<以下のURL先で『親愛なるバスケットボール』を全編視聴可能>
https://believeentertainmentgroup.com/portfolio-item/dear-basketball/

元NBA選手のコービー・ブライアントは2015年に現役引退を表明したが、同年に彼はDear BasketballThe Players’ Tribuneに掲載)と題された詩を書いた。そこには、彼のバスケットボールに対する愛情が綴られている。映画『親愛なるバスケットボール(原題:Dear Basketball)』はその投書を基に製作され、2017年に公開された短編アニメーション作品である。2018年の第90回アカデミー賞で、短編アニメーション賞を受賞した。
ブライアントは、この短編アニメーション作品でナレーションを担当している。さらに、アニメーターのグレン・キーンが監督を務め、ジョン・ウィリアムズが音楽を作曲した。ブライアントによれば、彼はDear Basketballの投書を基にした短編アニメーション映画の製作を決めた際に、すでにその音楽をウィリアムズに任せたいと考えていた。
ブライアントは、ウィリアムズの音楽について自分自身に問いかけ、さらにバスケットボールの経験と重ね合わせることで理解しようとした。

「私は自分に問いかけました。何がジョン・ウィリアムズの音楽を不朽にしているのか?ひとつひとつの楽器をどのように使っているのか?勢いをどのように作り上げているのか?バスケットボールの選手として、意識せずに多くのことを行っているということが本質的に試合を指揮するということであるのか?彼がどのように音楽を作曲しているのかについて彼に問いかけ、リーダーとして、チャンピオンシップの試合を勝利に導いたことに通じる何かを見つけ出そうとしたかったのです。」

最初にウィリアムズがブライアントに対して言ったこととは、自分はバスケットボールの試合を一度も見たことがないということであった。ウィリアムズは、ブライアントに誘われた際のことを次のように振り返る。

「2、3年前に、コービー・ブライアントから電話があり、彼と一緒に昼食を食べませんかと尋ねられました。自国の素晴らしい選手として彼のことを知っていたので、もちろんと答えました。しかし、プロのバスケットボールの試合を一度も見たことがありませんでしたので、『これはとても異例のことだ』と思いました。」

実は、ブライアントには、ウィリアムズと会うことを決めた動機があった。自分の娘たちに聴かせている音楽の作曲家と共に、映画を製作したかったのである。

「(映画『ハリー・ポッター』からの)『ヘドウィグのテーマ』は、ナタリア、ギアナ、今ではビアンカを寝かしつけてくれます。私は自分の胸に娘たちを寝かしつけ、その音楽を口ずさみます。その響きが娘たちをリラックスさせてくれます」とブライアントは述べる。また、彼は少年時代に首にタオルを巻きつけて、「スーパーマンのテーマ」を流しながら、走り回っていた。

作曲家のウィリアムズと元NBA選手のブライアントは、予想ができないような2人組であるが、彼らは長年にわたってウィリアムズのコンサートのバックステージでお互いに顔を合わせていた。
ウィリアムズは、金曜日の夜にハリウッド・ボウルで開催された毎年恒例の映画音楽のプログラムの中で、その5分間の音楽を初演奏し、ブライアントがサプライズで登場した。ウィリアムズとロサンゼルス・フィルハーモニックが映画に合わせて演奏を披露している間に、彼はナレーションを務めた。

ブライアントは、最初に自分に対してウィリアムズが述べたことを思い出した。「古典的な音楽を書きます。手書きですべてを書き上げます」とウィリアムズから言われたことに対して、彼は、「その作品は、グレン・キーンによる手描きのアニメーションになる予定です。アニメーションの空間において、(手を使うという点に関して、)彼はあなたと同様です。その作品には人間の手触りがあって欲しいのです。ポピュラー音楽が付いていたり、ヒップホップ音楽が付いていたりして欲しくありません。不朽である古典的な音楽が欲しいのです」と返答した。

5分の短編アニメーションを描き、監督を務めたグレン・キーンは、アニメーションとしての『親愛なるバスケットボール』が製作に至るまでの経緯を以下のように述べる。

「コービーは、全世界の誰にでも電話を掛けることができます。彼は自分がしようとしていることについて話すために、ジョンに電話をしました。彼らは友人となり、コービーが引退をする時が訪れ、彼は短編アニメーションを製作したいと考えました。ジョンと私が興味を持つのかを見極めるために、我々に話を持ちかけたのです。」

長きにわたってディズニーのアニメーターであったキーンが担当したキャラクターたちは、『リトル・マーメイド』、『美女と野獣』、『アラジン』、『ポカホンタス』などの作品を支えた。その彼は、2016年の春に短編アニメーション『親愛なるバスケットボール』に取り掛かった。

「彼(ブライアント)は私の小さなスタジオにやって来ました。とても不思議でした。コービーと私、そして、私とジョンは、20歳も年齢が離れていました。そこにいた我々は、3世代を跨いでいたのです。しかし、私が思うに、ちょっとばかり、ひとりひとりは自分が行うことを心から愛する子供のように感じました。」

