日本でも今年の6月に公開の決まった『レディ・バード』は、本日(2/28)フランスでも公開された。例えばLe monde紙はこの作品を「ここではないどこかへの抑えきれない欲望」と称し、「監督グレタ・ガーウィグは公正さと繊細さをもって1人のアメリカの少女の激しく揺れ動く青春時代にアプローチしている」と評価している。(#1)The Guardian紙のレビューにおいて「青春時代の魅惑的な肖像画」と評されているように(#2)、このような形容は非常にありきたりではあるが、それゆえに作品の本質を的確に表しているとも言えよう。その他、ストーリーなどの情報については日本版HP(#3)を参照されたい。今回の記事では監督グレタ・ガーウィグによるさまざまな媒体でのインタビューをいくつかのポイントに絞って編集し、作品の主要な特徴を紹介したい。

まず簡単にプロフィールを紹介しておくと、カーウィグは元々女優としてすでに活躍しており、例えば日本では『フランシス・ハ』や『20センチュリーウーマン』への出演などで知られている。中でも『フランシス・ハ』においては脚本を共同で執筆しており、それ以前にも5回ほど共同脚本を務めてもいる。しかし単独での脚本・監督としては『レディ・バード』がカーウィグにといって初の作品となる。また先日ベルリン国際映画祭において上映されたウェス・アンダーソン監督による『犬ヶ島』でも声優を務めている。(#4)

・作品の着想について
「正確にいつ頃書き始めたのはわからないけれど、2013年の終わりには草稿はありました。それは非常に長いもので、ずっと私のコンピューターに居座っていたのですが、350ページもある『母と娘』という極めて退屈なものです。私は直感で書く傾向があったので本当に完成するまではどのようなものになるのかわかりませんでしたが、その種の神秘性が私の関心を惹き続けてくれました。私はサクラメントについて何か書きたいと思っていたし、母と娘について何か書きたいとも思っていたのですが、それはすべて私が知っていたことでした。」(#5)


・2002年という設定について
「私はある物語の終わりとまた別の物語の始まりを示したかったのです。この恐ろしい時代はアメリカの中流クラスの貧窮やイラクへの軍事的介入、そしてソーシャルネットワークの始まりと一致します。構想としてこの時期を選択したのはそれ(ソーシャルネットワーク)について話す必要がないからです。私にはインスタグラムやスナップチャットに自身の時間を費やす子供たちとどうやって映画を作ればよいのかわからないのです。またパソコンを撮影したいとも思いません。私の世代はフェイスブックなしで成長した最後の世代なのです。今日、私たちの生活はあらゆる範囲の情報に影響され、ウェブによってゆがめられています。どのように着飾るのか、何を食べ、何を考え、誰を、どのように愛するのか?こんなことはばかげています。」(#6)

・高校生活という題材について
「私は次のような事実を探求してみたかったのです、つまり、あなたがティーンネイジャーだったら,あなたは他者からの反映を通して自分が誰であるのかを理解しようとするだろうということです。それはさまざまな関係性や、特には自身に近しい人物を排斥することを通じて自己の定義を捜し求めることです、なぜならあなたはほかの誰かのほうが自分より優れていると確信しているのだから。つまり他者とは、自分にとってより良い自分を反映しているのです。」(#7)

・自身と主人公との関係について
「(あなたはレディ・バードなのかと問われて)いいえ。私はサクラメント出身だし、そのような(自身がカトリックの学校で教育を受け、作中に登場する恋人のような人物と付き合い、東海岸のトップ大学へ入学するといった)事実は正しいです。(中略)しかしそんなことはどこにもなかったのです。ある意味では、私はレディ・バードの正反対の側にいました。環境は似ているけれど、私は本当に従順で、愛想のよい子供でした。私は決して誰にも別の名前で呼ぶように仕向けたことはなかったし、髪を鮮明な赤色に染めたことなどありません。(中略)様々な意味において、レディ・バードのようなキャラクターを書き上げることは、信じられないくらい欠陥を抱えた、しかしまた信じられないくらい勇敢で、私には完全にそのような能力のなかったことをやってのけるヒロインを造形することであったかもしれません。」(#5)


・主人公の母親について
「私が本当にやりたかったことは、ある人物にとって到来する年月とは、また別の人物にとっては去っていく年月であるという考えを捕まえることです。また私は母親というキャラクターを、一般的に映画の中で登場する天使や悪魔のようなカテゴリーのものに落とし込みたくはなかったのです。その母親像は世界において、私が大半の母親を見る仕方とも違うのです。私は大半の母親は、ベストを尽くし、間違いを犯し、選択を続ける存在だと思っています。私はたとえレディ・バードが、あるいは彼女の母親が間違ったことを言い、間違ったことをしでかしたとしても、観客に彼女らが悪い人物だとは決して思ってほしくはないのです。」(#7)

#1
http://www.lemonde.fr/cinema/article/2018/02/27/lady-bird-un-irresistible-desir-d-ailleurs_5262961_3476.html
#2
https://www.theguardian.com/film/2018/feb/18/lady-bird-review-greta-gerwig-saoirse-ronan-laurie-metcalf-observer
#3
http://ladybird-movie.jp/
#4
https://en.wikipedia.org/wiki/Greta_Gerwig
#5
http://collider.com/greta-gerwig-lady-bird-interview/#shape-of-water
#6
http://madame.lefigaro.fr/celebrites/interview-greta-gerwigdans-realisatrice-lady-bird-video-bande-annonce-200218-147289
#7
https://www.npr.org/2018/02/19/587121715/-em-lady-bird-em-director-great-gerwig

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嵐大樹
World News担当。 東京大学文学部言語文化学科フランス文学専修3年。 好きな映画はロメール、ユスターシュ、最近だと濱口竜介など。 いつも眠そう、やる気がなさそうとよく言われます。


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