[567] Netflix配信作『マッドバウンド 哀しき友情』監督が語る自身の過去


Garrett Hedlund, Mary J. Blige and Rob Morgan appear in Mudbound by Dee Rees, an official selection of the Premieres program at the 2017 Sundance Film Festival. Courtesy of Sundance Institute |photo by Steve Dietl.

今年2月あたまにサンダンス映画祭でプレミア上映されたディー・リース監督最新作『マッドバウンド 哀しき友情』は大絶賛されネットフリックスによって1,250万ドル(約14億3,750万円)で買われ先月自社の動画配信サイトで公開された。

監督は2011年にブルックリンに住む黒人少女が同性愛であるアイデンティティに苦しみ成長していく過程を描いた作品『アリーケの詩』で長編デビュー。その後2015年にHBO製作のもと、ブルースの女王と呼ばれるベッシー・スミスの半生を描いたテレビ映画『BESSIE / ブルースの女王』を撮る。

しかし今作が彼女の作品の中で最も大掛かりで、そして最もパーソナルな作品であることは間違いない。
キャリー・マリガン、ジェイソン・ミッチェル、ジェイソン・クラークなどの豪華キャストに加えアメリカ人気ドラマ『クリミナル・マインドFBI行動分析課』のプロデューサー・脚本家として知られるヴァージル・ウィリアムズと共に書き上げた脚本で挑む。第二次世界大戦中、ミシシッピ州の農場に引っ越してきた黒人家族と白人家族たちは時代の苦悩や暗い過去に苦しめられている。そんな中で両家族の息子たちが友情を育み始めたところから物語は思いもよらぬ方向へこじれ始める。

ヒラリー・ジョーダンによる小説を映画化するにあたって:
「原作があり、そしてすでに書かれた脚本がありましたがわたしは自分の描きたいものを描くために大胆に物語を書き直しました。原作にはない両家族のストーリーを組み込んだりそれぞれの家族たちの歴史が垣間見えるモノローグを挿入していくことによってより彼らの今の行動や感情の理由が見えるようにしました。また、役者たちが実際に脚本を読み、自分たちが演じていく過程でこうあったほうがいいという意見を柔軟に取り入れていきました。」

映画化するという行為そのものについて監督はこう語る
「映画化すること自体がアートだと思っています。一字一句書かれたものを映像化するのではなくてそれをいかに昇華させていくかが私の仕事だと思っています」 *2

また今作が彼女にとってより個人的な意味を持つ理由として彼女が自分自身の家族の歴史を作中に取り入れたという点があるだろう。
「この映画を撮ることは自分の家族の歴史に向き合うことそのものでした。私の祖母は本作と同時期に農場で暮らしていました。彼女がつけていた日記があり私はそれを読みながら彼女が感じた幸せや悩みを知りました。一番シンプルで小さな物事が人生の贅沢であるということ。一杯の冷たい水は贅沢である、その水を得るための労力を身を持って知っているから。コーヒーや砂糖、お菓子が贅沢品でありチョコレートを一口かじって残りを子供たちのために残しておく母親の姿など」 *1

実際にこの時代に生きていた人たちがいた、そんな実感や暮らしの匂いを作中に持ち込みたかったというのも彼女が自分の過去を歩いた理由のひとつである。

彼女は自分の家族のたちの目を通してこの作品に根底に流れるアメリカの辛い、そしていまも続いている差別の歴史と向き合っている。だから本作はよりリアルで「つくられた」というよりかは過去から続いている現実を映し出したと言っても良いだろう。

彼女は自分自身の過去にあった今の時代のエピソードを振り返りより一層この映画に希望を込める。
「私はナッシュビルで育ちました。白人の地域です。親がKKKのメンバーである家族が隣に住んでいました。私の父親は彼がメンバーであることを知っていました。私はその家の孫とよく遊んでいました。彼女が私の家に来ることはあっても私が彼女の家に行くことはありませんでした。彼女の誕生会があった時、私はその夏ずっと一緒に遊んでいたのでてっきり招待されるものかと思っていましたが、されませんでした。彼女は「あなたは来られないの、私の両親黒人が好きじゃないのよ」と一言言いました。」 *1

「本作は人種が経済の仕組みと深く関わっており、またお互いだけとの関係だけではなく自分たちの歴史ともつながっているということが顕著に現れます。
過去や未来があるのではなくて「いま」しかない。すべてはいまにかかっていて、過去からの産物としての現在があると言って問題をないがしろにしてはいけない。今いる私たちがどんな国家でありたいのかを決めるのです。」 *3

また今作の撮影監督レイチェル・モリソンは『パロアルト・ストーリー』で撮影監督デビューしたのち数々の作品を手がけてきた実力派だ。『フルートベール駅で』、『チョコレートドーナツ』や「『DOPE / ドープ』など逆境に立ち向かっていく主人公たちを物語に寄り添いながら丁寧に作り上げていく。

ディー・リースとレイチェル・モリソンは二人ともアメリカン・ドリームと呼ばれる理想郷と現実とのコントラストを映像という媒体を通して描きたかった。そのためにレイチェルはアメリカでの恐慌後に政府の農業安定局によって設立されたFSAプロジェクトに関わっていたドロシア・ラングをはじめとした報道写真家たちの写真に注目した。今作と同時期の農場での暮らしを丁寧に切り取っていた写真は淡々と現実を写していた。
「この時代の写真が素晴らしかった点はみんなが同じ状況・環境というものによって一丸となっていたこと。何ももっていないのにそこにはコミュニティがあった。平等に切り分けられた地形と一人一人の表情たちが語る物語。」

時代らしさと出すために少し彩度を抜いたが彼女が見ていた当時の写真たちの強い白黒のコントラストが出ていた。それを見た彼女は人気である淡い白黒にすることを拒んだ。 *4

本作ではデジタルとアナログをうまく使い分けることによって時代設定にあった世界を忠実に再現しようとした彼女は映像と物語のバランスを間違わない。

この現状という世界が過去と強く結びついていることを映し出した今作には私たちのこれからの生き方へのヒントが宿っているかもしれない。
現在ネットフリックスで公開中。

参考記事
1 http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/news/mudbound-dee-rees-interview-netflix-director-a8061251.html

2. http://collider.com/dee-rees-interview-mudbound/#images

3. http://deadline.com/2017/11/mudbound-dee-rees-the-meyerowitz-stories-interview-the-contenders-1202202096/

4. http://www.indiewire.com/2017/11/mudbound-cinematography-rachel-morrison-first-female-best-cinematography-oscar-nomination-1201895466/

mugiho
好きな場所で好きなことを書く。南の果てでシェフ見習いの21歳。日々好奇心を糧に生きています。映画・読むこと書くこと・音楽と共に在り続けること、それは自由のある世界。


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