
Annenberg Inclusion Initiative[#1]が今年1月に発表した報告書において、過去10年(2007~2018年)の興行収入トップ1,200本の映画のうち、女性監督作品が占める割合は僅か4%に過ぎないというデータが明らかにされた[#2]。
これに端を発して、Annenberg Inclusion InitiativeとTIME’S UP[#3] の共同で、新たなキャンペーン”4% Challenge”が立ち上げられた。
4% Challengeは、TIME’S UPによるキャンペーンの一つで、女性リーダーの数を2倍に増やすことを目標とするTIME’S Upx2[#4]の一環として始動したもので、賛同者は「18ヶ月以内に(特に白人以外の)女性監督による作品に参加すること」を宣言する。4% Challengeの趣旨について、TIME’S UPのホームページでは以下の通り説明されている。
“私たちは、あらゆるバックグラウンドの女性監督を支援します。女性監督による作品の方が、登場する女の子や女性の数が多く、40歳以上の女性、人種/エスニックマイノリティも男性監督作品と比較してより多く含まれることが研究により明らかになっているからです。それに加えて、女性監督は映画制作スタッフの重要な役職にも女性を起用します。目指すのは、映画制作過程をより人間的なものとすることにより、全ての人が安心して仕事にやりがいを見出せるようにすることです。4% Challengeは、そのための一歩なのです。”
サンダンス映画祭で1月25日に行われたパネルディスカッションにおいて、ニーナ・ジェイコブソン、ポール・フェイグ、エイミー・シューマー、アンジェラ・ロビンソン、フランクリン・レオナルドが4% Challengeへの参加を表明し、同日夜の基調講演において女優のテッサ・トンプソンが同キャンペーンの発足を正式に発表。自身も4% Challengeに参加することを宣言した。4% Challengeの開始からまだ2週間弱だが、既に多くの女優、俳優、映画業界関係者らが参加を表明しており、今後も更に人数が増えていくことが期待されている。尚、参加者のリストはTIME’S UPのホームページにて随時更新されており、こちらから確認することが出来る[#5]。: https://www.timesupnow.com/4percentchallenge
“Because only 4% of the top 100 studio films over the last DECADE have been directed by women, #TIMESUP is initiating a challenge, the 4% challenge, and I intend to take it: I commit to working with a female director in the next 18 months.” –@TessaThompson_x #TIMESUPX2 pic.twitter.com/GjsuqeryKj
— TIME'S UP (@TIMESUPNOW) January 26, 2019
このような流れの中で注目を集めたのが、ユニバーサル・ピクチャーズの動きだ。同社は4% Challengeに参加する初のメジャースタジオとして18ヶ月以内に女性監督による作品を少なくとも1本制作することを約束すると共に、映画業界全体に4% Challengeへの参加を訴えかけた。これに対してTIME’S UPは、「メジャースタジオが4% Challengeに参加することによって、女性監督ともっと積極的に仕事をしようという機運が映画業界において高まることを期待している」と歓迎のコメントを寄せた。メジャースタジオは映画業界に対して大きな影響力を持つだけに、残るメジャースタジオもユニバーサル・ピクチャーズを追随するのか、今後の動きに注目したいところだ[#6]。
ハーヴェイ・ワインスタインによる性的暴行事件に対する告発があったのが2017年の秋。それからというもの、#MeToo、TIME’S UPをはじめ性別を理由とした不正や不平等の是正を目指す様々な運動が展開されてきた。今年1月7日に行われたゴールデングローブ賞の授賞式では、助演女優賞を受賞したレジーナ・キングが「今後2年間に自分が制作するものは全て、女性の割合を50%にする」と宣言するなど、映画業界におけるジェンダー比率是正を求める声は更に増している[#7]。
4% Challengeは今まさに始まったばかりだ。今年のアカデミー賞レースにおいて、監督賞にノミネートされたのが全員男性である[#8]という事実を前にしても(昨年は、ノミネートされた5人のうち、「レディ・バード」の監督グレタ・ガーウィグが唯一の女性であった[#9])、恐らくまだ道のりは長い。4% Challengeがどのように映画業界を変えていくのか、注視していきたい。
引用URL:
[#1] https://annenberg.usc.edu/research/aiiエンタテインメント業界のダイバーシティ&インクルージョンに関する調査及び活動を行うシンクタンク。 [#2] http://assets.uscannenberg.org/docs/inclusion-in-the-directors-chair-2019.pdf
興行収入トップ1,200本の監督に含まれた女性の数は46人、人種構成を見ると、白人39人、アフリカ系4人、アジア系2人、ヒスパニック/ラティーノ1人となっており、女性の中でも特に白人以外の監督の割合の低さが問題であることが明らかになった。 [#3] https://www.timesupnow.com/about_times_up
ハーヴェイ・ワインスタインによる性的暴行事件、及びそれが一つの契機となり世界的に広まった#MeToo運動に呼応する形で立ち上げられた、セクシュアルハラスメントやジェンダーを理由とする不平等を撲滅することを目指す団体。 [#4] https://www.timesupnow.com/timesupx2 [#5] https://www.timesupnow.com/4percentchallenge [#6] https://www.hollywoodreporter.com/news/universal-becomes-first-studio-accept-4-percent-challenge-1180949 [#7] https://variety.com/2019/film/news/regina-king-golden-globes-2019-speech-1203100762/ [#8] https://oscar.go.com/nominees/directing [#9] https://oscar.go.com/news/nominations/oscar-nominations-2018-full-list-and-highlights

濱口ゆり子 レディースデイの水曜日は全力で定時退社を目指す会社員。映画はメジャー作品からアート系、サイレント映画まで広く浅く。旅先でその土地の映画館に行くことが好きです。自分はどのような角度から映画と関わってゆきたいのか日々模索中。
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