この春、スティーブン・スピルバーグ監督の映画が2本公開される。3/30(金)公開の『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』と、4/20(金)公開の『レディ・プレイヤー1』だ。連続してスピルバーグ監督作が公開されるのは、1993年の『ジュラシック・パーク』と『シンドラーのリスト』以来。当時と同じく、両作は、ほとんど同時進行で製作された。
まずはじめに製作が始まったのは、『レディ・プレイヤー1』。本作は、2045年、環境破壊や政治腐敗により荒廃した世界で、“オアシス”と呼ばれるゲームのVR世界に没頭する人々を描いた、アーネスト・クラインのベストセラー小説の映画化だ。物語は、オアシスの創始者が、ゲーム内に隠したイースターエッグを見つけた者に、彼の莫大な遺産を贈ると告知、現実をも巻き込んだプレイヤーたちの死闘を描く。
2015年3月にスピルバーグ監督がメガホンを取ることが決まり、2016年9月末には撮影が終了、ポストプロダクションに入る。この作品の肝であるVR世界を表現するための作業は、監督自身が「『プライベート・ライアン』以来、最も大変だった」というほど難航したという。*1
日本からメインキャストに抜擢された森崎ウィン演じるDaitoが三船敏郎をアバターにすることでも話題になっているVR世界には、多くの作品やキャラクター、特に80年代カルチャーへのオマージュが見られる。 そこには、スピルバーグ自身の作品も含まれているが、彼は自分の作品を取り入れることには慎重だったようだ。原作・脚本のクラインは、「彼の作品を映画に出すよう説得するのは、おかしな体験だった」という。
「彼は『1941』の中で自分の作品をパロディ化したが、批評家から酷評された。それで、もう二度と自分の作品は登場させないと決めたんじゃないかな。それでも、僕はあなたの映画がなかったら、この作品は書けなかったと熱意を伝えたんだ。そうしたらイエスと言ってくれたよ、特に自分が監督でなく製作した作品にはね(笑)」*2
こうしたディテールへのこだわりのため、監督はVFXチームと毎週3時間にわたるミーティングを行っていたそうだ。そんな中、スピルバーグ監督は、「今すぐ伝える必要がある物語だと強く感じた」*3 という脚本に出会う。それが『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』だ。
映画の舞台は、拘泥化するベトナム戦争への不満が高まる1971年のアメリカ。戦争を記録、分析した機密文書「ペンタゴン・ペーパーズ」を隠し、人々から真実を知る権利を奪おうとする政府に立ち向かった、ワシントン・ポストの記者を描く。
「この映画が緊急を要すると思ったのは、今の政府が、マスコミを攻撃し、自分の都合のいいように真実を嘘だと結論づける気運があるからなんだ。僕は”オルタナティブ・ファクト(もう一つの真実)”というハッシュタグにひどく憤慨した。なぜなら僕が信じているのは、ただ一つ、客観的真理だけだからだ。」*4
監督が初めて脚本を読んでから約10か月というスピードで製作された本作がタイムリーに感じられるのは、報道の自由に関する問題だけではない。メリル・ストリープ演じるキャサリンの生き様だ。亡くなった夫に代わりワシントン・ポストを経営することになった彼女は、女性であるというだけで、男性中心のオフィスで見下され、ぞんざいに扱われる。しかし、彼女はそんな状況に真っ向から立ち向かい、最後には、オフィスの誰もが耳を貸す、決断力のある、強い意志をもった女性へと変容する。そんな彼女の姿は、まさに「Time’s Up」のロールモデルとなるものだ。スピルバーグ監督は、脚本を読んだ時点では、今の状況は予想していなかったという。
「当時は、このムーブメントが起こる前だった。ハリウッドでのこうした問題は長いあいだ起きていたんだろうけど、ここまで大きな動きになるのは初めてだ。僕の会社で問題が起きたときは、いつでもすぐに処分を下してきた。そして、いま僕の会社は女性によって運営されている。女性が経営する会社だと、男性は不適切な行動が取りづらくなるということを発見したよ。」*5
かつての『ジュラシック・パーク』と『シンドラーのリスト』のように、両者はまったくタイプの違う映画だ。彼自身、何が一プロジェクトを”スピルバーグ監督作”にすると感じているのだろうか。
「自分についてのドキュメンタリー* を見ても、正直わからないんだ。どんなプロジェクトに自分が魅力を感じて、何が僕のスイッチを入れて、イエスと言わせるのか。確かに、恐竜や勇敢な考古学者は、特徴的だね。でも、もう一度いうけど、ドキュメンタリーを見ても答えを見つけることはできなかったんだよ。」*6
彼の言葉は、うらをかえせば、彼自身が“スピルバーグらしさ”を限定していないということではないだろうか。だからこそ、彼はバラエティ豊かな作品を、常に新鮮な驚きとともに届けてくれる。70歳をすぎても衰えることのない彼の好奇心に、胸が打たれる。この春、また新しいスピルバーグ監督に会いに、ぜひ劇場に足を運んでほしい。
* 昨年、HBOで製作・放送されたスピルバーグ監督のドキュメンタリー『Spielberg』。スーザン・レイシー監督が2年以上、彼を追った。
『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』 3/30(金)公開
https://www.youtube.com/watch?v=vOb8MKgB1qY
『レディ・プレイヤー1』 4/20(金)公開
https://www.youtube.com/watch?v=BlTCXShunpI
*1
http://www.indiewire.com/2017/11/steven-spielberg-the-post-ready-player-one-ben-mendelsohn-arthur-miller-writer-1201895214/
*2
https://www.google.co.jp/amp/s/www.hollywoodreporter.com/amp/heat-vision/ready-player-two-ernest-cline-talks-ready-player-one-sequel-1088676
*3
https://www.hollywoodreporter.com/news/post-steven-spielberg-tom-hanks-meryl-streep-unveil-at-first-screening-1060135
*4,5,6
https://www.theguardian.com/film/2018/jan/19/steven-spielberg-the-urgency-to-make-the-post-was-because-of-this-administration
北島さつき World News&制作部。 大学卒業後、英国の大学院でFilm Studies修了。現在はアート系の映像作品に関わりながら、映画・映像の可能性を模索中。映画はロマン。
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