[World News #179] アメリカ4大会社が上映を拒否、ネットストリーミングサービスの行方は?

アメリカの4つの主要映画館運営会社がCary Fukunagaの『Beasts of No Nation(原題)』の公開を拒否したことが話題となっている。

AMC、Regal、Cinemark、Carmikeというアメリカ国内のほとんどの映画館を運営している会社がこの作品に怒っている。と言うのは、アメリカでは通常「大小の映画館で上映されてから少なくとも90日間はオンライン配信をしない」という取り決めがあったにも関わらず、『Beasts of No Nation』が映画館での封切りと同日にネットフリックスによって配信されることが決まったからだ。※1

ネットフリックス(NetFlix)はアメリカの映像ストリーミングサービスであり、アメリカ国内で3120万人、全世界で4040万人の顧客を抱えている。加入者数は年々増加しており、アメリカ国外にも配信している。今秋からは日本でもサービスが開始されるそうである。

Cary Fukunagaの前作『True Detective』の成功は、アート映画を好む観客によるところが大きかった。『Beasts of No Nation』もいわゆるアート映画であり、イドリス・エルバが主演を演じていることから、公開を楽しみにしていた映画ファンは多かっただろう。今回の映画館側のボイコットがなければ少なくとも200以上の映画館で上映されただろうと言われている。※2

ネットフリックスに作品を売ることに決めたプロデューサーからのコメントが寄せられている。
「この映画は、ネットフリックスの力を大いに借りることとなるだろう。従来の方法をとるよりも、ネットフリックスで配給した方が、よりたくさんの、そしてよりさまざまな世代の人に見てもらえるに違いない。
この新しい映画の配給方法は、映画界を変えることになるだろう。人々が映画や芸術が外に出ずとも自分のところまで運んできてもらえるということに気が付くきっかけとなるのだ。その可能性がネットフリックスのようなストリーミング配信サービスにはある。」

こうしたネットフリックスと『Beasts of No Nation』のやり方を肯定している人もいる。アメリカでミニシアターを経営しているLeague氏は、昨夏に公開されたポン・ジュノ監督『スノーピアサー』の成功は、まだ映画館で上映しているうちにオンデマンド配信を開始したことに依ることを挙げ、またアメリカでは映画館に行く習慣がある程度根付いており、映画館での封切りと同時にネット配信をしたとしても映画館に行かなくなることはないだろうから、映画館での上映に限らずたくさんの人に映画を見てもらうことが重要であると述べている。ネットフリックスは競争相手ではなく、映画を見せるという目的で協力関係にあるべきだというのだ。※3

オスカーの母体である映画芸術科学アカデミーは、教育のためにも映画はDVDではなく大きなスクリーンで上映されるべきだとしている。さらに、とりわけ映画館の存続という観点から言えば、この映画は従来の方法で公開されるべきだっただろう。映画館は多くの観客を失ったのだ。そして映画関係者は、FoxとFocusのような配給会社が映画館の上映にこだわらず、より多くの観客に作品を見てもらうことにシフトしたと感じたに違いない。

劇場公開は一部の作品に限られ、ネットフリックスのようなネット配信が主流になる未来も考えられる。これから観客たちがどのように映画を見るようになるか、この「事件」が何らかの転換点になることは間違いない。

※1
http://www.theguardian.com/film/2015/mar/04/netflix-beast-of-no-nation-boycotted-idris-elba
※2
http://variety.com/2015/film/news/major-theater-chains-to-boycott-netflixs-『Beasts of No Nation』-1201445636/
※3
http://blogs.indiewire.com/shadowandact/major-usa-theater-chains-say-they-will-boycott-netflixs-beasts-of-no-nation-20150304

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http://blogs.indiewire.com/thompsononhollywood/why-netflix-shelled-out-for-cary-fukunagas-beasts-of-no-nation-20150303

則定彩香
IndieTokyo雑用係長、WorldNews部門、新文芸坐シネマテークゆるキャラ(のりさだちゃん)、オルタナS執筆、ときどき取材カメラマン。横浜国立大学人間文化課程にてフランソワ・トリュフォー作品を研究中。


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