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『パイレーツ・オブ・カリビアン』、『トランスフォーマー』、『スパイダーマン』など、今年も人気シリーズの新作が目白押しだ。マーベルスタジオのマーベル・シネマティック・ユニバースの成功に続こうと、ワーナー・ブラザースのDCエクステンデッド・ユニバース、ユニバーサルのダーク・ユニバースなどの作品も続々と公開を控えている。

近年、増え続けているこうした高い製作費のシリーズ映画の存在は、低~中規模の予算の映画にとって悩みの種だ。実際、イギリスではシリーズもののハリウッド大作の製作を誘致し収益を上げる一方で、インディペンデント映画の製作本数は減っている。また、これは何もインディペンデント映画だけの現象ではない。映画アナリストのデヴィッド・ハンコックによると、ハリウッドのメジャースタジオにおいても、オリジナル作品の製作は減っているという。

「経済危機で予算削減を迫られたメジャースタジオは、多くのオリジナル作品の製作をとりやめ、リスクの少ないシリーズものや、すでに人気のあるスーパーヒーローものに巨額の費用をつぎ込むことになったんだ。」*1

しかし、シリーズ作品の成功にも、陰りが見えてきている。先ほどあげたような人気シリーズの新作がたてつづけに公開されているにも関わらず、この夏の全米興行収入は、8%も落ち込んでいるという。これは、スクリーンを占める多くのシリーズが前作の収益を越えられないことが原因だ。たとえば、全米で5月に公開された『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』は、2ヶ月で1億6500万ドルの興行収入をあげたが、これは1作目の4億2300万ドル、2作目の3億ドル、3作目の2億4100万ドルに遠く及ばない。このようにシリーズ作品では、右肩上がりの製作費に反比例して、収益が下がることはめずらしくない。*2

製作費が上がっても、シリーズを重ねるごとに質が落ちているのが問題だという声もある。しかし、例えばアメリカですでに公開されている新作『猿の惑星:聖戦記』は評価が非常に高く、質もいいが、それでも現在、前作の興行収入に届いていない。*3 もし同作が少なくとも前作と同程度の収益をあげられないのなら、それは質の問題だけではなさそうだ。観客が、シリーズ作品そのものに飽きてしまっているのではないだろうか。

そうした傾向は、アメリカの興行収入ランキングにも表れている。7月の第3週には、クリストファー・ノーラン監督のオリジナル作品、『ダンケルク』が1位($5000万)、マルコム・D・リー監督の『Girls Trip』($3000万)が2位と、3位の『スパイダーマン:ホームカミング』($2200万)に差をつけ話題になった。特にアフリカ系女性4人の友情を描いたコメディ『Girls Trip』の快進撃には注目が集まっている。*4 7月のトータルのランキングでは公開直後の成績が良かった『スパイダーマン』や『猿の惑星』に届かないものの、成績が下がり続けている2作に比べ、『ダンケルク』と『Girls Trip』は今後も伸びていくことが予想されるだろう。*5

観客が映画を観に行くうえで、なじみがあり、ある程度、質が保証されているシリーズ作品を選ぶことは想像に難くない。しかし、シリーズの熱心なファンでないのなら、そうした期待を裏切らない作品ばかりでは飽きがきてしまう。観客は、想像もつかない、新鮮な驚きに満ちた物語を探しているのだ。皮肉にも、リスクを避けるためのシリーズ作品が、リスクになりうる時代がやってきているのかもしれない。

*1
https://www.theguardian.com/film/2017/may/31/hollywood-and-tv-put-the-squeeze-on-uks-low-budget-film-makers?fref=gc

*2
http://www.hollywoodreporter.com/news/box-office-hollywoods-franchise-crisis-worsens-july-fourth-1018493

*3
http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/features/franchise-fatigue-blockbuster-sequels-hollywood-obsession-marvel-universal-warner-bros-despicable-me-a7829546.html?fref=gc

*4
http://www.indiewire.com/2017/07/dunkirk-girls-trip-box-office-valerian-1201858756/?fref=gc

*5
http://www.boxofficemojo.com/monthly/?view=releasedate&yr=2017&month=7&fref=gc

北島さつき
World News&制作部。
大学卒業後、英国の大学院でFilm Studies修了。現在はアート系の映像作品に関わりながら、映画・映像の可能性を模索中。映画はロマン。


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