[554] LGBT映画というジャンルに囚われない


近年、昨年のアカデミー賞受賞作品『ムーンライト』や先日第28回ディナール英国映画祭でグランプリを受賞した『God’s Own Country』、日本公開が延期となった『アバウト・レイ 16歳の決断』、女性監督による『アンダー・ハー・マウス』をはじめとした、LGBTをテーマにしたそれぞれのセクシュアリティと向き合っていく作品が多く発表されている。しかし、男性ふたりの主人公たちが愛し合いながらもセクシュアリティのジャンルに身を置かず、多くの観客たちを号泣させている作品がある。

今年度のサンダンス映画祭でプレミア上映された『Call Me By Your Name』は、1983年、イタリアの村で出会った大学院生オリバーと彼の教授の息子であるエリオふたりの一夏の愛の物語だ。『ミラノ、愛に生きる』『胸騒ぎのシチリア』の監督として知られるルカ・グァダニーノの最新長編作。サンダンス映画祭のディレクターを務めるJohn Cooperはこの映画を紹介する際に泣きはじめてしまったという。
なにがそれほどに人々を惹きつけ、涙させるのか?
「感情の喚起でしょう。私たち映像作家たちは自分たちの語る物語や組み合わせていく要素を通して人々の中に感情的な橋をつくっていきます」と監督は語る。

今作のはじまりは2007年にベストセラーとなったAndre Acimanの小説を原作にして『眺めのいい部屋』の監督ジェームズ・アイヴォリーが脚本書いたところからだ。アイヴォリー自身が監督・脚本の予定であったが、物語の舞台となるイタリアでの撮影にプロデューサーたちが悪戦苦闘していたとき、ルカ・グァダニーノ監督にチャンスが訪れた。アイヴォリーの撮影スタイルではあまりにも予算がかかり過ぎてしまい資金調達に苦しんでおり、また二人で共同監督する話に出資者達が難色を示したということもあり、予算内で手早く撮るというのに慣れていたルカ・グァダニーノ監督にバトンが手渡された。

グァダニーノ監督は自分の故郷であるイタリア北西ロンバルディア州のクレーマという街で撮影することに決めた。主人公たちが滞在する家を選ぶ際に、彼はイタリアの歴史的過去を取り入れている。
「私たちイタリア人の気質にどこか、ファシスト的なものがあるようです。20世紀にヨーロッパで初めてファシズムをもたらしたのもこの国だし、1938年には世界で初めて人種差別を法律にしました。(主人公ふたりはアメリカ系ユダヤ人の設定だ)舞台となる家を選ぶ際に、ムッソリーニの肖像が掲げてある家を見つけました。ルノワールのベルトルッチへの“現実を取り込む扉を開けておくこと”というアドバイスに乗っ取り、肖像もそのままに撮影しました。」

イタリア人たちの秩序を守ってくれる男が国を救ってくれるだろうという思想に強く惹かれるのとは反対に主人公たちふたりは発見・模索(無秩序)の連続そのものだ、という監督。
「そのふたりが愛の絶頂期にこのムッソリーニの肖像画がかかっているのを見つけます。現実からの小さな挨拶のようなものでした」

時代設定にもこだわりを持つ監督。原作は1987年の設定だったが、彼は80年代はじめの1983年に変更したという。
「イタリアでは70年代が終わり、70年代の良かったものすべてが完璧に終了した時期にしました。原作の登場人物達は80年代の腐敗的な社会(アメリカのレーガンやイギリスのサッチャーを挙げる)に影響されていません。」

そしてなぜ監督は本作を「セクシュアリティをテーマにした作品ではない」と言うのか?
「私が描きたかったのは彼らのセクシュアリティについてではありません。彼らは特にゲイであるという設定ではないし、単に惹かれあったふたりというだけです。その感情的な惹かれ合いが彼らをどんな場所・方向へと連れ出していくかというのを模索した作品です。まだ17歳のエリオは人生の窓を開けたばかりでこれからいろいろ発見していく時期です。」

「欲望はとても強い人間的感情です。一歩間違えれば自分を食い尽くしてしまう。今作は自分の中にある“なにか”を見極めて模索していくのがテーマだと思います。自分はどんな感情を抑えているのか?きちんとそれと向き合っているのか?そしてその欲望が美しく実った瞬間というのがこの作品だと思います」
こう語るのは主人公ふたりのうちの大学院生のオリバーを演じたアーミー・ハマー。

この作品で描きたかったのは「欲望」だという監督は
「17歳のエリオがこれから同性愛者としての人生を歩んでいくのか、また違う選択をするのかはわかりません。ただ、彼は欲望が人生にもたらす予期せぬ喜びや不思議に驚嘆しながら生きていく男性に成長していくと信じています。」語る。

こんなにも涙を誘うのは、普遍的な愛や自分の中を見つめていく姿に多くの観客たちが共感するからなのかもしれない。セクシュアリティに縛られるのではなく、一個人が自分の中にある不確かなものとひとつひとつ丁寧に向き合っていくことを追求してくこの物語の語り手である監督自身、撮っていく過程でそれぞれの要素を丁寧に扱っていっているという姿勢が感じ取られる。

一般公開はイギリスでは10月27日から。
アメリカでは11月24日からとなっている。

参考記事
https://www.thetimes.co.uk/magazine/culture/interview-luca-guadagnino-on-call-me-by-your-name-cmpk98nqx

http://observer.com/2017/10/interview-luca-guadagnino-on-why-call-me-by-your-name-makes-people-cry/

http://www.telegraph.co.uk/films/0/luca-guadagnino-call-name-didnt-need-nudity-sexy/

https://creativescreenwriting.com/james-ivory/

mugiho
好きな場所で好きなことを書く。南の果てでシェフ見習いの21歳。日々好奇心を糧に生きています。映画・読むこと書くこと・音楽と共に在り続けること、それは自由のある世界。


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