
2017年公開のハリウッド大作映画『スパイダーマン ホームカミング』と『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』の音楽を担当したのは、どちらもマイケル・ジアッキーノである。彼は今やハリウッド主力の作曲家である。ジアッキーノの映画音楽に対する考えが表れた言葉がある。
「何か意味のある派手な時のために、静かな時を必要とします。これは観客にも効果的です。観客を引き込むことができるのですから。」
ジアッキーノは、『スパイダーマン ホームカミング』のためにマーベルスタジオのファンファーレに作曲をした。そこには、1967年のアニメーションシリーズ『スパイダーマン』のテーマ曲が挿入されている。また、アルフレッド・ニューマン作曲による20世紀フォックスのファンファーレに代わって、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』のために作曲された音楽が鳴り響く。このことで、観客はそれぞれの映画世界に上映開始後すぐに導かれる。
ジアッキーノは、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の上映から退席した瞬間、マーベルスタジオの製作社長ケヴィン・ファイギが映画館を去る前に、彼に対して自分を売り込んだ。ファイギが『スパイダーマン ホームカミング』のスコアを必要としていたことを知っていたためである。
「(ピーター・パーカーの)性格の不器用さ、(ピーター・パーカーが)考えることなく、争いに突入していくのが大好きなのです。ティーンエイジャーの世界なのです。高校で繰り広げられるそのことの多くがとても好きです。超悪玉だけではなく、ほかの子供たちに痛めつけられるのです。」
『スパイダーマン』の過去シリーズの楽しさを伝えるために、ジアッキーノは『スパイダーマン ホームカミング』へと1967年のアニメーションのテーマ曲を使った。
「若々しく、さらにヒロイックでエピックにさせるテーマ曲を必要としました。だから、自分にとって、そのことを発展させ、実現させることは重要でした。」
ジアッキーノがとても気に入っているシーンとは、ピーター・パーカーがコンクリートの下敷きになり、危機に陥るところである。
「悲しみと痛みに苦しみます。大規模でヒロイックなテーマ曲を作曲できたことは楽しかったです。大胆さや不器用さとは相反して、そのテーマ曲はその場面を励まします。」
ジョン・ワッツ監督は、ジョン・ヒューズからインスパイアされたスーパーヒーロー映画を製作するというマーベルの考えのもとにいた。しかし、その考えは音楽ではうまくいかなかった。80年代のシンセサイザーの音は時代遅れであったからである。それ故に、ジアッキーノはそれらをカットした。
「キャラクターが必要とすることよりも、その考えへと注意を向けました。しかし、方向性を変えてみると、すべてがうまくいったのです。」
ヴァイオリンのピッチカートや大胆なギターのサウンドといったスーパーヒーロー映画では型破りのオーケストレーションが、ジアッキーノによって用いられた。リズムのセクションには、バケツ、変わった金属の物体、キックドラムとしてプラスティックオイルドラムを導入した。
マイケル・キートンが演じるバルチャーは、残骸から腕の兵器を作り、取引をするディーラーである。並外れたテクノロジーから利益を得ている。ジアッキーノは、ヒッチコックの映画で流れるようなテーマ曲を書いた。
「2つのアイデアがありました。大規模で攻撃を仕掛けようとしているかのような低い金管楽器の音楽がリズムを担当しています。もうひとつは、異なる楽譜での低い弦楽器の音楽です。それは統合されていきます。バルチャーが少しばかり歪んでいるというアイデアに由来しています。観客はバルチャーが正しいことを行うと考えますが、しかし後になってそれは完全に間違っていると分かるのです。」
しかし、前半で観客が少し正しいことを行うと期待する際に、そのテーマ曲の希望にあふれたバージョンが再び流れるが、バルチャーが飛行機から盗みを働き始め、そのテーマ曲は何が起こるのかを観客に思い出させるのである。ジアッキーノは、深い感情の繋がりを表現する音楽の力を示すのである。
ジアッキーノは、『猿の惑星』のリブート3作目『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』で、まるで悲しいウエスタン映画であるかのようなアプローチをしている。猿のリーダーのシーザーは、暗黒面と葛藤をする。シーザーは経験する悲劇に苦しみ、そして復讐を求める。もはや猿と人間の間に平和的共存のチャンスは失われてしまう。
ジアッキーノは、“Exodus Wounds”という楽曲の崇高さの中にこの映画を表現した。終わりに近づくにつれて金管楽器によって音楽は壮大さを増していくが、それ以前の展開においては、ピアノと弦楽器によって構成された音楽である。
「シーザーは過酷な旅をします。私はシーザーが成長し、葛藤するのを見て感化されました。それは悲痛で、人生において避けたいと思う道を歩んでいるようなものです。」
旅の中で、猿の種族は、アミア・ミラーが演じるノバを養子として引き取る。ノバは人間の戦争孤児である。ノバは、1968年の『猿の惑星』でリンダ・ハリソンが演じたノバと同一のキャラクターである。この優しい子供へ、ジアッキーノは、解決される前にピアノとハープによって4回繰り返されるシンプルなテーマ曲を書いた。
