[511]レビューは映画を殺すのか?米レビューサイトROTTEN TOMATOESをめぐる攻防


夏の大作映画封切りシーズンを迎えた、ある週末。仕事帰りに何か一本観ようかな、デートで映画を楽しもうというとき、何を基準に作品を選びますか? 日ごろ映画をよく観る人なら、独自の情報網なりアンテナなりを駆使して、作品を選ぶのはむしろ楽しい作業かもしれません。しかし、めったに映画館に行かない人にとっては「この一本」を決めるのは容易なことではないでしょう。映画を観るにはそれなりのお金と時間がかかります。注ぎ込んだ対価に見合う「面白くていい作品を観たい」と思うのは当然のことです。そこで、雑誌やサイト、新聞などのさまざまな映画批評が頼りにされるわけです。では、大勢の人が利用し信頼しているレビューサイトで、「15%」の支持率やら「トム・クルーズ史上最悪の映画」などといった酷評を目にしたとき、それでもその作品にたまらない魅力を感じて劇場に足を運ぶでしょうか?

米国大手映画レビューサイト「ROTTEN TOMATOES」で19%、32%の数字を押された『ベイ・ウォッチ』、『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』は、米国にて観客動員の期待できるメモリアルデー(5月の最終月曜日)週末の最低興収記録を20年ぶりに塗り替えました。このジャッジに、『ベイ・ウォッチ』主演のドウェイン・ジョンソンは「批評家どもはこの映画を殺しにかかってきているようだな。ファンは映画を愛してくれている。ファンからの支持は絶大だ。批評家と一般の乖離」と嘆きのツイートをしています。実際、『ベイ・ウォッチ』の一般スコアは63%と決して悪い数字ではありません。『スター・ウォーズ9』でメガホンをとることが決まっているコリン・トレヴォロウ監督の新作サスペンス・コメディ『The Book of Henry』も批評家スコアが23%と低いのに対し、一般スコアは67%となかなかの好評です。しかし、「ROTTEN TOMATOES」で15%の評価を下された『トランスフォーマー/最後の騎士』が予想を下回るどころか、シリーズ5作品中、最低の成績をマークしたのを見るにつけ、トマトメーターの低い作品の運命は決まったようなものです。そして、今やトマトメーターの評価は、続編の有無をも左右するとわれています。15%のスコアと手ひどいコメントを浴びたトム・クルーズ主演の『The Mummy』には続編の可能性はないだろう、と。

この状況について怒りをあらわにしたのが『ラッシュアワー』『X-MEN:ファイナル・ディシジョン』のブレット・ラトナー監督でした。「こんにちの映画文化で最も厄介なのがRotten Tomatoesだ。あれは映画産業を破壊している」。ラトナー監督がこう言い放ったのも無理はありません。彼は、自らの制作会社ラットパック・エンターテイメントが共同制作した映画『バットマンvsスーパーマン』が散々な結果に終わったことについて、こうぼやいています。「私は映画の批評に対して尊敬と賞賛を持っている。私が子どものころ、映画批評は真の芸術であり、そこには知性があった。ポーリン・ケイル(ニューヨーカー誌の元映画評担当)などの素晴らしいレビューがあった。それはもはや存在しない。今は数字だけだ。『いい』か『悪い』かで割り切っているだけ。何でも『トマトメーターは幾つ?』ときたもんだ。悲しいことに、『バットマンVSスーパーマン』はトマトメーターが非常に低かったから、成功への道を閉ざされたんだよ」。『バットマンvsスーパーマン』については、ファンの間で「ROTTEN TOMATOESのアメコミ映画に対する評価は不当」としてサイトの閉鎖を求める署名活動がネットで展開されました。

こうした意見について、当のROTTEN TOMATOES編集長マット・アチティ氏は、「どの映画にも成功してほしいんだ。心からそう思っている。私の観る映画がすべていい作品であってほしいと思う。人が失敗するところなんて見たくないからね」と冷静です。

