[497] 『ツイン・ピークス』新シリーズがスタート


「I’ll see you again in 25 years(25年後にまた会いましょう)」。ローラ・パーマーが“赤い部屋”でクーパー捜査官にそう告げてから25年(+1年)。1990~1991年に放映されたデヴィッド・リンチ&マーク・フロスト製作のドラマ『ツイン・ピークス』の25年後を描く新シリーズの放送が、アメリカの有料チャンネルSHOWTIMEで5月21日(日本時間22日)から始まりました[*1]。日本でも『ツイン・ピークス The Return』というタイトルで7月22日からWOWOWで放送予定ですが、この伝説的なドラマの新章を観る前に、放送開始前の時点で明らかになっている概要、その再始動の経緯を、デヴィッド・リンチや関係者の発言を踏まえながらおさらいしておきましょう。

今回のシリーズは全18話からなり、主人公のクーパー捜査官を演じるカイル・マクラクランを始め前シリーズの主要キャストの多くが続投(ただし、クーパーの相棒的存在の保安官ハリーを演じたマイケル・オントキーンやララ・フリン・ボイル、パイパー・ローリー、ジョアン・チェンは出演せず)。さらにローラ・ダーン、ナオミ・ワッツ、ティム・ロス、ジェニファー・ジェイソン・リー、モニカ・ベルッチ、マイケル・セラ、トレント・レズナーなど錚々たる顔ぶれが新キャストとして加わり、総勢200人を超えるキャストが参加することが発表されています。
5月9日に発売されたVariety誌の記事[*2]によれば、リンチとフロストが『ツイン・ピークス』再始動に向けた話し合いを始めたのは2012年に遡ります。そして前2シーズン(全30回)をABCで製作・放映した際に共に働いたゲイリー・S・レヴィン氏が現在番組編成局長を務めているSHOWTIMEと2014年秋に全9話のドラマを製作するということで一旦は合意。しかし翌2015年1月、フロスト曰く「まるでマンハッタンの電話帳のような」400ページ超のスクリプトをリンチはSHOWTIMEに提出します。その際リンチは、自身がシリーズすべての指揮をとり、全シーンを撮り終えた後、編集の段階で各エピソード(各回)に分割していくという計画――つまり当初の予定より、放送回数も予算も増やさざるをえない条件を提示。SHOWTIMEの社内で大幅な予算超過に難色を示す声が上がったことでプロジェクトは行き詰り、同年4月にはリンチが「1年4カ月に及び交渉を続けてきたが、このスクリプトを映像化する上で私が必要だと思うやり方を実現するだけの予算が得られないため、私はこのプロジェクトから降りる」と公に表明する自体に陥ります。そこで「こういった種類の契約に慣れた人間の物差しで測るようなプロジェクトではない。映画製作者の視点から考えれば答えは見つかる」と判断したSHOWTIMEのデヴィッド・ネヴィンズCEOはクッキーを手土産に自らリンチの自宅を訪問し、リンチと徹底的に話し合ったといいます。その結果、SHOWTIMEがリンチの要求を呑む形で両者は合意、2016年に約1年をかけて撮影が行われ、リンチは計18時間=全18話に編集されたフッテージをドーナツを添えてSHOWTIMEに届けたのです。

過去の2シリーズはリンチやフロストが監督したエピソードもあったものの、全30話のうち10人を超える監督が演出を手がけました(なかにはダイアン・キートンやジェームズ・フォーリーが監督した回も)。しかし今回の新シリーズは上記のような方法で撮影、編集がされたため全てのシーンをリンチ自身が演出しています。あらかじめ放送回数を定めず、シリーズを通して自ら監督したことについてリンチはこのように説明しています。
「私は常にテレビの仕事も映画と同様に考えているんだ。1本の映画だとね。『ツイン・ピークス』のパイロット版(シーズン1の初回“序章”)を撮ったときも、短編映画だと思っていた。パイロット版は短編ではなく長編映画の長さになったが、すでに開かれた終わりが存在していた。今回も同じことで、1本の映画がいくつかのパートに分かれているだけのことだよ」[*3] 「私としてはこれを18時間の映画だと思っている。だから映画を演出するように作った」「私はこの継続的な物語のアイデアが大好きだ。長編映画は長くて2時間半から3時間だが、ケーブルテレビは物語を延々と語ることができる。それは本当に素晴らしいことだよ」[*4]