「家族を持っていなかったり、居場所がなかったりして、来る日も来る日も変化がなく、喪失感を抱えている人物を中断する音で表現しています。終盤で、ノバが捕虜収容所に足を踏み入れて変化が訪れます。彼女は自分の力に気づき、ほかの人々を助けるのです。」
ウディ・ハレルソンが演じる冷酷な大佐は、最も暗い場面で人類を象徴する。生き残りを賭けた絶望的な戦いにおいて、シーザーとほかの猿たちとの戦争を宣言するのである。
「大佐は、多くの個人的な痛みに耐えて、ひたすらに自分を守ろうとします。多くのことにおいて、大佐はシーザーよりも動物的であるのです。」
ジアッキーノは、音楽のシンプルさに信頼を置いている。大佐のテーマ曲は、繰り返されるティンパニーの響きで始まる。来たるべき恐怖を伝えているのである。それは観客へと向けられ、不安感を与えている。しかし、大佐へと関連付けられたすべての根底にはそのことが潜んでいるのである。
作曲を担当した前作『猿の惑星:新世紀(ライジング)』と今作『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』は、ジアッキーノを彼の原点へと導く。子供のとき、ジアッキーノは、『猿の惑星』の映画やTVシリーズを観て、玩具を集めたのである。ジアッキーノは、現在、自分のオフィスにミキシングボウルと雄羊の角を置いている。ジェリー・ゴールドスミスによって作曲されたオリジナル版『猿の惑星』の音楽に使われた打楽器である。
「ここにそれらの楽器を置き、再びそれらの楽器をつかうことは、とても心が踊ることです。自分自身が情熱を持って貢献をすることで、残されたものを引き継いでいくことができるのです。」
『スパイダーマン ホームカミング』と『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』だけでなく、ジアッキーノは、彼が子供時代に愛した映画のリブートやリメイクの音楽を作曲している。近年の『スター・トレック』、『スター・ウォーズ』、『ミッション:インポッシブル』のシリーズの音楽も手掛けてきたのである。
ロサンゼルスにあるジアッキーノの自宅の壁は、玩具が置いてあり、ノスタルジアを感じさせる飾り棚で埋め尽くされている。ジアッキーノの子供時代に足を踏み入れているかのようである。現在であっても、ジアッキーノという人物の大切な背景をそこに見ることができる。
「その場所で見回していると、妙な気分になります。それらのものがそうさせるのです。大きな存在で、過去の娯楽、またはともに育ったものなのです。」
『猿の惑星』は、ジアッキーノの心に特別な存在として在り続けている。
「『猿の惑星』は、子供時代に初めて夢中になったもののひとつです。つまり、私は熱中したのです。観ることができるときはいつでもその映画やTVを観ました。若すぎて映画館へと観にいくことができなかったからです。それから、そのTVシリーズを何度も繰り返して観ました。私はアクションフィギュアを持っていました。それは自分のオフィスにまだあります。スケッチブックを持っていて、何度も何度も猿を描きました。父に付いて行って、スーパーマーケットへいった際に、猿の真似をして歩いていました。それは、子供時代のことのひとつです。私はいつもその世界にいたいと思いました。大好きだったのです。」
『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』のスコアリングセッションの間に、ジアッキーノが子供の頃に持っていたダンボール紙製の子供用の家を組み立てて、その中に、ジアッキーノとマット・リーヴス監督は一緒に入った。また、前作『猿の惑星:新世紀(ライジング)』と今作『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』の両方のスコアを書く際に、ジアッキーノは猿の玩具で遊んだ。
「エミル・リチャーズは、最初の『猿の惑星』における打楽器奏者のひとりでした。1967年であったか1968年であったのか不確かですが、彼は気が付いてみると、鉄器類のお店にいたのです。彼は通路のひとつにミキシングボウルを見つけて掴み取り、叩き始めました。『本当にいい音がするね』と言いました。それは独特なサウンドです。『猿の惑星』のオリジナルスコアで聴くことができます。」
「『猿の惑星:新世紀(ライジング)』の仕事を得た際に、エミルは私のところへと来て、『僕はあのミキシングボウルをまだ持っているよ。必要かい?』と言いました。私は、『そうですね。必要です』というように返したと思います。だから、私はスコアの中にミキシングボウルを取り入れました。ミキシングボウルを使い、それから『これだよ。持っていってくれ。上げるよ』と言いました。私は『本当にいいのですか?』というような感じで返答したと思います。
雄羊の角もまた、オリジナル版『猿の惑星』のスコアに使われました。私は実際にスコアにおいて、この楽器を演奏しています。」
ジアッキーノは、スタジオの壁全体を横切って伸びるガラスの飾り棚にミキシングボウルと雄羊の角を置いている。古い玩具で埋め尽くされていて、ジアッキーノの仕事を見守る。ミキシングボウルと雄羊の角の楽器は、ジアッキーノが作曲を手掛けたディズニーのアニメーション映画『ズートピア』でも使われている(詳しくは過去の拙文を参照)。ジアッキーノは、保管することに関して母親を信頼し、いまだに片方の目が失われたカエルのカーミットの人形も持っている。
