今年のヴェネチア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞したギレルモ・デル・トロ監督の最新作『シェイプ・オブ・ウォーター』が今週末より全米で公開される。

物語の舞台は1962年、米ソ冷戦時代のアメリカ。政府の極秘研究所に清掃員として働く、発話障害を持つ女性イライザは、ある日水槽に閉じ込められた魚のような謎のクリーチャーを発見する。アマゾンで神のように崇められていたというクリーチャーに心を奪われ、周囲の目を盗んで会いに行くように。そんな2人の交流を描いたラブストーリーである。

デル・トロ監督はこの10年ほど『クリンムゾン・ピーク』や『パシフィック・リム』といった規模の大きい作品の制作が続いており、『パンズ・ラビリンス』や『デビルズ・バックボーン』といった小規模でよりパーソナルな物語をまた作りたかったという。
そのために監督は具体的に製作費を出してくれるプロダクションを探す前に、自費で10万ドル以上を費やして数人の協力者と映画の世界観を創り込んだ。
“今回は、『パンズ・ラビリンス』と逆のことをやったよ。”と監督は語る。 “3年間も資金調達に励む代わりに、どんな映画ができるのか、見てすぐにわかるものを2年間で制作し、その後に出資者を募れば、ストーリーも世界観も、そしてどんなクリーチャーが出てくるのかもすぐ理解してもらえた。”

本作で高く評価されている、細部まで設計された世界観には監督の並々ならぬこだわりが反映されている。
はじめ、この映画は白黒映画として制作する予定だったものの、白黒映画として提示された製作資金では予算オーバー。カラー映画にすれば増額出来ると言われ、意図に反してカラーで制作することとなった。
プロダクション・デザイナーのポール・D・オースターベリーは当時をこう振り返る。
“プロダクションオフィスを設けた初日にギレルモは3500色のベンジャミンムーアペイントが詰まった箱を持ってきたんだ。私たちは文字通り、1色ずつ見ていったよ。彼はコスチュームやセットのすべての色にこだわったからね。これがイライザの色、これがストリックランドの色というように1色ずつ選んで3500色の中から100色を選んだよ。”

イライザのキャラクターやその世界観に水を連想させるシアンやダークブルー、ブルーグリーン。隣人のジャイルズ(リチャード・ホーキンス)の部屋はもう少し古風で、辛子色、緑がかった茶色など暖色のアースカラーが使われて、イライザの同僚ゼルダ(オクラビア・スペンサー)も近しいキャラクターとして似た色で描かれている。そして赤は愛を奏でる色として、イライザがクリーチャーをうっとりと想うシーンや2人が映画館で抱き合うシーンなどで、局所的に使われている。

更に主人公イライザのアパートもこの映画の重要な要素である。 “イライザの周辺はすべて何かしら水に関連するものにしたかった。”とオースターベリーは言う。 痛んだ天井からは雨漏りがひどく、水で腐食した青い壁(うっすら北斎の浮世絵”神奈川沖浪裏”を模した波がテクスチャーとして描かれている)に、魚柄の青い壁紙、寒色のライトと、観れば明らかである。 またこの部屋は映画館の上に位置しており、床板の間や窓の外から漏れてくる光が、色や揺らぎ、水への反射など空間に特徴的な演出を加えている。 日本では来年の3月公開ということで、ぜひスクリーンで体感したい。

参考
https://www.vanityfair.com/hollywood/2017/12/the-shape-of-water-production-design http://www.indiewire.com/2017/11/shape-of-water-guillermo-del-toro-production-costume-creature-design-interview-1201902026/ http://www.indiewire.com/2017/12/the-shape-of-water-black-and-white-1201903278/

荒木 彩可 九州大学芸術工学府卒。現在はデザイン会社で働きながら、写真を撮ったり、tallguyshortgirlというブランドでTシャツを作ったりしています。


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