[582]今日までの#MeToo これからのTime’s Up


 
ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによるセクハラの告発をきっかけに、性差別や性的嫌がらせの撲滅を訴える #MeToo 運動が始まった。
女優のアリッサ・ミラノが被害体験を語り連帯を示すよう人々に呼びかけたことがきっかけとなって大きな流れとなったのは昨年10月になるが、ハッシュタグ #MeToo を付けてSNSに自身の被害体験を投稿する #MeToo ムーブメントは今も勢いを増している。
 
それに次ぐ運動にTime’s Upがある。
団体は1月1日付けのニューヨーク・タイムズ誌に全面広告を掲載、
「すべての女性のための変革を求めて団結するエンターテインメント業界の女性たちの呼びかけ」として
発起人にはリース・ウィザースプーンやナタリー・ポートマン、エマ・ストーンなど多くの女優らが名を連ねた。
 
関係者は「TIME’S UP Legal Defense Fund」を同時に設立し、労働環境でセクハラの被害に遭った人を法的支援する基金を募った。
現在までに1600万ドル(約1800億円)を超える資金を集め、映画業界では300人の女性達が運動を支えている。
 
さらにTime’s Upは、セクハラ対策を行なわない企業に罰則を科す法律の整備を訴えるなど、現実的な支援を軸にした活動を展開している。性的嫌がらせなどの被害にあった人々が声を上げた「#MeToo」に続いて、今度は声をあげた人々を守り、また問題そのものを撲滅するために立ち上がろうという運動になっている。
 
1月7日に授賞式が開かれたゴールデン・グローブ賞の会場には、Time’s Upに賛同した俳優達が黒い服を身に纏い現れた。
その中のひとり、コメディアンのアジズ・アンサリは共同監督を務めたNetflixのドラマシリーズ”Master of None”シーズン2で
ベストアクターを受賞した。彼はフェミニズムに賛同するコメディアンとして知られ、『レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターマン』などでは” 恋人から影響を受けてフェミニズムについて考えるようになった “と公言している。もちろん彼は授賞式の会場でTime’s Upを支持する黒い服を纏い、胸にはTime’s Upのピンバッジを刺していた。
 
1月13日にある告発文が、若いフェミニストが運営するWEBサイトのBabeで公開された。
「アジズ・アンサリとデートをした。今までの人生で最悪の夜だった」タイトルからも分かるようにアンサリを批難する内容だ。
 
告発者の名前は仮名となっているが、記事中は仮名でグレースとされている。
インタビューアーのケイティを通して一夜に起こったことが語られている。
 
記事がBabeに公開された翌日1月14日、NYTは社説で公開された告発に対して疑問を呈した。
グレースとアンサリとの出会い、そして「人生で最悪の夜」に起こった事がまとめられている。
 
アンサリと彼女の体験は2017年のエミー賞のアフターパーティで始まった。
インタビュアーのケイティによれば、グレースが彼に近づき、互いのビンテージカメラを褒めあったという。
 
彼女は誰かとパーティに来ていたけれど、その場でアンサリと番号を交換してマンハッタンでデートをすることになった。
 
後日、トライベッカにあるアンサリのアパートに着いた二人は―この日のためにグレースは友だちに相談をして洋服を選んだという―少し話をしてワインを飲んだ。
「白だった」と彼女は言った。「赤ワインが好きなのに、選ぶこともできなかった。それに白ワインだった。」
 
二人は近くで食事をした後にアンサリのアパートへ戻った。グレースによると、会計を済ませたアンサリはしきりにアパートへ戻りたがった。
「まるでお金を払ったから後は自由にやるぞって感じ」
 
彼女はアンサリのキッチン台を褒めた(お世辞ではあったけれど)。すると彼は近づきキッチン台に座ってみたらどうかとグレースに訪ねた。
二人はキスを始めた。彼女の服を脱がせて、アンサリは自分で服を脱いだ。
 
30秒か数分して。二人は”こと”を始めた。アンサリがしつこく挿入しようとしたことに彼女は心底不快な気持ちだったと言う。
彼女がレポーターに伝えたところによると、ためらいを示す声を出そうと試みたが無視されてしまったという。
 
彼女は初めて完全に声に出して嫌と言った、アンサリが鏡の前でセックスをしないかと提案した時にいたっては。
アンサリは「気持ちを楽にしようよ、洋服も着てさ」と応えた。
 
二人は洋服を着てソファに座り『隣のサインフィルド』を見た。彼女は「男ってみんな同じだわ」と彼に伝えた。
アンサリは彼女にUberを呼んだ。
帰り道すがら彼女は泣いた。
 
