[677]デイミアン・チャゼル最新作における、月面着陸の描写を巡る論争


2014年『セッション』で一斉を風靡し、2016年『ラ・ラ・ランド』でアカデミー賞を圧巻させたデイミアン・チャゼル監督の映画最新作『ファースト・マン(原題:First Man)』。イタリアにて開催されているヴェネツィア国際映画祭の初日である8月29日のオープニングナイトにて初上映を終え、論争を呼んでいる。

今作品は、アメリカの月面着陸計画で最も有名なアポロ11号の船長であり人類史上初めて月を初めて歩いた男であるニール・アームストロングに焦点を当てた作品である。脚本を、『スポットライト 世紀のスクープ』でアカデミー賞脚本賞を獲得したジョシュ・シンガーが担当し、『ラ・ラ・ランド』以来2回目のタッグを組むライアン・ゴズリングが主演を務めた。これまでの作品で劇伴音楽としてジャズを印象的に多用してきた監督が初めてジャズを使用せず、また、監督初の伝記映画ということもあり、これまでの作品とは一線を画したものとしても注目されている。

本作は、先日のヴェネツィア国際映画祭で初の公での上映を終えた。内容的には宇宙飛行士の観点から描いたアポロ計画を語るものであり、技術的な側面や月面着陸そのものよりも、命のリスクを伴いながらも人類初の計画に臨む宇宙飛行士たちの葛藤など感情的・身体的な経験に焦点を当てたものである。そこから、アームストロングのアイコニックなイメージを覆すものだとして広く賞賛された一方、アメリカの共和党政治家であるマルコ・ルビオ氏を筆頭として、月面着陸の描写にまつわる批判も受けている。これに対して、チャゼルは以下のような声明を発表した。

「私は『ファースト・マン』で確かに、月面にアメリカの国旗を映しましたが、それは物理的にそこにあるものとしてでありそれ以上の意味はありません。このシーンが政治的な意味合いを持つのかという問いに答えるならば、それはノーです。この作品で私が目指したのは、誰も見たこと知ることのないアメリカの月面着陸計画、特にアームストロングの個人的な物語としてあの(歴史的な瞬間となる)有名な数時間の間に、彼が考えたり感じたりしていたであろう物事を、この作品を観る人と共有することです。

私は第一に、月面上でのニール・アームストロングの孤独な時間に焦点を当てたかったのです。Little West Craterで過ごした時間、EVA(月着陸船)にいる間彼の胸の内によぎったであろう思い出など。これは全人類の飛躍であり、想像以上の偉業だった。この映画は、アメリカの歴史としてではなく、全人類の歴史として最も並外れた業績の一つについての作品なのです。私の願いは、人間的な部分に光を当てることで、この出来事がどれだけ難しいものであったかへの理解をより深めることです。」

実際にアームストロングを演じるライアン・ゴズリングも、ヴェネツィア国際映画祭のプレス会議にて、月面着陸は(「アメリカの功績」としてではなく)”国と国境を超越する”ものであり、映画製作陣は政治的声明によって作品に傷をつけたくないと考えていることを、表明している。さらにゴズリングは以下のように続けている。

「僕は、ニールが自分自身のことを英雄だと思っていたとは思わないんだ。それとは全く逆だったことが、彼の家族や彼を知る人へのインタビューをすることによってわかったんだ。そして僕たちはありのままのニール・アームストロングを映した作品にしたいと思ったんだ。」

『ファースト・マン』は今年10月12日に全米で公開、日本での劇場公開は来年2019年2月を予定されている。

参照
1 https://www.indiewire.com/2018/08/damien-chazelle-first-man-backlash-american-flag-moon-1201999617/

2 https://www.indiewire.com/2018/08/ryan-gosling-first-man-backlash-american-flag-neil-armstrong-1201999419/

三浦珠青
早稲田大学文化構想学部4年生。時間があれば本を読み映画を観ては眠っています。最近のマイブームは台湾映画と銭湯と日記をつけること。


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