[585]大人気テレビアニメが抱えるホワイトウォッシング問題


『リック・アンド・モーティー』シリーズ脚本家の一人、ジェシカ・ガオが前回のシーズンで、「ピクルス・リック」というエピソードを書いたとき、ウォン博士というキャラクターが新たにつくられた。当初、その声優にはアジア系アメリカ人女優を起用する方向だったが、結局オスカー女優のスーザン・サランドンが起用された。しかもキャラクターの名前は変えられなかったため、白人の女優が中国系アメリカ人であるウォン博士を演じるという事態になってしまったのである。

                     ウォン博士

「私がウォン博士を生みだしたのは『リック・アンド・モーティー』にアジア人のキャラクターを登場させたかったからなのに。」ガオは言う。「私はどうしてもアジア人の女優に仕事を与えたかったのよ。」

白人の俳優に非白人のキャラクターを演じさせるというハリウッドの奇妙な慣習(ホワイトウォッシング)の問題は、実写映画についてはすでに激しく議論されている。(『アロハ』におけるエマ・ストーンや『ゴースト・イン・ザ・シェル』のスカーレット・ヨハンソンなど)しかし、アニメの世界ではいまだにホワイトウォッシングの慣習は根強い。

非白人のキャラクターを演じている白人の俳優たちの中には、『ファミリー・ガイ』(4シーズンにわたるスピンオフ作品『クリーヴランド・ショー』にも登場する)に登場するアフリカ系アメリカ人のキャラクター、クリーヴランド・ブラウンの生みの親であり、その声を担当しているマイク・ヘンリーや、『ボージャック・ホースマン』のヴェトナム系アメリカ人作家、ダイアン・ングイェンの声を担当する白人女優アリソン・ブリー、『ザ・シンプソンズ』に登場するクイックEマートの南アジア系の店主、アプー・ナハサピーマペティロン役にスター俳優、ハンク・アザリアなどがいる。

 

「ある特定のキャラクターとかショーが大好きな人はこの問題を具体的な事例と混同して捉えてしまうことがあると思う。でもこの問題というのは、作品における非白人の人々の登場が構造的に欠如しているということなのよ。」とガオは語る。「みんなそれを意識するようになってきた。けれど変化のスピードはとても遅いわ。」

長い間先延ばしにされてきた議論が、これらの番組においてやっと起こりつつある。現場責任者たちは、作品への現実の反映において肝心の点を欠いていたことに気付き始めている。まずは非白人のキャラクターを番組に加えることから始めなければならないが、そのキャラクターの役を白人俳優にあててしまっては、あまり意味がない。

最近のテレビ批評家協会のPR巡業の中で、アザリアは記者に『ザ・シンプソンズ』はアプーというキャラクターの将来をどう方向付けるかについて慎重に考えていると語った。「誰か一人でもアプーというキャラクターがきっかけでいじめられたりからかわれたりした人がいるということ、その声、キャッチフレーズ(シンプソンズのファンなら誰もが知っているアプーのセリフ「サンキュー、カムアゲイン」はシリーズ中で8回しか使われていないにもかかわらず、彼のキャッチフレーズとなった)などが苦痛だ。」

       アプー・ナハサピーマペティロン            ハンク・アザリア

アプーが白人の俳優によってその声を吹き込まれていることは問題の一部に過ぎない。長年の間、多くの視聴者が南アジア系の人に関するステレオタイプに対して委縮してきた。「私たちはそれについて話しあいました。」アル・ジーン(『ザ・シンプソンズ』制作をつとめる脚本家の一人)は彼の作業場について話す。「キャラクターたちによって傷つく人がいる、ということを私は重く受け止めます。しかし一方でそのキャラクターが大好きな人もいます。難しい判断です。人を傷つけたくはありませんが、面白さを失いたくはありません。私たちは常に完全に政治的に正しくありたいわけではありません。そんなのは私たちではありません。この、南アジア系の人についてのステレオタイプの問題は私たちに様々な考えをもたらしました。」

