撮影中の死亡事故により製作中止となった映画『Midnight Rider（原題）』のランドール・ミラー監督とヒラリー・シュワルツ助監督に、今月、実刑判決がくだされました。撮影現場での事故でスタッフへの過失致死罪が問われたのは、『トワイライトゾーン／超次元の体験（1983年）』撮影中のヘリコプター事故に対するジョン・ランディス監督らへの起訴以来、約３０年ぶりのことです。今回、問題となっている『Midnight Rider』は、1969年に結成された米ロックバンド、オールマン・ブラザーズ・バンドのフロントマン、グレッグ・オールマンの自伝の映画化作品として製作されていました。(#1)
27歳で亡くなったサラ・ジョーンズ氏
撮影開始直後の２０１４年２月２０日、ジョージア州の鉄道橋での現場で、事件は起こりました。接近してくる貨物列車に、逃げ遅れたカメラアシスタントのサラ・ジョーンズがはねられ死亡、また６人もの負傷者がでました。 主演のウィリアム・ハートは、「我々には、鉄道橋から降りるのに６０秒しか与えられていなかった。私は、それでは短すぎる、危険だとスタッフに警告したんだ。だけど、誰も私の意見を聞き入れてはくれなかった」とLAタイムスにコメントしています。その後、撮影再開に向けての準備が進められる中、彼は正式に役を降板しました。(#2)
さらには、作品のモデルであるグレッグ・オールマン本人から監督に製作中止を要請する手紙が届きました。彼は、事故の直後に製作が再開するかもしれないとう状況の中で、犠牲となったサラの家族がどのような思いをしているかを考えると、撮影を続けるのはまちがっているという結論にいたったと伝えたうえで、「映画製作者としてのあなたの欲求は、人間としてのあなたの義務より重大になってはいけません」とうったえました。(#3)
このような状況を受けて、映画は正式に製作中止となり、昨年から、責任者の過失致死罪や鉄道橋への不法侵入罪をめぐった裁判が行われていました。今回、有罪となったミラー監督には、禁錮2年と執行猶予8年、罰金2万ドル（約240万円）、またカリフォルニア州での360時間の社会奉仕活動が言い渡されました。シュワルツ助監督には、10年の執行猶予、5000ドルの罰金、そして監督、プロデューサー、助監督を含めるいかなる仕事においても、安全責任者としての業務の制限が加えられることになりました。(#4)
サラの父、リチャード・ジョーンズは、「私は復讐を求めてはいません。しかし、私は娘の死に関係する全ての人々に対して改善を求めます。映画のためならどんなことを犠牲にしても許されるという考えのために、命の重さをかえりみず、利己的で危険な行為をおこなう映画産業を認めるわけにはいきません」と声明を発表しました。（#5）
現在、サラの両親は、映画撮影現場での安全確保の向上を目的とした、’Safety for Sarah’というウェブサイトを運営しています。（#6）
映画製作者が過酷な労働によって命を落とすのは、今回が初めてではありません。そこには、いい作品をつくりたいという純粋な思いや、経済的・時間的な制約など、さまざまな背景があるでしょう。しかし、私たちが何よりも大切にしなくてはならないことは、どんな状況においても変わりません。サラが、映画を愛する私たちの心に生き続けますように。
Safety for Sarah
http://www.safetyforsarah.com
#1, 4, 5
http://www.indiewire.com/article/midnight-rider-1st-ad-hillary-schwartz-found-guilty-of-involuntary-manslaughter-and-criminal-trespass-20150310
#2
http://www.latimes.com/entertainment/envelope/cotown/la-et-ct-hurt-midnight-rider-20140423-story.html
#3
http://www.hollywoodreporter.com/news/gregg-allman-begs-midnight-rider-698952
#6
http://abcnews.go.com/Entertainment/midnight-rider-filmmakers-edited-footage-horrific-train-accident/story?id=29758781
掲載画像 1
http://www.indiewire.com/article/midnight-rider-1st-ad-hillary-schwartz-found-guilty-of-involuntary-manslaughter-and-criminal-trespass-20150310
掲載画像 2
http://www.safetyforsarah.com
北島さつき
World News担当。早稲田大学卒業後、現在は英国、レスター大学の修士課程 Film and Film Cultures MAにて世界各国の映画作品、産業、文化について勉強中。
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