紙の上でグラファイトを使いながら、キーンはまったくの手描きでブライアントの投書の物語を描いた。幼いブライアントが、チューブソックスを巻き付けて作ったボールを投げるところから、37歳で引退するNBAでの栄光までの物語である。キーンは相応しい鉛筆を見つけるために日本を訪れた。そして、アニメーション監督である宮崎駿が使っている鉛筆と同じものを使うことを決めた。それは三菱の鉛筆であった。キーンは以下のように説明する。

「初めから、コービーは、できるだけ手製にこだわりました。だから、鉛筆を使って手で描くことは、とても大切だったのです。とても編み込まれたようなスタイルで、芸術的側面が強いのです。作曲家もまた、ただシンセサイザーを使うのではなく、オーケストラの本当の楽器を扱う人物を採用することは、とても重要だったのです。とても個人的なことなのです。」

ウィリアムズもまた、リビングルームのピアノで作曲をし、オーケストラの楽器を書き留める際に、鉛筆と紙を使って書いた。

「私の作曲方法は、とても多くの人手を要します。シンセサイザーやコンピュータなどを持っていないからです。すべて自分の手で行います。控えめに言っても、古いやり方です。」

キーンは、描写することを「自分の心の地震計」と述べる。描いた感情を記録するからである。

「その映画を描き、アニメーションにする過程に、約9ヶ月を掛けました」とキーンは述べた。2017年1月に、音楽に関する詳細な話し合いが始まった。そのスコアは、ソニー・スコアリング・ステージで、3月にレコーディングされ、ブライアントとキーンは、レコーディングのために同席していた。ブライアントは、ソニー・スコアリング・ステージで初めてオーケストラの演奏によって音楽を聴いたが、そのときのことを次のように回想した。

「信じられないと、冷静さを失いそうでした。彼の両手が上がり、音楽が始まった瞬間、大声を上げそうになりました。しかし、赤いライトが点灯し、レコーディングをしていることを気に留めておかなければなりませんでした。」

一方で、アニメーターのキーンは、そのレコーディングの瞬間を捉えるためにスケッチを描いた。

「コービーは目を閉じ、ジョンは、ユニークに、彼らしくそこに立っていました。彼の威厳がそこにはありました。彼は、腕を上げながら、自分の足をとても近くで揃えて、そこに立っていました。私は、スケッチにそのすべてを捉えようとしました。彼は、自分の腕の中にオーケストラを抱えていました。」

ウィリアムズは、「彼(ブライアント)の音楽を書くために、『スター・ウォーズ』のスコアを書くのを中断しました。コービーは、とても寛大に、その音楽をレコーディングするためのオーケストラを提供してくれました」と話す。そのとき、ウィリアムズは、公開予定であった『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』のスコアを書いている最中であった。
キーンは、そのウィリアムズの音楽について、イタリア語の言葉を当てはめながら、説明する。

「短編ですが、コービーの驚くべき人生を描くとてもエモーショナルな小さな映画のために、『スター・ウォーズ』のオーケストラが使われたと考えると、とても素晴らしいです。ジョンは、私がアニメーションで試みようとしていたこと、コービーがナレーションでもたらしてくれていると私が思っているものを本当に支えてくれました。イタリア語の言葉を用いるならば、“sprezzatura”であると思います。『芸術を隠す芸術』を意味する言葉です。彼の音楽は、感情を昂ぶらせます。ステージの中央に彼の存在はありませんが、彼の音楽の力をとてつもなく体感するのです。」

ウィリアムズは、レコーディングの後に次のような言葉を残している。

「この映画において大切なのは、コービーの人生は意義深く、貢献をし、インスピレーションを与えてくれるということの伝達です。選手になることを望む若者たちだけでなく、一般のすべての年代の人々へ向けているのです。」

ブライアントは、引退後、物語のアウトラインの中に自分自身を流し込んだ。彼のグラニティ・スタジオは、その物語を様々なメディアに向けて展開している。彼は、再度、ウィリアムズを雇うことを望んでいる。コービーにとって、ウィリアムズは家族の一員のような存在であるという。

「ウィリアムズは、たとえ知り合いでなくても、長年にわたって自分たちの家族の一員です。実際に、私が書いた詩に彼は音楽を作曲してくれ、オーケストラと共にレコーディングを行う彼を見ました。… 私がこれまで経験した中で、現実とは思えないほどの最も素晴らしい経験でした。」

参考URL:

http://www.latimes.com/entertainment/arts/la-et-cm-kobe-bryant-dear-basketball-20170902-htmlstory.html

http://www.indiewire.com/2018/01/dear-basketball-nba-kobe-bryant-animation-glen-keane-1201915591/

https://www.fastcompany.com/40492491/what-kobe-bryant-learned-from-his-new-mentor-film-composer-john-williams

http://www.filmmusicsociety.org/news_events/features/2017/083017.html

http://www.animationmagazine.net/events/dear-basketball-an-all-star-team-up/

https://variety.com/2018/film/spotlight/kobe-bryant-scores-with-composer-john-williams-for-dear-basketball-1202662215/

http://projectorandorchestra.com/kobe-john-and-glen-the-maestros-behind-dear-basketball/

http://www.animationmagazine.net/top-stories/dear-basketball-gets-lauches-on-go90/

http://dearbasketball.com/

https://www.theplayerstribune.com/en-us/articles/dear-basketball

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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