インド系アメリカ人のコメディアン、ハリ・コンダボルは彼の映画『The Problem with Apu』(ハリ・コンダボルが南アジア系セレブリティの、アジズ・アンサリ、ハサン・ミナージュ、ミンディ・カリングらにアプー、そしてステレオタイプについてインタビューなどを行ったドキュメンタリー映画)の中でこう語る。「私は『ザ・シンプソンズ』がずっと大好きでした。アプーは『ザ・シンプソンズ』の中で最も賢いキャラクターの一人だと思っています。でもみんなが彼を好きだったのは、それが理由ではありません。彼らはただアプーのアクセントが好きだったのです。」

http://www.harikondabolu.com/2017/09/theproblemwithapu/

https://youtu.be/zGzvEqBvkP8

アル・ジーンはこうも語る。「『ザ・シンプソンズ』ではこれからより多くのキャラクターをそのキャラクターに応じた民族的背景をもつ俳優たちが演じることになると思っています。しかし規範やルールは破られ続けるべきだと考える人がいるように、私もまた、この人種や民族に関するルールが杓子定規の厳しいものになってしまうのは望みません。私たちのショーでは、ケヴィン・マイケル・リチャードソンはアフリカ系アメリカ人ではない役を担当しています。」

 

           ジェローム       ケヴィン・マイケル・リチャードソン

『ファミリー・ガイ』製作総指揮のリッチ・アッペルは、彼はアニメとは「肌の色、性、民族的背景を見えないようにした」ものだと考えている。そしてクリーヴランドはヘンリーの知り合いの変わった声をした男をモデルにつくられたキャラクターだと話す。「マイクほどうまくやれるやつはいない。あのキャラクターはあの声をもって生まれたんだ。」主人公のクリーヴランドをマイク・ヘンリーが演じているほかは、『クリーヴランド・ショー』の残りのキャラクターは全てアフリカ系アメリカ人が担当している。アッペルはこう言う。「これから、私たちが特定の民族的背景をもつキャラクターをつくるということになれば、おそらく同じ民族的背景をもつ役者を起用するでしょう。」


        クリーヴランド                  マイク・ヘンリー

『ザ・シンプソンズ』と『ファミリー・ガイ』は両作品とも、数十年前、つまりホワイトウォッシングが今ほど一般的に問題視されていなかった時代に生まれた。そのことは、ホワイトウォッシングを正当化しないが、最近のアニメプロデューサーがホワイトウォッシングが暗黙のうちに許されていると感じるのか説明してくれる。

 

「彼らは漫画のキャラクターであって、描かれたものです。自分の望むままに、彼らをどのようにも見せることができます。」ガオはそう言った。「だから、白人ではないキャラクターを描くことが恣意的に感じられるのです。そして私は、もっと多くの非白人の俳優たちが仕事を得るようになったとしても、全く何の問題もないと思っています。しかし、実際には俳優業界はあらゆる面で白人の俳優によって支配されており、非白人の俳優たちのための役がほとんどありません。だから問題なのです。」

 

         ダイアン・ングイェン               アリソン・ブリー

『ボージャック・ホースマン』に関して、クリエイターのラファエル・ボブ=ワクスバーグが、ベトナム系アメリカ人であるダイアン・ングイェンの役にはもともとあるアジア系アメリカ人の女優が起用されており、しかも最初の4話の吹き込みまでしていたことを明かした。しかしその女優(ボブ=ワクスバーグはその名前を明かしたがらなかった)は、契約上、別のシリーズに出演することが義務付けられていたので、その番組のリニューアルに伴って『ボージャック・ホースマン』は彼女の代役を見つけなければならなかった。急いでいたボブ=ワクスバーグは、白人女優も応募可能にして代役を募った。「事の真相というのは、ある役を白人の俳優たちも応募可能にした場合に、彼らは非白人の俳優に比べてはるかに数が多いということです。悲しいですが、それがこの業界の真実です。白人の俳優たちには多くの経験をつむ機会があります。だから私たちはアリソン・ブリーを起用しました。彼女は十分に経験を積んでいましたし、ダイアン・ングイェンというキャラクターを自在に演じることができました。」

 

しかし、アリソン・ブリーの起用を決めたときでさえ、「少し変な」感じがしたとボブ=ワクスバーグは言う。「私は確実にホワイトウォッシングが問題だと分かっていました。しかし、前例となる昔のアニメを見れば、そこでもそれは行われており、私はそれは大した問題ではないのだと自分で自分に言い聞かせることにしました。そして今は、本当にそうなのか私には分かりません。」「アニメであれば誰が何を演じてもよいのだから、ホワイトウォッシングも問題ないと自分を納得させてしまうのは問題です。例えば、ウィル・アーネットは馬ではないが馬を演じている。演技とはそういうものだ、というように。しかし、もしあなたがそう言っておきながら、私がしたように全てのメインキャストに白人を起用すれば、それは筋が通りません。それは真実というより言い訳です。ボージャックがアジア人の俳優によって演じられない理由はありません。」

