先日行われたヴェネツィア国際映画祭において、アメリカのドキュメンタリー監督フレデリック・ワイズマンの新作”Ex Libris – New York Public Library”が出品され、コンペティションにノミネートされていた。(#1)この作品は来月行われる山形国際ドキュメンタリー映画祭において日本でも公開されることが決まっている。そのHPによる作品紹介は以下のとおりである。

「前作『ジャクソン・ハイツ』(2015)ではニューヨーク・クイーンズの多民族居住地域を映像に収めた匠、フレデリック・ワイズマンが、本作ではニューヨーク公共図書館という「世界」を題材に選んだ。ニューヨークの各地にある図書館を軽やかに撮影し、デジタル時代到来によって、図書館が取り組むさまざまな試みを紹介していく。公共図書館の運営会議から始まって、地域ごとに個性を打ち出した討論会、講演などを描き出す。公共図書館というものの現実を浮き彫りにするとともに、図書館に集う多様な民族を映し出し、必然的にアメリカの現在が明らかになる。」(#2)

今記事では主に英米のレビューを基に”Ex Libris”の内容を紹介する。その内容としてはコミュニティとしてのNew York Public Library(以下NYPL)、不平等への策としての情報へのアクセス、ワイズマンのメソッドとしての作品時間の長さ、の3点である。

・コミュニティとしてのNYPL
Indie Wireによれば、
「『図書館は本に関するものではない』と作中の人物が語るように、『図書館は人に関するものである』。”Ex Libris”が圧倒的に明らかにするように、NYPLはただのほこりまみれのハードカバーの宝庫以上のものであり、またただの冷徹な建物や閑静な部屋の広大なネットワーク以上のものである。」(#3)
という。同様にVarietyによれば、
「ワイズマンはNYPLを、従来の因習的な”貴婦人”としてではなく、講義や、ワークショップや、コミュニティでの奉仕活動の生き生きとした場所として見られるよう苦心した。…(中略)…この作品がまさに行うことは、図書館周辺の、車や人々や喧噪でごった返すストリートを映す数々のショットを通してNYPLを彼らのコミュニティに溶け込ますことである。」(#4)
という。またHollywood Reporterは
「ワイズマンは苦心してNYPLの居心地の良さを、あらゆるニューヨーカーへ開かれた姿勢を強調している。」(#5)
と述べ、そしてVarietyは記事の最後を
「実際、”Ex Libris”はNYPLに対する賛歌であると同時に、それはまた多民族的な、比較的差別のない人種構成のニューヨークへのラブレターのようなものなのだ。」(#4)
と締めくくっている。

・不平等への策としての情報へのアクセス
The Guardianによれば、
「(この作品の)最も突出したテーマは貧富の差であり、様々な地域の人々にとってNYPLが何を意味しているのかである。」(#6)
という。そしてHollywood Reporterでは
「現代のアメリカ人の会話の中で、『情報へのアクセスは我々の時代の不平等への根本的な解決である』と作中の人物が語り、大変明確な役目を打ち立てている。」(#5)
と述べられている。

・ワイズマンのメソッドとしての作品時間の長さ
Hollywood Reporterによれば、
「3時間以上もの間、ワイズマンは自身の周りの出来事を観察し、自身の問いやコメントを一切はさまずに撮影した。その結果はほとんど道標のない過大な情報のように思われ、観客を迷宮へと導きうるが、しかしこれは(彼の)方法なのである。観客は自らの印象を形作るべく放り出され、自身に関係のあることを選び、家に持ち帰るのだ。」(#5)
という。同様にIndie Wireでは、
「ワイズマンはニューヨークやその未来が抱える問題を気にしていないのではなく…(中略)…むしろ彼は結果ではなくシステムにより興味を持っているのだ。ワイズマンの作品を見ることは、それ自体では何も起こらないことを理解することであり、また我々は思っている以上に小さく、世界は思っている以上に大きいが、しかしまた我々がいなければ世界は回り続けることができないということを理解することなのだ。」(#3)
と述べられている。

#1
http://deadline.com/2017/07/venice-film-festival-2017-lineup-full-list-1202137114/
#2
https://www.yidff.jp/home.html
#3
http://www.indiewire.com/2017/09/ex-libris-new-york-public-library-review-frederick-wiseman-1201870159/
#4
http://variety.com/2017/film/reviews/ex-libris-the-new-york-public-library-review-1202546650/
#5
http://www.hollywoodreporter.com/review/libris-new-york-public-library-1034946
#6
https://www.theguardian.com/film/2017/sep/03/ex-libris-new-york-public-library-review-documentary-frederick-wiseman

嵐大樹
World News担当。東京大学文学部言語文化学科フランス文学専修3年。好きな映画はロメール、ユスターシュ、最近だと濱口竜介など。いつも眠そう、やる気がなさそうとよく言われます。


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