[695] 59分の3Dの長回しでカンヌを圧巻させたビー・ガン最新作『Long Day’s Journey Into Night』



今年度カンヌ国際映画祭にて。
会場に入った観客たちは3Dメガネを渡され、1時間後にメガネを装着するようにという説明の書かれたカードを渡された。

ロカルノ映画祭でプレミア上映された初長編作『凱里ブルース』で最優秀新人監督賞を受賞しヨーロッパ各地で絶賛された中国出身のビー・ガン監督最新作最新長編作『Long Day’s Journey Into Night』数年前に去った故郷・凱里市に戻ってきた主人公は忘れられないある女性を探し求めて街を彷徨う。

今作は前半が2D、後半が3Dという二部構成から成る。この59分もある3Dの長回しのために『裸足の季節』の撮影監督として知られるダーヴィッド・シザレと共に2ヶ月書けて準備をしたという監督。 「ロングテイクは私の時間の感覚をそのまま捉えてくれます。より現実に近づけたいという思いから今回このスタイルで撮影することにしました。」

長回し(ロングテイク)とは通常の一つのカットよりも長くカメラを回し続ける撮影方法だ。近年では両作ともに2015年に公開された『ヴィウトリア』や『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』などの全編ワンテイクやほぼワンテイクで撮影された作品が目立つ。回り続けるカメラを通して展開されていく物語を前に観客たちは休む暇もなく次に何が起こるのかという緊張感を保ち続けたままどんどんその世界に引きずり込まれていく。

今作での長回しの最初の2回の試みは技術的な失敗に終わり、合計で5回のショットを連続で撮影した。
「3Dの長回しは合計5回試しました。最初の部分を数ヶ月の間に3回撮影を試みましたがどれもうまくいきませんでした。そこでアプローチを変えてもう一度、次は5回の撮影に挑み最後の5回目のショットを作品に起用しました。」

監督はなぜ3Dという技術を使おうと思ったのか。
「3Dを使うことは最初から構想に入っていました。そのために物語の流れをつくっていきました。この技術を使って表現できる質感や雰囲気に惹かれましたが一番は主人公の夢を見ている感覚を表現するのに最適だったから。3Dは偽物に見えるけど同時に私たちの記憶というものにとても似た感覚があると思っています。1年間かけて様々な方法で3D撮影をしてみた結果これは長回しには向かない技術だと実感したが…。でも時間を包括していくのにぴったりでした。今作は記憶が主軸となっていて空間の動きよりも時間での動きがメインだったのでこの技術を使うことにしました。」

技術的な要素が大きく関わってくる3D作品の撮影のために監督は過去の3D作品の研究や適したカメラを探し求めて試行錯誤した。
「1年間かけてどのカメラが一番適しているかを試していました。小型カメラだと夜のシーンをメインで撮影したい私の作品にとって光が足りませんでした。普通のサイズを2台で試しましたがそれだとあまりにも重すぎました。結局3DシーンはすべてREDカメラを使って撮影することにしました。このカメラの使い方を覚え同時に3Dの仕組みや歴史なども徹底的に調べ上げました。」

過去の3D作品の中でも大きく参考にしたのは『ゼロ・グラビティ』だ。これは3Dと長回しというテクニックの組み合わせの成功例だろう。また、『ブロークンバック・マウンテン』や『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』の監督として知られるアン・リーの3Dへのアプローチを尊敬していると話す。
「『ビリー・リンの永遠の一日』には驚きました。観ていて違和感がなくとても自然な流れ。これを観た時もっと3Dの可能性を模索してみたいと思いました」

これだけの道のりを経て手にした3D撮影技術だが今後3Dで撮り続けるつもりはないと話す。「3Dはあくまでも手段です。今回の物語を語るのに一番適した形が3Dであったというだけで特にこだわりはありません」

そしてウォン・カーウァイの作品を引き合いによく出されるビー・ガン監督。彼の世代は少なからず彼から大きく影響を受けていると話す。しかし今作の構造的な点からはヒッチコックの『めまい』がより近いと話す「特に作品の構成は大きく影響されています。前半部分で夢の世界を表現し後半部分でもっとリアルな世界での解釈に移っていくというもの。また、緑という色が今作でのテーマ色となっています。記憶の喚起に大きく貢献しています」

記憶とは時間の歪みが生じる世界。現実の世界がリアルでなくなる感覚は目が覚めても夢を見続けるような感じだろうか。シャガールの絵画とパトリック・モディアノの小説の世界観に強く影響を受けている監督。記憶が再現されるときの色合いや感覚に惹かれるところがあるのかもしれない。


物語はいたってシンプルでありながらなぜか忘れることができない。その時の空気や感情、雰囲気というものを中心に表現したいと願うビー・ガン監督が表現したい「記憶を思い出している感覚」は私たちにどのような世界をみせてくれるのだろうか。

今作は今年度のは東京フィルメックスのコンペ部門で上映が決まっている。

参考:
https://www.indiewire.com/2018/10/long-days-journey-into-night-bi-gan-long-take-3d-1202008702/

http://cinema-scope.com/cinema-scope-magazine/apt-pupil-bi-gan-on-long-days-journey-into-night/

https://fabukmagazine.com/long-days-journey-into-night-a-film-by-bi-gan/

https://www.wildbunch.biz/movie/long-days-journey-into-night/

https://filmex.jp/2018/program/competition

http://www.bitters.co.jp/hadashi/credit.html

mugiho
夜の街を彷徨い、月を見上げ、人間観察をしながらたまにそれらについて書いたり撮ったり


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