予告編でまず画面に映し出されるのは、覆面姿のルカドール(メキシコ式プロレスのレスラー)。そして、妊婦を引きずり回し銃をぶっ放す男。覆面男は正義の味方なのか?と思った瞬間、彼はこの銃男にボコボコに殴られる。銃声、悲鳴、銃声、ハーケンクロイツを顔にペイントした若者、銃声、殴る、悲鳴、銃声、銃声、銃声!そして浮かび上がるFiends(悪魔)、Thugs(凶悪犯)、Criminals and Monsters(犯罪者と怪物)の文字。一体、何が起こっているんだ!?[1]

タランティーノ監督作品を想起させる容赦のない暴力の香りが立ちこめたこのフィルムは、北米最大のジャンル映画祭、ファンタジア国際映画祭[2]で「最もバズった映画」として注目を浴びた作品である。監督はライアン・プロウズ。23分の短編映画“Narcocorrido”で、ロバート・ゼメキスやスパイク・リーなどを輩出した学生アカデミー賞で銀賞を授賞し、本作品が初の長編にしてデビュー作となる。Narcocorridoとは、メキシコとアメリカの国境地帯で伝統的に歌い継がれるバラードの一種のこと。英語にすればDrug-Ballad、不法な手段(麻薬)によって富と権力を得る人々や彼らの犠牲になる貧しい人々の生活を詞にしている。事実、“Narcocorrido”は、重い病気を抱えた警官が、生きるために悪名高い麻薬カルテルの荷物を強奪しようとして血みどろの抗争に巻き込まれていく姿を描いた映画だ[3]。

“Lowlife”も同様に、メキシコの裏社会とサブカルチャーを詰め込んだダークかつ、独特のユーモアがにじむ作品となっている。

(以下、ファンタジア国際映画祭でのプロウズ監督インタビュー)[4]
――あなたは自分自身を“Southerner(南部人)”と表現しますが、そのことが映画制作に影響を与えていると思いますか?
「100%間違いなく。私は、地域に伝わる民話や家族の物語、この土地特有のクレイジーとしか言いようのないものに囲まれて育った。南部には、ずっと昔から伝承されてきた、たくさんの物語や、カントリー、フォーク、ヒップホップといった音楽が溢れている。ヒップホップデュオOutKastはアトランタの出身だよ。南部人にはある定評があって、そのイメージというのは私の作品の中に多く生きている。私はジョージア出身だし、家族と妻はアラバマ出身だ。誰かに『自分はアラバマ出身だ』って言ってみると分かるけど、まだ何もしゃべっていないのに、勝手にネガティブな印象を持たれてしまう。そんなときに南部は軽視されているように感じるんだ。南部の文化は冷遇されていると思うよ。」

――この映画では3つの枠組みで違法移民、麻薬中毒、貧困など非常に深刻な問題を扱っていますが、それぞれが「この問題の本質とは何ぞや」みたいな講義形式にはなっていませんね。
「『おい、聞いてくれよ!』なんて説教ぶらないようにいつも気をつけているよ。観客を楽しませたいんだ。見たこともないユニークなキャラクターを使ってね。これは間違いなくバランスだよ。私が映画をつくる上で最も大事にしていることだ。『何だこれは!』って衝撃を受けたら、それが耳を傾けたり考えたりするきっかけになるかもしれない。その調和をとるのが楽しいんだ。私たちは心底楽しんでこの作品をつくったけれど、本当に言いたいことを明確な形でここに込めたっていうことは100%断言できる。それが一番大事なことだったからね。」

――あなたは取り組みたいと思っていた問題がどんなものなのか、最初から知っていましたか?
「扱わなければいけない問題は明確に分かっていた。取り組んでみたら、ごく自然な形でそれらを表すことができたよ。各賞を総なめにしていく社会派映画のようにね。人はそういうものを観たり声援を送ったりするのが好きなんだよ。私たちは人の心に直接訴えたかったんだ。ありふれた感動なんてものは使わずに。だってそんなことをしたら、観客は途端にそっぽを向いてしまうからね。」

――主人公のルカドールのキャラクターはどこから着想を得たのですか?
「ファンタジア映画祭がいわゆる『ミル・マスカラス(有名なルカのプロレスラー)』に賞を与えたなんて信じられないよ。レスリングが好きな人も、昔のルカドール映画を観るのが好きな人もたくさんいるのに、なぜ誰も新しいルカドール映画をつくらないんだろうって思ったんだ。レスラーたちはもちろんスーパーヒーローなんだけど、夕食にステーキを食べに出かけるときでさえ、あのマスクをかぶっていくんだよ。最高でしょ。よし、誰もつくらないんだったら、自分たちがつくろうじゃないかっていうのがきかっけなんだ。」

――このキャラクターによって、あなたはヒーロー映画に大きな変革をもたらしましたね。

「脚本を書いたり、実際に撮影している中で気がついたんだけど、ヒーローは最初から存在するものじゃないんだ。人々が手を携えて立ち上がり、共に闘うときに初めて生まれるものなんだってね。」

World News[520]「ハリウッド、シリーズ時代の終焉?」[5]でご紹介したように、高い制作費をかけたハリウッドの続編映画から遠のきつつある客足は今、こうした「低予算だけれども、見たことのない世界で凄いものを見せてくれる映画」に向かいつつあるのかもしれない。本作も、マイノリティや隔絶された人々を低予算で描きスマッシュヒットとなった『タンジェリン』、『ゲット・アウト』や『ムーンライト』に続く作品となれるかどうか。日本公開の有無も含めて注目したい作品の一つである。

《参照サイトURL》

[1] http://www.hollywoodreporter.com/review/lowlife-1026244
[2] http://www.fantasiafestival.com/festival/2017/en
[3] http://www.comingsoon.net/movies/news/603227-watch-short-film-narcocorrido-powerful-drug-ballad
[4] http://www.electricsheepmagazine.co.uk/features/2017/08/02/lowlife-interview-with-cast-and-crew/
[5] http://indietokyo.com/?p=6506

小島ともみ
80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。


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