[663] Brexit目前!英国映画産業のこれから


来たる2019年3月29日、イギリスはEUを離脱する。いわゆるBrexit(ブレグジット)だ。離脱まで1年を切ったいま、英国映画産業界はどのような心構えでいるのだろうか。

イギリスの映画業界といえば、2016年6月に行われた国民投票の前からBrexitに反対しており、俳優のパトリック・スチュワート、キーラ・ナイトレイ、ジュード・ロウや、映画監督のスティーヴ・マックイーンらが署名した反対声明が発表されたほどだ。近年のイギリス映画の製作は、EU諸国の優秀な人材や、助成金、豊富な撮影地に支えられてきた。Brexitが施行されたら、イギリスがこうしたEUの恩恵を受けることは難しくなるだろう。これは、近年イギリスで多くの作品を製作しているハリウッドにとっても懸念事項である。*1

しかし、国民投票から2年経った現在、イギリスのデジタル・アンド・クリエイティブ産業大臣マーゴット・ジェイムズは、Brexitに対してあまりネガティブになってはいないようだ。

「のんきに構えているわけではないですが、EU離脱がイギリスの映画産業に大きな影響を与えるとは思いません。特に、スタジオや税制優遇措置*2 に影響はありません。英国は、映画クリエイターにとって最も理想的な場所です。世界最高レベルのスタジオ、優秀なスタッフ、魅力的な租税制度というこの3つの要素がそろっている国は他にはないからです。」#1

ところが、やはりEUとの繋がりという面での課題は残っている。彼女も、英国人以外の役者やクリエイター、技術者といった人材が国外に出ていってしまうことは懸念しているという。

「VFXをはじめとするテクノロジーの分野については、国外の才能に頼っていることも確かです。内務省が積極的な移民政策を立てて、海外から必要な人材を引き続き採用できるようにしなくてはなりません。 Brexitにメリットがあることは間違いありませんが、同時に必要な才能にアクセスできる体制を保たねばなりません。」

このような状況において、映画業界とBritish Film Institute(BFI/英国映画協会)は、イギリスのインディペンデント映画を発展させるために、4つの提案を発表した。#2

・権利価値の最大化 – BFIの調査に基づき、製作会社、配給会社、放送業者を含む映画産業に関わる全ての人々の利益のために、あらゆる段階での権利の価値を最大にするための業界全体での協力を促す。

・若い世代の視聴者を惹きつけ、市場を成長させるためのプロジェクト – インディペンデント映画の観客層として弱い若者にアピールする。大手放送局とチケット販売サイトonscreenが組んだプロジェクト、the British Independent Film Awards(BIFA/英国インディペンデント映画賞)によるプロジェクトを推進。

・英国のインディペンデント系プロダクションに投資する新たな基金 – 欧州委員会は、BFIとは独立した関係にある新しい基金を創設し、投資家とプロダクションの利益を最大化することを目指すビジネス投資モデルを確立。

・BFI Film Fund、BBC Films、Film4以外からの出資を募る。ターゲットには、Pay TVや通信会社(Sky,、Virgin、 BT)、SVODプラットフォーム、個人投資家を含む。

また、この他にBrexitに関連して、下記の動きが奨励された。#3

・BFIは、Brexit後もイギリスがCreative Europe(EU諸国むけクリエイティブ産業振興計画)の後継プログラムに継続的に参加できるように、 英国政府がEurimages(EU諸国が共同出資しインディペンデントの映画製作を支援する機関)に再加入することを提案する。

・BFIは、Brexit後も、長年にわたる実りの多いパートナーシップを構築する機会を増強するために、共同製作条約(現在、中国とすすめられている)が結ばれている主要な国際地域に永続的に拠点を置くための資金調達を求める。

デジタル・アンド・クリエイティブ産業大臣マーゴット・ジェイムズは、こうした提言には以下のような意図があるという。#4

「『パディントン』から『God’s Own Country』まで、英国のインディペンデント映画は創造的に強力な存在であり、世界中の人が楽しめる映画を製作するとともに、現代の英国の豊富な多様性を伝えています。英国のトップレベルの設備、有能な労働力、競争力の高い納税救済措置により、英国の映画業界の今後の発展を支援していきます。」

BFIのCEO、アマンダ・ネヴィルは、「クリエイターが成功の機会をつかむための具体的なアプローチを発表できた」という。#5

「インディペンデント映画は、私たちの文化的な生き方を支えるものの一つです。映画は、クリエイターに、革新的なアイディアをかたちにする場所を与え、彼らは、英国のありのままの姿、今まさにこの国で起こっている物語を伝えることができます。
この産業の発展で、これからも境界を乗り越え、映画業界を広げていきたいと思います。」

Brexitに関して、依然として懸念点はあるものの、このような具体的な解決策を見いだした産業のトップたちは、あまり大きな心配はしていないようだ。しかし、これもこうしたBrexit後に向けた体制の整備が迅速にすすめばの話だ。順調に成長を続ける英国映画産業だが、Brexitの影響を最小限に抑えることができるのか。今後も注目していきたい。

*1
しかし、ハリウッドにとってBrexitは悪い影響ばかりではないようだ。2016年の国民投票後、米ドルに対するポンドの価値が下落していることは、ハリウッドにとっては好機となっている

*2
英国政府は、2006年から国内での映画製作に対して税金の25%を還元する税制優遇措置をとっている。

#1
https://variety.com/2018/film/news/brexit-margot-james-film-tv-netflix-1202807085/

#2,3,4,5
https://www.bfi.org.uk/news-opinion/news-bfi/announcements/commission-uk-independent-film

北島さつき
World News&制作部。
大学卒業後、英国の大学院でFilm Studies修了。現在はアート系の映像作品に関わりながら、映画・映像の可能性を模索中。映画はロマン。


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