イングマール・ベルイマン(1918-2007)生誕100年のメモリアル・イヤーとなった2018年、世界各国でレトロ・スペクティヴが開催されており、それは「[664]ベルイマン/アサイヤス」で紹介されている通りである。ベルイマン及びその作品と現代の私たちを巡る事柄のうち、今回はベルイマンを題材とした最新映画に注目したい。

 

 昨年、フランスの映画作家ミア・ハンセン=ラヴが“Bergman Island”(2019)と題された作品を制作すると報じられた。彼女は現在のパートナーであるオリヴィエ・アサイヤス監督『8月の終わり、9月の初め』(1998)で女優としてテヴューし、同監督の次作『感傷的な運命』にも出演したのち、自らメガホンを取るようになった。これまで『あの夏の子供たち』(2009)や『EDEN』(2014)、第66回ベルリン国際映画祭にて銀熊賞を受賞した『未来よこんにちは』(2016)などの監督を務め、ある戦争記者と一人の少女の出会いを描いた新作”Maya”(2018)が今年のトロント国際映画祭でプレミア上映を迎えるなど、その活躍ぶりには目を見張るものがある。そして通算第8作目となるのが最新作”Bergman Island”で、監督初の英語作品としても注目を浴びている。

 主役には、『EDEN』ぶりにハンセン=ラヴ作品への参加となるグレタ・ガーウィグ(『ハンナだけど生きていく』、『20センチュリー・ウーマン』)とジョン・タトゥーロ(『バートン・フィンク』、『ジゴロ・イン・ニューヨーク』)が起用されているようである。他にも、ミア・ワシコウスカやヴィッキー・クリープス、オーソン・ウィルソンやアンデルシュ・ダニエルソン・リーが名を連ねており、撮影は今夏行われるという。

 

 物語の舞台となったのは、映画の題が示すようにベルイマンが住んでいたというフォール島(スウェーデン)である。主人公はアメリカ人映画監督のカップルで、二人は夏の間を島で過ごし、ベルイマンにインスピレーションを与えた場所への巡礼行為として脚本を書いている。夏が過ぎ脚本が進むにつれて、大自然の景色を背景に現実とフィクションの境界線は曖昧になっていく(*1)。

 

 フォール島とは、スウェーデンの南東部、バルト海上に位置するゴットランド島のすぐ北にある島である。ベルイマンは1966年から生涯を閉じるまで、この島に住んでいた。彼は『鏡の中にある如く』(1961)の撮影ですでにこの地を踏んでいたが、ベルイマンとフォール島の結びつきが決定的となったのは『仮面/ペルソナ』(1966)であり、この作品をきっかけにパートナーとなったリヴ・ウルマンとともにフォール島に住むことになる。こうした経緯から、「シネフィルたちはベルイマンに敬意を込めて、この島を“ベルイマン島”と呼び始めた」(*2)。

 こうした“ベルイマン島”を題材とした作品としてまず挙げられるのは、マリー・ニーエレード監督による“Bergman Island”(2006)だろう。この作品は、映画監督を引退したベルイマンに関するドキュメンタリーで、大部分が彼の自宅で撮影されている。また、リヴ・ウルマンへのインタヴューとベルイマンの作品を織り交ぜて二人の軌跡に迫ったドキュメンタリー、ディーラージ・アコルカール監督『リヴ&イングマール ある愛の風景』(2014)も“ベルイマン島“で撮影されたものである。

 ハンセン=ラヴに話を戻そう。最新作“Bergman Island”の詳細が報じられたのは2017年5月であったが、The Guardianが行った『未来よこんにちは』に関するインタヴューのなかで、彼女は本作を示唆する発言をしていたようだ。該当記事(2016年8月30日付)によれば、インタヴュー当日の少し前まで彼女は“ベルイマン島”にいたといい、そこで“Bergman Island”という新作映画の脚本を書いていたということだ。この記事を執筆したXan Brooks氏は、彼女が、デヴュー作の監督であったオリヴィエ・アサイヤスとのちに結婚し、公私にわたるパートナーであることに言及し、次のように述べている。「面白いのは、私たち[記者とハンセン=ラヴ]が議論してきたすべてのこと、つまり監督同士のカップルにおける仕事上のそして私的な関係性に、この物語が触れているということです。もちろん、“Bergman Island”は彼女とアサイヤスについてのものではありません。けれども、彼女は一部の観客がこの映画をそのように見ることを受け入れています」(*3)。

 

 かつてSight&Soundに寄せたオールタイムベスト10本のなかに、ベルイマンの『ファニーとアレクサンデル』(1984)を挙げているハンセン=ラヴ(*4)。ベルイマンが過ごした地、フォール島を舞台に、どのように「あるカップルの物語」を描くのか。たとえ、ベルイマン/ベルイマン島とハンセン=ラヴの関係性が、物語と直接的に結びつくことがないとしても、そこにあるかもしれない映画史的繋がりを期待するのは私だけではないだろう。

 

 なお、現在ここ日本でも「ベルイマン生誕100年映画祭」が開催されている。上映作品リストには、ベルイマンがフォール島を舞台に撮影した『鏡の中にある如く』や『仮面/ペルソナ』、ハンセン=ラヴがオールタイムベストに選んだ『ファニーとアレクサンデル』も入っているということを最後に付言しておきたい。

 

 

 

ベルイマン作品に関するデータの日本語表記及びベルイマンに関する年譜は『ベルイマン』(小松弘、清水書院、2000年)を参考とした。

 

【註釈】

(*1)https://www.screendaily.com/news/gerwig-turturro-wasikowska-head-to-hansen-loves-bergman-island/5118030.article

(*2)http://www.dazeddigital.com/film-tv/article/38801/1/faro-island-bergman-mia-hansen-love-greta-gerwig

(*3)https://www.theguardian.com/film/2016/aug/30/mia-hansen-love-things-to-come-autumn-arts-preview-2016

(*4)http://www.bfi.org.uk/films-tv-people/sightandsoundpoll2012/voter/1064

 

【参考】

https://www.imdb.com/name/nm0361135/

https://www.tiff.net/tiff/maya/

http://www.lebleudumiroir.fr/bergman-island-mia-hansen-love-film-anglais/

 

 

原田麻衣

IndieTokyo関西支部長。

京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程在籍。研究対象はフランソワ・トリュフォー。

フットワークの軽さがウリ。時間を見つけては映画館へ、美術館へ、と外に出るタイプのインドア派。


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