 

ボブ=ワクスバーグは『ボージャック・ホースマン』におけるホワイトウォッシングの問題を認知しており、シーズン3までに、一つのエピソードに少なくとも一人は非白人の声優が役を演じることを義務付けた。しかし彼はそれが十分ではないことに気付いた。そして、彼が影響を受けたかつての番組と同じように、彼自身もまた未来のアニメ番組制作者がまねるかもしれない先例をつくっているのではないかという不安に駆られた。

「この、肌の色の見えないキャスティングというユートピア的な考えは、ホワイトウォッシングの問題に対して真剣に取り組まないことへの言い訳になっていると思います。誰がどの役を演じるかは重要です。ホワイトウォッシングの問題は誰もが当事者として意識すべきだと私は思うのです。非白人のキャラクターを登場させても、その役を白人に演じさせてしまっては、本当の非白人の登場とはいえません。むしろそれは非白人の人たちにとって有難迷惑になりえます。」

 

 ボブ=ワクスバーグは『リック・アンド・モーティー』の作者ガオが、彼女が同僚のクリエイター、ダン・ハーモンとともに立ち上げたポッドキャスト「ウォンの白人化」(https://itunes.apple.com/us/podcast/whiting-wongs-with-dan-harmon-and-jessica-gao/id1298102780?mt=2)で、人種とテレビ企画について話すのを聞いて多くのことを学んだと語った。そのポッドキャストは、ウォン博士の役をスーザン・サランドンが獲得するという失望する出来事の後、ガオとハーモンが交わした会話から生じたものだった。サランドンが起用されたとき、ガオはウォン博士の名前を変えることを提案したが、「誰も気にしていないようでした。だから私はダンのところへ行きました。するとダンは私になぜそれが重要なのかとても真摯に尋ねました。彼は、なぜ私がそれについてそこまで気にするのか、心から理解できないようでした。なので私は彼と、なぜ非白人を登場させることが重要なのか、子どもが、自分自身の姿がメディアに映し出されるのを見ながら育つのと、一度も見ないで育つのではどう違うかについて、ずいぶん長いこと話し合いました。」

 

「たった数回でも、キャラクターが明確に非白人として描かれることが非常に重要なのです。そのような機会が極めて少ないからこそ、それらのキャラクターにはその民族的背景を尊重した配役がされるべきなのです。スーザン・サランドンの起用について、『なぜ彼女がその役をやるのが気に食わないの?』と尋ねる人がいます。これはそんな小さな話ではありません。むしろ、この一つの役が何を意味するのか、ということなのです。『リック・アンド・モーティー』にたくさんのアジア系アメリカ人のキャラクターがいて、100人いるうちの1人を白人の女優が演じるだけで、大したことはない、というわけではないのです。私たちはたった一人しかいないその一人を失ってしまったのです。だからこのことが重要なのです。肝心なのは、現実の社会を作品に反映させることなのです。」

答えは簡単に聞こえるが、まずは番組制作者やその他の権力をもつ人々が、非白人の作家たちを意思決定に携われる地位まで引き上げることが必要である。「自分自身の番組をもっている人、製作総指揮、現場責任者などの力のある地位にいるのは、圧倒的に男性、それも白人の男性ばかりです。そのことが、ホワイトウォッシングが構造的な問題であることを示しています。10年前よりは今の方が確実に良くなっています。みんなそれに気づいてはいるのです。けれど、変化のスピードは遅いのです・・・。」

 

http://www.indiewire.com/2018/01/rick-and-morty-bojack-horseman-the-simpsons-producers-cartoon-whitewashing-1201921109/

<p>澤島さくら
京都の田舎で生まれ育ち、東京外大でヒンディー語や政治などを学んでいます。なぜヒンディー語にしたのか、日々自分に問い続けています。あらゆる猫と、スパイスの効いたチャイ、旅行、Youtubeなどが好きです。他にもいろいろ好きなものあります。

 


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