今月11月9日から16日までアメリカ・ロサンゼルスでAFI FESTという映画祭が開催される。(#1) 主催はAmerican Film Instituteという機関で、映画祭ではリドリー・スコット監督の最新作「ALL THE MONEY IN THE WORLD」の他、2006年に惜しくも逝去したロバート・アルトマン監督の特集、ホン・サンス監督の新作「THE DAY AFTER」、CIAのマインドコントロールと諜報員の謎の自殺に迫ったエロール・モリス監督のドキュメンタリー「WORMWOOD」等、様々な作品の上映が予定されている。

この映画祭を主催しているAFIとは、アメリカ合衆国第36代大統領リンドン・ジョンソンの発案により生まれ、映画とその遺産を保護し次の世代に伝えるとことを目的として作られた機関である。(#2) 1967年に創立し、今年でちょうど50周年を迎えている。ユニークなのは映画の保存だけではなく、新しいフ ィルムメーカを育成すること目的とした教育機関AFI Conservatoryを併せ持っていることだ。この機関は修士の学位が取れる学院になっており監督、プロデューサー、撮影、編集、脚本、美術の6つのコースに分かれている。こちらも1969年の創設以来、世界様々な場所で活躍するフィルムメーカーたちを輩出し続けている。撮影監督に限って書けば卒業生にはロバート・エルスウィット(「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」「ナイトク・ローラー」)、エルデーイ・マーチャーシュ(「サウルの息子」)、スピルバーグ監督とのコンビで知られるヤヌス・カミンスキー(「シンドラーのリスト」「プライベート・ライアン」)、アミール・モクリ(「マン・オブ・スティール」「ジョイ・ラック・クラブ」)、ウォーリー・フィスター(「インセプション」、「バットマン/ダークナイト」シリーズ)、ロバート・リチャードソン(「ヘイトフル・エイト」「アビエイター」、日米で公開中止になってしまったが「マザー」の撮影監督マシュー・リバティーク(「ブラック・スワン」「ルビー・スパークス」、監督のダーレン・アロノフスキーとはAFIの同期生でもある)、栗田豊通(「クッキー・フォーチュン」「御法度」)、渡部眞(「接吻」「五条霊戦記 GOJOE」)などがいる。 そして現在ハリウッドで最も活躍している日本人撮影監督で、今回のAFI FESTで上映される映画「HOSTILES」(監督:スコット・クーパー)のカメラマンでもある高柳雅暢もまたAFIの卒業生だ。(#3)

 

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後に第88回のアカデミー賞で作品賞を受賞する「スポットライト 世紀のスクープ」(監督:トム・マッカーシー)の撮影を担当する事になる高柳は群馬県富岡市で育ち、子供の頃は野球選手になることを夢見ていたという。東北大学英語学研究室在学中に撮影監督のインタビュー集「マスターズ・オブ・ライト」(#4)を読み感銘を受けアメリカ行きを決意し、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校を経てAFIに入学する。高柳はAFIについて「ただ単に美しいイメージを撮ることよりも、ストリーテーリングに重きを置くことを教えてくれた。AFIは如何に物語を映像で語るかを理解するのを助けてくれた」と語っている。在学中に撮影した短編映画「Shui Hen」が2003年のパームスプリング国際映画祭で最優秀学生撮影賞を受賞した他、アメリカ映画撮影監督協会からJohn F. Seitz Student Heritage Awardを授与される。卒業後、撮影監督のロドリコ・プリエトに出会った後は「バベル」「消されたヘッドライン」やロバート・リチャードソン撮影の「食べて、祈って、恋をして」のセカンドユニット撮影監督を担当し、2011年ギャビン・オコナー監督の「ウオーリャー」とジョン・カーナハン監督の「THE GREY 凍える太陽」でメジャースタジオ作品の撮影監督を務める事となる。その撮影が評価されてVariety紙の“見るべき10人の撮影監督”の内の一人に選ばれたが、その後もデイビッド・O・ラッセル監督の「世界に一つのプレイブック」や、「ファナース 訣別の朝」「ブラック・スキャンダル」「スポットライト 世紀のスクープ」等、次々と映画撮影を担当して行くこととなる。高柳は自身の作品に関して「撮影監督としての私の役目はビジュアルストーリーテラーでいる事だと思っている。でも僕は撮影では毎日のように失敗していると感じているんだ。でもそこから学んで行けるから必ずしもそれが悪い事とは思わない。それは僕の人生のある時点での映画に対する想いから出た撮影だから、ただの失敗ではなく、撮影当時の僕自身でもある。そしてそれは一つの考えなんだ。だから同じ映画でも、5年後に新しく撮影すれば全く違うように撮るはずだ」と語っている。

(#5) 今月のAFI FESTで上映される「HOSTILES」(#6)ではスコット・クーパー監督と「ファナース 訣別の朝」「ブラック・スキャンダル」に続き3度目のタッグを組んでいる事になる。高柳は「僕は撮影準備期間中は出来るだけ多く監督と過ごし、映画における感情と物語に関して同じ考えでいれるようにしている。スコットとは仕事に置ける共通認識ができているんだ」という。 「HOSTILES」の舞台は1890年代で、クリスチャン・ベール扮するアメリカ軍隊の将校が、ネイティブアメリカンでかつての戦争の相手であったYELLOW HAWKとその家族を彼らの部族に戻すためニューメキシコからモンタナまでエスコートする物語であり、スコット監督と高柳にとって初の西部劇となる。(#7) 高柳は批評家達から「今までの彼の作品でおそらくベストで、ニューメキシコの広大な眺望を見事に捉え、それはこの数年彼がスクリーンに繰り広げてきた映像の中で最上のものだ。」「砂漠や平原、霧がかった森から荒々しい山まで、変わりゆく地形を大袈裟な事をすることなく見事に捉えている」など高評価を得ている。(#8)

「HOSTILES」は現在日本でも公開はまだ決まっていないという事ではあるが、高柳が一連のハリウッド作品の中で如何に撮影技術を磨き高め、どのように西部劇の風景を捉えたのか、着目して見るのも面白いかもしれない。

 

(#1) http://www.afi.com/afifest/

(#2) http://www.afi.com

(#3) http://www.imdb.com/name/nm1086687/

(#4) https://www.amazon.co.jp/s/ref=nb_sb_noss_2?__mk_ja_JP=カタカナ&url=search-alias%3Dstripbooks&field-keywords=マスターズ・オブ・ライト&rh=n%3A465392%2Ck%3Aマスターズ・オブ・ライト

(#5) https://www.youtube.com/watch?v=C8mZFSlGEJ0&t=1180s

(#6) https://www.goelevent.com/Redirect?u=http://afifest.afi.com/2017/sections/hostiles

(#7) http://www.thehollywoodnews.com/2017/09/13/hostiles-review/

(#8) http://www.hollywoodreporter.com/review/hostiles-review-1032266

 

戸田義久

普段は撮影の仕事をしています。 https://vimeo.com/todacinema

これ迄30カ国以上に行きました。これからも撮影を通して、旅を続けたいと思ってます。趣味はサッカーで、見るのもプレーするのも好きです。


2 Comments
  1. タカヤナギ氏の最新作は「HOSTILE」ではなく「HOSTILES」(複数形)です。

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