート作品が発表されるので、その作品群にも詳しく目を向けていきたい。
*1 http://www.goldenhorse.org.tw/news/detail/618?r=en
*2 http://japan.cna.com.tw/news/aart/201511200004.aspx
*3 https://www.youtube.com/watch?v=fjPfIpCCOCs&feature=youtu.be (早川監督『天燈幸福』については32分~参照)

伊藤ゆうと
イベ ント部門担当。小さなラジオ局で働く平成5年生まれ。趣味はバスケ、自転車。(残念ながら閉館した)”藤沢オデヲン座”で「恋愛小説家」を見たのを契機に 以後は貪るように映画を観る。脚本と執筆の勉強中。


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