ジャン=リュック・ゴダールといえば、今年の5月8日から開催される第71回カンヌ国際映画祭のポスターに『気狂いピエロ』(1965)のジャン・ポール・ベルモントとアンナ・カリーナのキスシーンが使用されることが明らかとなったが、本コンペティション部門に新作“Le Livre d’image”(イメージの本)が出品されることもまた決定している。昨年の段階ではまだタイトルが確定しておらず、“Tentative de bleu”(青い試み)や“Image et Parole”(イメージと言葉)、“Papyrus”(パピルス)などの仮題が公表されていた本作は [1]、チュニジアを含むアラブ諸国で撮影され、アラブ世界に関する考察を促すドキュメンタリー作品になるという。[2][3]

 

 

4月12日、Casa Azul FilmsのWebページ上にて “Le Livre d’image”に関するなんとも謎めいた4枚の画像が公開された [4]。トップに据えられている画像はメインタイトルであるが、カンヴァスらしき背景は紺色の絵の具で筆跡を残しつつ塗りつぶされ、その上にタイトルである“LE LIVRE D’IMAGEという文字が二行で描かれている(「LE LIVRE D’」が赤い色、「IMAGE」が白い色で描かれている)。

メインタイトルの下、カンヌ映画祭のロゴを挟んで配置されている最初のモノクロ画像(画像名LeLivredimage_doigt)に映し出されているのは、人差し指で上方を指し示すふくよかな右手である。堀潤之によると、これはレオナルド・ダ・ヴィンチ《洗礼者ヨハネ》St. John the Baptist (1513-16)の一部であるという[5]。ゴダールは右手だけを切り取った上、モノクロに加工しているようだ。

また、その下に配置されている二番目のモノクロ画像には、映写機のフィルムが映し出されている(画像名LeLivredimage_pellicule)が、これはゴダール自身が『映画史』(1998)の3B「新たな波=ヌーヴェル・ヴァーグ」において、セルゲイ・エイゼンシュテイン『メキシコ万歳!』(1931=1979)のフッテージと組み合わせて使用したものだという[6]。

さらに、“IMAGE ET PAROLE”(イメージと言葉)という言葉を挟み、その下に配置されているのは、ドイツ表現主義のようなタッチで描かれた絵画の画像である。これは青騎士アウグスト・マッケの《明るい家》Das Helle Haus (1914)の一部であるとされるが、これもまた拡大され、彩度が上げられ不鮮明なかたちで切り取られている[7]。

 

 果たしてこれらの一連の画像は一体何を意味するのだろうか。タイトルがカンヴァス上に記され、ダヴィンチやマッケの絵画が引用されていることから、“Le Livre d’image”は絵画に関する言及がなされることは間違いなさそうである。ゴダールはインタビューにおいてそうした可能性を示唆するが、しかしそれは長い導入のあとに行われるのだという[8]。

 ゴダールは本作品の構成を手に例えている。長い導入は五本の指に例えられ、そのあとに最終章としての手があり、全体は全六章で構成されるという。ここで言われている五本の指としての5つの要素とは、戦争、旅行、法、モンテスキューによる『法の精神』、マイケル・スノウの『中央地帯』(1971)であり、それに続く最後の手の章では、『幸福のアラビア』という本に関する小さな物語=歴史histoireが語られるという。「幸福のアラビア」とは、古代ギリシャ・ローマ時代の地理学者たちが、イエメンを含めたアラビア南半島を呼ぶさいに使用した用語であり、ここでアラブ世界に関する考察について語られるのではないかと考えられる。

 

 ゴダールは、“Le Livre d’image”において俳優を用いなかったという。The Gardianはこの作品を、彼が近年多くの作品で用いる「ヴィデオ・エッセイ」形式の映画であると伝えている[9]。かつてクリス・マルケルと仕事をしたゴダールは、俳優を使用せず、ヴィデオ・エッセイという形式を用いることで、知性によって観客に一種の寓話である物語=アラブ世界についての理解を促そうとしているのかもしれない。ゴダールはこう語る。「本の一節に耳を傾けると、本の一節を読んでいるかのように語りかけるナレーターがあります。人はそこで、一種の寓話である物語=歴史を少しだけ理解するのです。」[10]

 

 

 

[1] http://www.debordements.fr/Jean-Luc-Godard-608

[2]http://www.lefigaro.fr/cinema/2017/07/05/03002-20170705ARTFIG00171-un-film-meconnu-de-godard-sortira-en-salle-a-la-rentree.php

[3]https://www.screendaily.com/news/new-jean-luc-godard-omar-sy-films-on-2017-wild-bunch-slate/5112472.article

[4] http://casa-azul.ch/wordpress_X/livre-dimage/

[5] https://twitter.com/soignetongauche

[6] https://twitter.com/soignetongauche

[7] https://twitter.com/soignetongauche

[8] http://www.debordements.fr/Jean-Luc-Godard-608

[9]https://www.theguardian.com/film/2018/apr/12/cannes-announces-2018-lineup-godard-spike-lee-lack-of-women?CMP=Share_iOSApp_Other

[10] http://www.debordements.fr/Jean-Luc-Godard-608

 

その他参考URL

http://indietokyo.com/?p=6418

https://www.lesinrocks.com/2018/04/news/des-premieres-visuels-du-livre-dimage-le-nouveau-godard/

 

板井 仁
大学院で映画を研究しています。辛いものが好きですが、胃腸が弱いです。趣味は寝ること、最近よく聴くフォーク・デュオはラッキーオールドサン。


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