1989年に立ち上げられたROTTEN TOMATOESはここ2年ほどの間に急速に重要性を高めています。映画研究会社ナショナルリサーチグループ(NRG)が集計した統計は、「頻繁に映画を観に行くほぼすべての人が、ROTTEN TOMATOESに信頼を置いている」と報告しています。「我々が気にするのは『観る映画を決める前に、どれぐらいROTTEN TOMATOESをチェックしているか』だ」。2014年には全観客の28%がチェックしていると答え、 2016年には36%へと増加しました。10代でさえ23%から34%と急増しています。これは驚くべき大躍進です。

ソーシャルメディア調査会社フィジーオロジー社の共同設立者ベン・カールソン氏は「良いスコアよりも悪いスコアのほうが人の意見を左右する。30%未満の低スコア映画と70%以上の高スコア映画が語られる場合、前者のインパクトのほうが300%大きな衝撃がある」と語っています。トマトメーターが悪ければ、週末の興収が火の車になるのは明らかですが、一般観客の評価が尻つぼみしていけば、その作品は長い時間をかけて浸透していく機会を失います。カールソン氏はまた、「観客が映画にチャンスを与えていない。予算が小さく、オリジナルなコンセプトに基づいた中規模クラスの映画は、あっという間に消えていってしまう」と述べています。もちろん、中規模・低予算映画の運命がすべて決定づけられているわけではありません。”Get Out”、『ムーンライト』、『ラ・ラ・ランド』は中規模・低予算映画でありながら大ヒットを記録しました。要は、作品次第だということです。

好んでひどい映画をつくろうとする人はいません。制作会社はROTTEN TOMATOESの優位性と普遍性を打ち砕くための先制攻撃を開始しました。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVol.1』の例のように、トマトメーターに先んじて「高得点」「高い評価」という情報をリークするのです。それによってトマトメーターもおのずと上がってくるという仕掛けです。制作会社にとっては、以前、総合誌バニティフェアが「20世紀フォックス社の研究報告にあるように」と伝えた、批評家向けの上映会を取りやめるといったことも有効な手かもしれません。「ああ知っているよ。この映画がうんざりだっていうことは」という批評家のおしゃべりをとめることができるというわけです

かような状況は、ただ単に制作会社vs ROTTEN TOMATOESという対立構造を表しているのではありません。ROTTEN TOMATOESの運営母体は、オンラインチケット販売を事業とするFandangoという会社です。ROTTEN TOMATOESで作品を確認してFandangoでチケットを買う、というのはごく一般的なチケット購入の流れになっています。そのファンダンゴを保有している会社の1つがワーナー・ブラザーズなのです。あの、悪名高き『バットマンvsスーパーマン』を制作した会社です。ワーナー・ブラザーズがチケットの売れ行きを気にしたのであれば、『バットマンvsスーパーマン』のトマトメーターはあれほど手厳しいことにならなかったかもしれません。ダメなものにははっきりとダメ出しをする。それによって制作会社には立ち止まって考える瞬間が生まれ、観客にはより良い作品と巡り会えるチャンスが増えるでしょう。公正で手厳しいレビューが映画を育てる。日本の映画界はどうでしょうか?

[参照サイト] https://qz.com/995202/movie-studios-are-blaming-rotten-tomatoes-for-killing-baywatch-and-pirates-of-the-caribbean-which-no-one-wanted-to-see/
https://www.theguardian.com/film/filmblog/2017/mar/24/brett-ratner-rotten-tomatoes-gets-a-semi-fresh-rating-from-me
https://www.wired.com/story/is-rotten-tomatoes-ruining-movies/

[画像使用] https://www.yahoo.com/movies/something-rotten-rotten-tomatoes-investigating-174613224.html

小島ともみ
80%ぐらいが映画で、10%はミステリ小説、あとの10%はUKロックでできています。ホラー・スプラッター・スラッシャー映画大好きですが、お化け屋敷は入れません。


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