[707] ニューヨーク発祥のLGBT映画祭「NewFest」創立30周年を迎えて


ニューヨーク発祥のLGBTの映画祭「NewFest」が今年、創立30周年を迎える。今月24-30日の1週間の間に上映される作品数はドキュメンタリーから短編、過去作品を含め50作品以上。時代、国境を越えて共通のテーマである「セクシュアリティ」をあらゆる視点から見つめるこの映画祭は1988年にアメリカで起こったエイズ危機をきっかけにスーザン・ホロヴィッツとジョン・ローウィーによって設立された。当時のLGBTコミュニティはエイズの台頭により大きな社会的圧力を受けていた。
「私たちにとっては死活問題でした。政治家たちは平気で彼らを閉じ込めておけばいいと発言し、エイズの死者数がすごい勢いで増加していました。声をあげなければいけない。そこが始まりです。」と語るのは創設者の一人であるスーザン・ホロヴィッツ。

元々あった「ゲイ映画祭」や「ゲイ・レズビアン映画祭」のように映画祭の名前の中に「ゲイ」や「レズビアン」という言葉を入れたくない。そこから「The New Festival」という名前にたどり着いた。「新しい」自分たちの物語を語る。そんな希望の詰まったタイトルである。
「この映画祭だけが自分たちの存在をポジティブに捉える作品を上映できる場所でした。私たちが抱える悩みや苦しみをそのまま表現できる場所。私たちが姿を見せられる唯一の場所であったと言っても過言ではないと思います。ニューヨークでも当時のゲイコミュニティの存在はとても希薄なものでした」

ここ数年、多くのセクシュアリティの模索や問題を取り上げた作品が公開・制作され広く上映・認知されるようになったのはこのような団体の活動のおかげだろう。また、同性愛をただのキャッチフレーズとして使うための作中の扱いであったり、「ゲイの白人男性」と言う、とても偏った方向性や描写にも疑問をもったNewFest。それを受け幅広いジャンル、そして違う文化の作品を集めようとする姿勢はこの映画祭の魅力のひとつだ。アジアやアフリカなどの文化や宗教的背景が大きく異なっていたり文化的伝統が根強く残る国や地域を舞台にした作品にはセクシュアリティだけではなくそれらを包括するより大きな単位での社会の問題が浮かび上がってくる。

今年度上映作品の目玉である『ラフィキ』は世界各地の映画祭で絶賛されたケニア出身のWanuri Kahiu監督最新作。ケニア国内で上映禁止された本作は思春期の二人の少女の間に芽生えた愛を描いているのと同時に彼女たちを取り巻く同性愛への社会的立ち位置をとてもよく描いている。セクシュアリティは決して個人的な問題でなく、彼らの苦悩は常に社会の鏡であるということを強く実感させられる。

当初はスポンサーを探すのも精一杯だったと語るが現在はHBOをはじめニューヨーク市、ニューヨーク州、ツイッターなどの大きなスポンサーを獲得し、映画祭期間はニューヨークの街中いたるところに映画祭の宣伝が散りばめられる。

Theodore Pellerin stars as “Xavier” and Lucas Hedges stars as “Jared” in Joel Edgerton’s BOY ERASED, a Focus Features release.

今年度のもうひとつの注目作品はガラルド・コンリーの自伝に基づいたジョエル・エドガートン監督最新作『ボーイ・イレーズド』だ。
舞台はアメリカの保守的な田舎街。牧師の父親を持つ主人公はゲイであることを両親にカムアウトしたため教会によって運営される(同性愛者から異性愛者への)転向療法を行う治療施設に送られてしまう。本作では信念とセクシュアリティの狭間で揺れる主人公だけでなく彼の家族の混乱をも丁寧に描きあげていく。主演は『マンチェスター・バイ・ザ・シー』で助演男優賞ノミネートされたルーカス・ヘッジズ、父親役にラッセル・クロウ、母親役にニコール・キッドマンの大きなキャストを迎える。アーティストとして幅広く活躍するオーストラリア出身のトロイ・シヴァンやグザヴィエ・ドランなども出演している。

今までなら特定の場所でしか観ることができなかったLGBT作品も現在はストリーミングサイトやネット上で簡単に見つけることができる。「この映画祭の一番重要な点は何と言ってもコミュニティの存在です。」と語るメンバーの一人は19年共にしているパートナーとこの映画祭で出会った。この映画祭がこうして存続しているのは多くの人たちが実際に集ま理、この広くて狭苦しい社会の中で同じ姿勢で世界を見つめる同志たちを見つけるためなのかもしれない。

参考:
https://www.indiewire.com/2018/10/newfest-oral-history-lgbt-film-festival-1202015751/

https://newfest.org/

http://www.latimes.com/entertainment/movies/la-et-mn-joel-edgerton-boy-erased-telluride-toronto-20180911-story.html

mugiho
夜の街を彷徨い、月を見上げ、人間観察をしながらたまにそれらについて書いたり撮ったり


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