「『セサミストリート』と『ザ・マペッツ』もまた、私の人生に多大な影響を与えました。『マペット・ショー』からコメディ、タイミング、ドラマのすべてを学んだのです。それは、製作された劇の中で最も優れた作品のひとつです。子供の頃、私は兄弟とよく人形劇をして遊びました。その家に入ってきた皆が気の毒にも座って私たちの人形劇を観なければなりませんでした。」
ジアッキーノは、10歳のときに作った『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』のパラパラ漫画、『スター・ウォーズ』、『猿の惑星』のアクションフィギュア、自分の兄弟で練習をした鞭をいまだに持っている。ジアッキーノは、今年で50歳になるが、あらゆるところで自分の古い玩具を使って遊び続けている。
「私が当時を振り返ると、キャプテン・アメリカのフィギュアと一緒に裏庭に座っていたと思います。スーパーマン、バットマン、キャプテン・アメリカ、ハルクのすべてを持っていました。現在、『スパイダーマン』、『ドクター・ストレンジ』に取り組んでいます。そこで、まさに子供のときの経験を膨らませているのです。キャラクターたちとともに新たな冒険を創作するのです。いつもそのことを行っていました。そのことを行うのが大好きだったのです。しかし、時々、『でも、新しいものはどうなっているのだろうか?新たなアイデアと新たなキャラクターを知りたい』と考え始めることがあります。」
ジアッキーノは、ピクサーの新作映画『リメンバー・ミー』の音楽を書きながら、新たなアイデアと新たなキャラクターに取り組んでいる。『リメンバー・ミー』は、続編、前編、リブート、作り直しではない。子供時代の玩具で遊ぶことが大好きであることと同じように、そのことは、彼を奮い立たせ、彼に未来へのわずかな希望を与える。
「本当に興奮することなのです。想像力は、決められた道から外れるチャンスを与えてくれ、楽しさをもたらしてくれます。想像力とはバランスです。それは、バランスを見つけ出そうとしていると感じます。前進するが如く、想像力が少しばかり新たなことへと向って行ってくれることを願うばかりです。」
参考URL:
http://ew.com/movies/2017/09/25/jj-abrams-matt-reeves-michael-giacchino-birthday-concert/
http://collider.com/michael-giacchino-interview-incredibles-2/#images
http://collider.com/war-for-the-planet-of-the-apes-oscar-chances/#andy-serkis
http://collider.com/spider-man-homecoming-score-michael-giacchino-video/#poster
http://ew.com/movies/2017/09/15/pixar-coco-songs/
http://www.slashfilm.com/pixar-three-coco-songs/

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。
ジアッキーノの作曲したマーベルファンファーレを是非一度フルバージョンで聞いてみたいものです。
コメントをくださり、ありがとうございます。
マイケル・ジアッキーノが作曲したマーベル作品の音楽には、ジアッキーノが子供の頃からずっと心に持っている「大好きな思い」が具現化されているように感じます。
ジアッキーノによる新たなマーベル・スタジオのファンファーレは、40秒に満たないほどの短い音楽ですが、聴くだけでとてもわくわくします!
新たなファンファーレにつきましては、以下のサイトなどで紹介されています(英語の記事ですが、ロゴの動画も掲載されており、見ることができます)。
http://www.slashfilm.com/new-marvel-studios-logo/
是非、ロングバージョンを作曲して録音してほしいですね。
確か、ブライアン・タイラーは拡張版をコンサートなどで演奏していたように記憶してます。
ところで、
「『スパイダーマン ホームカミング』のためにマーベルスタジオのファンファーレに作曲をした。そこには、1967年のアニメーションシリーズ『スパイダーマン』のテーマ曲が挿入されている」とのことですが、これは「ホームカミング」の劇伴に旧テーマが挿入されているという意味でしょうか。
マーベルファンファーレの金管による主旋律の部分はジアッキーノのオリジナルですか?
一つ目のご質問ですが、聴き比べる限りでは、『スパイダーマン ホームカミング』の劇伴ではなく、マイケル・ジアッキーノ作曲のマーベルファンファーレの曲調を使いつつ、アニメーション版の『スパイダーマン』のテーマ曲を主旋律として作曲していると思います。
二つ目のご質問に関してですが、『スパイダーマン ホームカミング』の場合は、この映画の限った特殊ファンファーレです。その特殊ファンファーレの金管による主旋律は、アニメーション版の『スパイダーマン』のテーマ曲です。一方で、マイケル・ジアッキーノ作曲による一般の新たなマーベルファンファーレの金管の主旋律は、彼のオリジナルです。