[375]フランスから“言葉のない”ジブリ最新作

カメとカニと鳥しかいない熱帯の島に漂流した男の物語。彼の姿を通して、”人間の人生“を語る。
無人島に行き着いたある漂流者の物語。いかだを作り、島からの脱出を図るも、現れた巨大なカメに妨害される。次いで漂流してきた女性の登場により、彼らはそこで家族を作ることにした。
今年のカンヌ国際映画祭で「ある視点」部門特別賞を受賞した『レッドタートル ある島の物語』。このアニメーションは、日本のスタジオジブリとフランスの製作兼配給会社Wild Bunchとの共同製作作品であり、すでに世界で確固たる地位を築いてきたジブリ作品の、新たな時代の幕開けである。
監督・脚本・を務めたのは、『岸辺のふたり』(00)で米アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞している映像作家マイケル・デュドク・ドゥ・ヴィット。彼の作品を見て、気に入った高畑勲監督が、マイケルの長編監督デビューを後押しする形で実現した本作。ジブリ好きなオランダ人であるマイケル監督は、この絶好のチャンスを逃さなかった。スタジオ・ジブリは、この映画をより自由でクリエイティブなことが可能であり、かつアーティストに寛容な国としてフランスで製作することを決めた。鈴木敏夫氏プロデュースのもと、高畑監督はアーティスティックプロデューサーを務めている。
共同製作のWild Bunchとは、Canal+グループ傘下の映画の製作・配給会社であるStudio Canalに所属していた数名が独立して設立した、パリに拠点を置く映画の国際販売・製作サービス会社である。子会社Wild Bunch Distributionが国内劇場配給も行っている。1700もの作品を扱っている当社は、いま世界で最も勢いがあると言われているセールスカンパニーのひとつであり、突出しているのはずばり“目利きの良さ”だ。その作品選びに定評がある。2013年カンヌ映画祭からはパルムドール受賞の『アデル、ブルーは熱い色』や審査員賞に選ばれた『そして父になる』、また本年度では、同じく是枝監督の『海よりもまだ深く』やニコラス・ウィンディング・レフン監督の『The Neon Demon(原題)』、アラン・ギロディ監督の『Rester Vertical(原題)』、パルムドール受賞のケン・ローチ監督作『I, Daniel Blake(原題)』など、それらの話題性に値する快挙は言うまでもない。カンヌだけでなく世界の賞レースには欠かせない、映画界にとっては商業的に大きな権力を握る存在になりつつある。また、ただ名の知れた優れた監督の作品だけでなく、ジャンル映画や、物語性あるアニメも積極的に購入している。現在まで、劇場配給権をディズニーなど大手に売った『となりのトトロ』や『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』、『崖の上のポニョ』、『かぐや姫の物語』、『思い出のマーニー』等、スタジオジブリ作品のフランスでの上映と興行を支え続けてくれているのだ。
先日、アメリカでの上映権をソニー・ピクチャーズ・クラシックス(SPC)が獲得したと報じられた。SPCは、「この映画は私たちを壮大な人生の旅へと導いてくれます。幻想的でポエティック、圧倒的な映像美。すべての人を虜にするでしょう。」とコメントしている。
ほぼ台詞のない本作。言葉がないからこそ、世界中のすべての人々に、共通するメッセージを真っすぐに発信できるのかもしれない。マイケル監督がこの映画で追及したのは、“シンプルであること”。青々と生い茂った島内の竹林シーンは、壮大で迫力はあるものの、どこかもの静かで落ち着いた画となっている。彼は以下のように述べている。「あるアメリカ映画は、レインボーのようにカラフルでとても美しい。でも僕はそうはしたくなかった。僕の映画では、青い海、青い空、灰色の天気…こういうごくシンプルな自然の要素を、見るのでなく、感じてほしい。“自然に立ち向かう”主人公ではなく、“自然の中に居る”主人公を描いている。このシンプルな自然の中で、彼らは共に生活し、属しているんです。」
『レッドタートル ある島の物語』、2016年9月17日公開予定。
参考URL:
http://latortuerouge-lefilm.com/presse/
http://www.allocine.fr/film/fichefilm_gen_cfilm=243780.html
https://www.jetro.go.jp/world/europe/fr/contents/trends/1310001.html(日本貿易振興機構)

田中めぐみ
World News担当。在学中は演劇に没頭、その後フランスへ。TOHOシネマズで働くも、客室乗務員に転身。雲の上でも接客中も、頭の中は映画のこと。現在は字幕翻訳家を目指し勉強中。永遠のミューズはイザベル・アジャー二。
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