第89回のアカデミー作品賞を受賞した『ムーンライト』は黒人男性の同性愛を描き、1950年代の女性同性愛を描いた『キャロル』が前回アカデミー賞ノミネートされた。
 最近、所謂LGBTのキャラクターが映画のなかでよく見られるのは、世界的なセクシュアル・マイノリティーに対する関心の高まりを反映していると言えるだろう。日本も欧米に比べればそれらに関する議論や作品などはまだまだ少ないが、世界ではLGBT作品の鑑賞すら許されていない国もある。例えばマレーシアでは『美女と野獣』(2016)からゲイシーンを取り除くように公開前から要請したり、イランでは2010年に公開された”Shish va Pish”では明らかな同性愛描写はなかったのだが、男性の登場人物二人のボディーコンタクトが多いといった理由だけで聖職者をはじめとする一般市民からも激しい批判が相次いだ
 先日日本での劇場公開が始まった『ムーンライト』も、同じ理由から中国では上映が認められない可能性が高い。中国はその厳しい映画検閲で有名だ。それが同性愛をテーマにしたものとなればさらに厳しさは増す。実際、上に述べたトッド・ヘインズの『キャロル』や同じくオスカーノミネート作品であるアン・リーの『ブロークバック・マウンテン』(2005)なども中国の検閲の前に屈したという前例もある。検閲も本作を「中国の市場に適しておらず、政治的に『正しくない』」と認識しているようで、同作品の国際配給権を有するA24の代表も「現時点で中国での上映に関するこれといったアップデートは無い」としていて、現時点で上映の望みは薄そうだ。
 ただ、同性愛を扱った映画の上映が望みが全くないということでも無い。エマ・ワトソン主演の『美女と野獣』は例にもれず同性愛の描写が見られ(アラバマ州の映画館は同性愛の描写があるという理由から同作の上映をキャンセルしている。)話題となっているが、その『美女と野獣』が中国でノーカットで公開されて大ヒットを記録しているのだ。それが同性愛映画でも中国で上映することができるという期待を我々に抱かせるのだが、一部の報道による『美女と野獣』の「経済力」が政治を凌駕したとも推測されている。その観点からすると、インディー配給から始まった『ムーンライト』は『美女と野獣』ほど経済的なインセンティブを有していないことも中国での上映の障壁になるのではないかと考えられている。
 中国ではIQIYI(愛奇芸)というオンラインストリーミングサービスが、『ムーンライト』のアカデミー賞受賞直後、配信権を獲得している。オンラインで鑑賞することができるかもしれないが、中国の検閲はそういったストリーミングサービスに対しても監視の目を光らせているのでどうなるかは想像できない。

 中国の映画監督ファン・ポポは「今日の国際的な映画は少なからずゲイの要素を含んでいます。それらの作品全てを検閲が排除していたら何も上映できません。」と指摘している通り、映画は同性愛の表現にオープンなりつつある。一方、映画業界としては中国の世界有数の映画市場も手放すことは勿論できない。このディレンマに映画業界はどうメスを入れるのだろうか、映画ファンはしっかり見守っていかなくてはならない。

参照:
1: http://screenrant.com/moonlight-movie-china-release/

2: http://www.care2.com/causes/irans-first-gay-movie.html

3:http://screenrant.com/beauty-beast-disney-gay-lefou/

4:http://www.indiewire.com/…/moonlight-china-release-gay…/

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奥村耕平 WorldNews部門。大阪の大学生。服と映画が好きです。アッバス・キアロスタミを中心にイランの映画について研究しながら東京の映画視聴環境に日々嫉妬中…。


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