『ツイン・ピークス』を映画を作るように撮ったという一方で、今月の初めにはリンチがもう劇場長編映画は作らないと発言、『インランド・エンパイア』(2006)が最後の劇場長編になるという報道[*5]もありました。
その報道について、リンチは「そうは言っていない。間違って伝わっている」としながら、こう続けています。
「『インランド・エンパイア』を発表した時、あの映画は3時間近い長さがあったが、誰もそれを理解しなかった。夏休みの大作映画ですら興行的にうまくいっていない時期だったから、劇場でも短期間しか上映されなかった。」[*3] 「私は今は長編映画にとって、少なくとも私が観たい、作りたいような映画にとって良い時代ではないと言ったんだ。劇場は稼ぐ必要があり、そのためにたくさんの観客が集まる作品を上映する。そしてアートシアターは消えつつあるが、今はケーブルテレビが新しくアートシアターの役割を果たしているということが言いたかった」[*4]

リンチが信じる「直観、楽観主義、エネルギー、そしてある種のボーイスカウト精神」を全て持ち合わせている[*2]というクーパー捜査官が、今度の新シリーズでどんな事件や謎に直面するのか、その大部分はまだベールに包まれたままです。
ただ、SHOWTIMEのネヴィンズCEOは『ツイン・ピークス』新章では、リンチの芸術家としての進化を見ることができるだけでなく、彼の現在のアメリカに対する視点が存在していると述べています。
「デヴィッドは極限にまで自身を進化させ続けているが、そのテーマは常に一貫していると思う。彼は理想のアメリカについて一定の考えを持っている。現代的ではない要素も含まれるにせよ、彼は中西部のアメリカが持つ健全さとその裏側、二つの側面を考え続けている。“アメリカを再び偉大な国にしよう”(トランプ大統領が選挙戦で使ったスローガン)というフレーズが果たして何を意味するのかという、現在のアメリカが抱える問題に対してデヴィッド・リンチは示唆に富んだ考えを提示していると思う」[*2]

リンチ自身は、この25年の間に現実に起こった9.11やオバマ政権下での出来事からの影響はあったかという質問に対しても「ある意味ではイエス。しかしそれはごくわずかな割合だ」[*6]と語るに留め、第1,2シーズンのドラマ放映後に製作された、ローラ・パーマー殺人事件の前日譚が語られる映画『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』(1992)が新シーズンと深く関わっていることをほぼ唯一のヒントとして明かしているだけです。
そして、瞬時に情報が拡散され、すぐに情報が得られないと苛立つ人も多いこのインターネット時代おいて、これほど事前情報が明かされない秘密だらけのドラマは珍しいと指摘する記者の意見に対しては、以下のように反応しています。
「いやいや、人々は苛立っているのではなく、好奇心が強いんだよ。好奇心が強いことは時にストレスにもなるがね。人々は何でもすぐに知りたいと思っているが、知りたいことがわかったらもうそのことを気にしなくなる。『ツイン・ピークス』の世界に入るにはそれを“体験”するしかない。その雰囲気を感じ取り、旅に出るんだ」[*3] 「最近は映画の予告編が全ての物語を伝えてしまっている。私はそのことを非常に有害だと考えている。私は映画館に行くまで何も知りたくはない。自分で発見し、その世界に入っていきたい。遮るものがない、できるだけ良い状態で映像や音に接したい。そうすることで映画を体験できるんだ」[*4]

新シーズンの第1話と第2話がアメリカで放映されたばかりの今、インターネット上には早速その批評や感想が続々と出始めています。私たちもまずはリンチとクーパー捜査官の新たな冒険を一緒に“体験”するしかなさそうです。

Kyle MacLachlan in a still from Twin Peaks. Photo: Suzanne Tenner/SHOWTIME

*1
http://www.sho.com/twin-peaks

*2
http://variety.com/2017/tv/features/twin-peaks-revival-david-lynch-showtime-1202419020/

*3
http://deadline.com/2017/05/twin-peaks-david-lynch-cannes-showtime-disruptors-news-1202090469/

*4
http://www.rollingstone.com/tv/features/david-lynch-talks-twin-peaks-revival-mulholland-drive-w482337

*5
http://www.indiewire.com/2017/05/david-lynch-twin-peaks-film-retirement-inland-empire-1201813175/

*6
https://www.wired.com/2017/05/david-lynch-twin-peaks-interview/

黒岩幹子
「boidマガジン」(http://boid-mag.publishers.fm/)や「東京中日スポーツ」モータースポーツ面の編集に携わりつつ、雑誌「nobody」「映画芸術」などに寄稿させてもらってます。


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