[524]インタビューにみるMUBI


MUBIの創業者であるエフェ・カカレルは2006年のクリスマス、東京のカフェにいた。

「私はウォン・カーウァイ監督の”In the Mood for Love” (邦題:花様年華) が観たいと思いました。しかし当時そのためのオンライン上のプラットフォームは存在していませんでした。私は信じられなかったんです。世界で3番目に巨大な映画市場、最速のブロードバンド、そしてモバイル機器に強いオーディエンスを擁する日本でもそれができないのだと。その時私は思ったんです。そうしたプラットフォームが存在しないことの方が不自然なのではないか。それから私はこの分野に関心を抱くようになりました。」

サンフランシスコへの帰りのフライト中、彼はこの新しく芽生えた考えを企画書にまとめた。*1

創業者のエフェ・カカレル

MUBIは現在では10万人を超える登録者数をもつVOD(ビデオ・オンデマンド・サービス)である。Netflixやamazonに比べると規模は小さいが、「カルト映画や、名作映画、インデペンデント映画、受賞歴のある映画をみることができるオンラインのシネマ」として、他のサービスでは観れなかったり、埋もれていたりする作品を鑑賞することができる。そのスタイルは、常時観ることができるのを30作品に限定し、専門のスタッフによって選ばれた作品が毎日新たに加わる代わりに、作品リストの中から一本が外れていくというものだ。

このようなシステムはNetflixなど無制限に映画を観ることができるサービスに比べれば、作品数にしても、その配信期間にしてもかなり限定的な印象である。しかし逆にいえば、どの映画を観るかで悩んだりする必要もなければ、利用者の趣向に合わせて表示される「おすすめ」の中で自己完結することもなく、本当に良い映画とも出会いも生まれるのかもしれない。

本記事では、Netflixやamazonといった他の大規模なVODサービスに対してMUBIがどのように自分たちのサービスを位置付けているか、またMUBIで配信されるのと同じような映画を上映しているシネマーテークについてどう考えているのか、インタビューを元に明らかにする。エフェ・カカレルと、MUBIのコンテンツディレクターを務めるダニエル・カスマンは次のように述べる。

エフェ: 当初私たちはNetflixのようになりたかったんです。しかし観たいもの全てを見ることができるようなサイトのユニット経済にはすでに資本が集中していました。問題はどのようにそれらのサイトと競えるような経験を作り出すことができるか、もしすでに10000作品を観れるサイトがあるなら、限られた数の選ばれた作品のみにしてはどうか、ということでした。*2

Q: あなたはMUBIの典型的な登録者が、MUBIに加えてNetflixやHuluといった大きなサービスを使い続けると思いますか?

カスマン: 明らかにそうだと思っています。MUBIはNetflixをはじめとする幅のあるコンテンツを持つサービスの替わりにはなりません。(…)しかし現実的には人々はシネコンと芸術系の映画館、両方の近くに住みたいと思いますよね。実際私もNetflix、Amazon Prime、Filmstruck、そしてMUBIのそれぞれに登録しているんです。(…)当然のことながらMUBIに登録している人も複数個登録してるはずです。基本的にMUBIは、支配的なサービスとは違うもの、むしろそれを補うような経験を提供しようとしています。

コンテンツディレクターのダニエル・カスマン

Q: MUBIの中の作品のいくつかは、NetflixやHuluでも視聴することができます。MUBIにとって作品が限定配信されることはどのように重要ですか?

カスマン: そうですね。理想的には私たちがお見せするもの全てをMUBI限定にしたいのですが、私たちは製作者ファーストなので映画が確実に彼らの利益を最大化することができるようにしたいのです。私たちは小さなサービスです。私たちは全ての映画で利益をあげていますが、短編映画でもなければ、MUBIでの配信のみで製作者にとって金銭的な解決策になることはありません。(…)そのため私たちが限定配信を望んでいる反面、映画製作者にとっては常に良い結果をもたらすわけではないのです。

Q: あなた達はリンカーンセンターや他のシネマテーク型の映画館と素晴らしい関係を持っているようですね。それはとても興味深いことです。というのもある意味MUBIはこれらの映画館とはお互いに競争関係にあるように思えるからです。どうやってそのような関係を築くことができたのでしょうか、そしてお互いにどのようにその関係を生かしているのでしょうか。

カスマン: このような関係は私たちにとってもとても重要なのです。私たちは自分たちを、単なるスポンサーとしてではなく、パートナーとしてみなしています。それは「私たちが提供しなければ出会うことが難しい映画へ、世界中からのアクセスを可能にする」というMUBI本来のビジョンからきています。実際には、オーバーハウゼン国際映画祭のようなすばらしい映画祭であっても、5月にドイツのオーバーハウゼンまでいくことができる人はほとんどいません。

Q:そしてそのようなすばらしい映画であっても、オスカー賞にでも選ばれることがなければ、人々がみることは確実にないですよね?

カスマン: その通りです。そして仮にそうした映画のうちのどれかが、オスカー賞に選ばれたとしても、おそらく人々は、オスカー賞にノミネートされた短編映画をみることができるアートシネマのある街に住んでいないでしょう。
結局、私たちはこれらの映画を見ることができず、潜在的にそれが存在することにも気づいていない多くの人々を問題にしているのです。だからこそ、最初のステップとして私たちには同じような映画を支援するパートナーの存在が常に重要なのです。私たちはひどい映画を見せたりするパートナーには興味がありません。
したがって、パートナーであるシネマテークなどにとっては、広範囲の観客に彼らのプログラムを観てもらうためのMUBIをよりプラットフォームとして使うことができます。彼らが見せてくれる映画は、私たちが配信する映画と非常によく似ているので、彼らが持っている映画を配信することは、彼らにとって利害の対立とはならないのです。*3

MUBIは2016年から映画配給にも乗り出し、レイチェル・ラング監督の”Baden Baden”などの映画を取得している。また、Netflxやamzonと同じようにプロダクションへも参入する野心を持っているようだ。今後MUBIのようなサービスがNetflixやamazon、そして伝統的な映画産業との関係の中で、どのように展開していくのか注視していきたい。

参考サイト

*1

https://www.semaine.com/stories/efe-cakarel

*2

Mubi: A Streaming Service With a Ticking Clock

*3

Behind the Screens: MUBI’s Director of Content on Streamlining Streaming Services

http://www.cineuropa.org/dd.aspx?t=dossier&l=en&did=329392&tid=1369

村上 ジロー 
World News担当。国際基督教大学(ICU)在学中。文学や政治学などかじりつつ、主に歴史学を学んでいます。歴史は好きですが、(ちょっと)アプローチを変えて映画についても考えていきたいと思ってます。


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