3月1日、フランスの大手映画会社ゴーモン社(Gaumont)がシネマ・ゴーモン・パテ社(Les Cinémas Gaumont Pathé)に保有する34パーセントの株式を3億8000万ユーロで売却し、それを共同株主の映画会社パテ社(Pathé)が買い取ったことが公になった。シネマ・ゴーモン・パテ社とは、ゴーモン社とパテ社が2001年に共同経営を始めた映画館運営会社だ。母国フランスだけでなく、スイス、オランダ、ベルギーに108の映画館を有し、昨年までに延べ6700万人を動員してきた。ヨーロッパを代表する映画館チェーンへと成長し、近年の苦しい映画産業をつねに盛り上げてきた。事実上、シネマ・ゴーモン・パテ社はパテ社の子会社となり、ゴーモン社は映画館事業を撤退する。映画館事業を撤退後は、テレビドラマの製作に本腰を入れるそうだ。

 パテ社会長の兄ジェローム・セドゥとゴーモン社会長の弟ニコラ・セドゥ。女優レア・セドゥの祖父と大叔父にあたる2人は、16年間続けてきた兄弟経営に終止符を打った。その決断について、現在77歳のニコラ・セドゥが「彼らの言いなりにはなりたくなかった。今回パテはお互いのために正しい提案をしてくれた」と述べているように、設立当初から経営の主導権を握っていたのは兄のジェローム率いるパテ社であったようだ。また、これからのゴーモンの方向性についてニコラは以下のように述べている。「今後は“世界”に照準を定め、よりインターナショナルな事業に力を入れていきたい。今、シドニー・デュマを中心とする若く精力的な社員たちは、経営ではなく製作への情熱にあふれているんです。ひとつの映画に投資する場合、常にリスクがついて回ります。一方で、Netflixにシリーズを売った場合はリスクにおびえることもなく、会社にとって非常に有益です」。

 ニコラが言及しているシドニー・ドゥマとは、彼が2004年にCEOの座を譲った実娘であり、製作プロデューサーである。代表作は『オンリー・ゴッド』(13)、『ネオン・デーモン』(16)、『最高の人生をあなたと』(11)など。Netflixでの配信を目的に製作したドラマシリーズ『ナルコス』(15-)を筆頭に、『ヘムロック·グローブ』(13-)、『ハンニバル』(13-)の世界的成功を受け、映画よりもシリーズ製作の方が会社に利益をもたらす、ということが確信に変わったという。一製作者として経験豊富な知識を活かしものづくりに精を出すゴーモン社の新顔シドニー。現在49歳の彼女は、以下のように語っている。「今回の売却は、私たちにとって非常に重要な決断でした。アメリカとヨーロッパにおけるテレビシリーズの生産により情熱を注ぐことができ、映画製作にもさらになる発展が期待できます。ゴーモン社の明るい未来へのアクセルとなることでしょう」。

 レオン・ゴーモン(1864-1946)が設立した世界最古の映画会社ゴーモン。設立当初は写真機材会社であったが、レオンの女性秘書アリス・ギイ=ブラシェ(1873-1968)の協力のもと、映画事業拡大に尽力。アリスにより1900年に製作された短編映画『キャベツ畑の妖精』については、女性映画監督の誕生でもあり、今では当たり前となった“ストーリー性を持った”映画の誕生となった。100年の時を超え、シドニー・ドゥマという新たな女性の出現によって新時代が築かれていく様も実に興味深い。映画館の経営は、1911年に6000 席の観客席を持つ当時としては最大級の映画館ゴーモン・パラス(Gaumont Palace)をパリに開業したことから始まった。そして、激動の二十世紀のフランス映画産業を共に支えてきた大手2社がやり手実業家セドゥ兄弟をトップに迎え、共同出資で新会社シネマ・ゴーモン・パテを設立したのが2001年だ。

 昨年末、配給と製作に専念するという理由でリュック・ベッソン率いるヨーロッパコープ社(EuropaCorp)は、大型シネマコンプレックス建設事業を売却した。それを買い取ったのがシネマ・ゴーモン・パテ社だった。御年82歳のパテ社会長ジェロームはこのように語っている。「今回の(ゴーモンの株式)買収により、パテは映画館の発展と近代化をはっきりと公言しました。映画館なくして映画は語れません。映画に”映画館“は不可欠です」。

 ゴーモンは今年、15本の映画公開と7本のシリーズの配信を予定している。シリーズ製作は好調なようで、コロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルの人生を描いた『ナルコス』シリーズのシーズン3、アメリカの古き良き70年代の一家を描いたブラックシュールアニメ『FはファミリーのF』シーズン2は共に日本でもNetflixで見ることができる。また、ディズニーの子供向けアニメ『Trulli Tales(原題)』を手掛けている。

 映画館事業は低迷しいていると言われる昨今。それにも関わらず、フランスでは、2016年は過去20年で2番目に高い売り上げだったという。また、CNCによる「映画を鑑賞する最善の手段は何か」という調査において、いまだ87.3パーセントもの人が「映画館」と答えている。テレビやDVD、VODに大きく差をつけて。このように、3Dや4DXなどの最新美術の導入やリクライニングチェア設置などの快適空間へのアイデア等、時代のニーズに応じた映画館の進化により、映画館利用の需要が落ちているかというと案外そうでもないように思える。そんな映画館事業から潔く身を引き、ドラマシリーズに打ち込むというGaumont。ここ数年絶好調なアメリカのシリーズ業界に、新風を吹かせてほしい。

 

参考URL:

http://www.lemonde.fr/economie/article/2017/03/02/gaumont-abandonne-les-salles-de-cinema-pour-se-concentrer-sur-les-series_5087988_3234.html

http://www.lemonde.fr/economie/article/2017/02/19/lumiere-sur-les-salles-obscures_5082081_3234.html

 

https://www.euronext.com/fr/cpr/gaumont-r%C3%A9sultats-annuels-consolid%C3%A9s-au-31-d%C3%A9cembre-2016-projet-de-cession-de-la-participation-d

http://www.capital.fr/bourse/actualites/europacorp-cede-ses-activites-d-exploitation-cinematographique-aux-cinemas-gaumont-pathe-1194104

http://www.allocine.fr/article/fichearticle_gen_carticle=18660887.html

 

田中めぐみ

World News担当。在学中は演劇に没頭、その後フランスへ。TOHOシネマズで働くも、客室乗務員に転身。雲の上でも接客中も、頭の中は映画のこと。現在は字幕翻訳家を目指し勉強中。永遠のミューズはイザベル・アジャー二。


2 Comments
  1. 初めまして、海外視察旅行を専門に行っております、TCI JAPANの渡辺と申します。

    記事を拝見し、非常に刺激を受けました。

    どうもありがとうございます。

    • TCI JAPAN 渡辺さま
      嬉しいコメントをありがとうございます。
      日本の外で今まさに起きている事柄について、関心をもってもらうきっかけになれれば本望です。
      今後ともよろしくお願いいたします。

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