[572]『トランスペアレント』監督のサンダンス映画祭注目の新作『A Kid Like Jake』


来年の1月18日から10日間にわたっておこなわれるサンダンス映画祭。先日発表されたラインナップの中で注目を集めている作品の1つが、『A Kid Like Jake』だ。

4歳になるジェイクは、G.I.ジョーよりシンデレラが好きな男の子。若いカップルのアレックス(クレア・デインズ)とグレッグ(ジム・パーソンズ)は我が子の成長に向き合いながら、さまざまな困難に立ち向かっていく。

リンカーンセンターで演劇として上演され好評を博した本作のメガホンをとるのは、サイラス・ハワード監督。彼自身、30代まで女性として生きてきたトランスジェンダーであり、いま現在ハリウッドで最も勢いのある監督の一人と言われている。

『A Kid Like Jake』撮影風景

彼は、1990年代~2000年代のサンフランシスコのLGBTコミュニティを牽引した人物だ。『Tribe 8』というバンドを結成しゲイパンクシーンを作り出したり、レズビアンのホットスポットとなったクラブを経営したりした。*1

「自分は映画監督というより、ストーリーテラーだと思う。当時、サンフランシスコはエイズ流行の末期で、そこに行くことは危険な賭けだったが、どうしても行かなきゃいけないと思った。不条理にも多くの人が死んでいく。そんな街で、僕は自然とストーリーテリングの手段としてパンクミュージックを始めたんだ。」*2

2001年には、トランスジェンダーが主人公の映画『By Hook or By Crook』で監督と主演を務めた。「映画のことは何も知らなかったが、物語を語りたいという強い欲求があった。失敗する気はしなかったよ」というもち前のパンク精神で作ったこの作品は、サンダンス映画祭でも上映され、いくつかの映画祭で賞を受賞する。

『By Hook or By Crook』

『By Hook or By Crook』の主人公とその友人は、お互いのジェンダーに全く疑問をもたない。「映画作りは、世界の変えたいと思うことを自らの手で再創造することだと思った」という彼は、その後カリフォルニア大学で製作を学び、ドキュメンタリー映画や広告、テレビドラマの製作などで経験を積んでいく。*3

2015年には、アマゾンのオリジナルドラマ、『トランスペアレント』でエピソードの監督を務める。引退後にカミングアウトし女性として生きていくことを決めた父親と、その家族の変化を描いたこの作品において、ハワードは初のトランスジェンダーの監督となった。

『トランスペアレント』

「製作チームはみんな、このドラマにトランスジェンダーが関わることをとても重要だと思っていた。作家、監督、カメラマンなど、いろんな場面で自らの経験を生かしてほしいと思ったんだ。トランスジェンダーの俳優に注目する作品は多いけど、製作からトランスジェンダーが関わって、自らの物語を語る機会をくれる『トランスペアレント』のやり方はユニークで、とても特別なことだと思う。」*4

『A Kid Like Jake』でも、『ビッグ・バン・セオリー』のスター、ジム・パーソンズとその旦那トッド・スパイワックがプロデューサーをつとめたり、オクタヴィア・スペンサーを始めとするLGBTの俳優が出演するなど、スタッフにもLGBTが多く参加している。主人公のジェイクを演じるのも、実際にプリンセスが好きな男の子、レオ・ジェームズ・デイヴィスで、撮影の際に使用した衣装は全てレオ本人の私服だという。しかし、キャスティングに関して、ハワード監督は「さらに’次のレベル’を目指す」ため、トランスジェンダーの俳優にトランスジェンダー以外の役も演じさせた。*5

オクタヴィア・スペンサーとレオ・ジェームズ・デイヴィスとハワード監督

しかし、この映画は必ずしも「トランスジェンダーの話ではない」という。

「これは、アメリカの教育の矛盾を描いた映画でもある。今の社会は、’君は特別だ’と子供に言い聞かせる一方で、個性を罰する。さらに、階級や格差といった社会構造があいまって、個性が都合よく使われてしまうんだ。そんな社会では、僕たちは大切な人を守ろうして、間違ったことをしてしまう。」*6

2017年は、トランプ大統領のトランスジェンダーの保護政策撤回や米軍入隊禁止宣言といった出来事もあった。しかしその一方で、トランスジェンダーを描いた作品がアメリカで増えている。それはもしかしたら、こうした問題は決してトランスジェンダーだけのものではなく、社会がかかえる矛盾のあらわれだということを人々が感じているからなのかもしれない。『A Kid Like Jake』はそんなことを教えてくれそうな映画だ。公開を楽しみに待ちたい。

*1,4,5
https://www.advocate.com/current-issue/2017/11/22/director-silas-howard-sfs-fringe-scene-big-time

*2,3,6
http://www.indiewire.com/2017/06/silas-howard-transparent-trans-director-queer-punk-lgbt-1201849453/

画像
http://www.imdb.com/title/tt6884200/mediaindex?ref_=tt_pv_mi_sm
https://www.instagram.com/silash/

北島さつき
World News&制作部。
大学卒業後、英国の大学院でFilm Studies修了。現在はアート系の映像作品に関わりながら、映画・映像の可能性を模索中。映画はロマン。


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