おしまい。
 
「人生で最悪の夜」とはなんのことか、フェミニストのWEBサイトで#MeToo のひとつとして捉えられている理由は何か、あなたが不思議に思っているとしたら、あなたはきっとアンサリと同じ様に混乱しているのでしょう。翌日、アンサリは「昨日の夜は楽しかったね」とグレースに連絡をしたのだから。
 
NYT誌の記者BARI WEISSは次のように続ける。
 
この女性が経験したことは確かに可哀想だと思う。私も同じような状況に遭ったことはある、大人の女性なら誰でもあるように。
もちろん後悔したけれど、私は誰にも何も言わなかった。
私は運が良かったと思う、そうした不快な体験は性暴力やレイプとはかけ離れていたし、ましてや「人生で最悪の夜」でもなかったから。
 
でも彼女の告発が私に考えさせたのは、私の個人的な経験をそれはそれとして踏まえた上で、
多くの私の仲間のフェミニストや、そして私自身も、あなたの告発文はミソジニー以外の何でもないと主張するかも。
 
使い古された言い方をするなら、彼女がアンサリとの一夜で経験したのは”bad sex “と呼ばれるものね。
 
NYT誌に続いて1月15日にはAtlanticでも同じような社説が公開された。
こちらの記者はNYT誌より世代が上のフェミニストになる。彼女の視点から騒動は以下のようにまとめられている。
 
私にはこの件は、若く力を持った白人の女の子達の集団が、ひとりの褐色の男性をみせしめに攻撃したように思われる。
インターセクショナリティに基いて言えば、この先数カ月は、彼女たちは矛先を大学卒の白人男性に向けたほうが良いように思える。
 
しかし革命[一連の#MeToo運動]は光の速さで進行している、多くの場合はいい結果で、とても重要な意味で。
私たちは、あまりにも酷い状況にある人や単に運が悪かった人を、大変な状況から救い出してあげないといけない。
 
しかしどうも世の中にはタクシーの呼び方を知らない子や、一夜の思い出を残そうと着ていく服を選ぶのに多くの時間を割くような若い女の子がたくさんいるらしい。彼女たちは怒り、一時的に攻撃的になり、破滅させるに値しない男性を狙ってしてしまったのではないか。
 
こうした否定的な意見がある一方で、VICE誌で公開された社説には以下のような意見がある。
騒動後に報じられたアンサリのパブリックコメントを受けて、VICE誌の記者は告発文を重要だと考え直したという。
 
「最初に聞いた時は彼女じゃないだろうと思ったので驚き、考えました。彼女の告発文を受けて、彼女が言ったことを理解しようと、真摯に時間をかけて受け止めた。私は #MeToo ムーブメントを支援し続けます。それは必要であり、長い間放置されてきたから」
 
このアンサリのコメントを受けて、きっと多くの人が彼の擁護に回るだろう、そして告発は忘れられてしまう。
しかし#MeToo を成功に導くのだとすれば、私たちは改めてセックスの際の態度を考え直す必要がある。
この件では特に、ちょっと聞くと(女性からしたら)不公平でも、実はまったく(男性からしたら)普通の態度だと言う場合があるから。
 
1月16日の朝、Crime&Justice HLNで司会を務めるジャーナリストのアシュリー・バンフィールドが番組内で騒動を総括した。
告発文の稚拙さを認めながら、あくまでも #MeToo 運動は後押しが必要だという姿勢だ。
 
あなたの明確な描写によればこれはレイプではないし、ましてや性暴力でもありません。
けれども訴えによれば、起こったことはとても不快でした。
 
労働環境で同じ境遇にある女性たちが何十年も夢見ていた運動が変化しています…私自信も30年間苦しみ続けてきました。
 
#MeToo は多くの間違いを正し、女性の職場における労働環境をスムーズにしてきました。これは素晴らしいことです。
まだ恩恵を受けていない人もさらなる告発は運動が後押してくれることでしょう。
 
今日までの#MeToo これからのTime’s Upを語る上でアジズ・アンサリの件は避けて通れない。今なお論争は続いている。
アジズはパブリックコメントを発表したが、多くのフェミニストが彼に抱いていたイメージは変わっただろう。
改めて、男性がフェミニストを標榜することの難しさを痛感させられる。
 
 
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伊藤ゆうと

イベ ント部門担当。平成5年生まれ。趣味はバスケ、自転車。(残念ながら閉館した)藤沢オデヲン座で「恋愛小説家」を見たのを契機に 以後は貪るように映画を観る。脚本と執筆の勉強中。


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