[471]デビッド・ロウリーの新作”A Ghost Story”



ディズニー映画『ピートと秘密の友達』を監督したデビッド・ロウリーの最新作”A Ghost Story”が先月末まで開催されていたサンダンス映画祭で上映され、話題となっている。
”A Ghost Story”は監督の以前の作品『セインツ 約束の果て』に続き、ルーニー・マーラとケイシー・アフレックが主演している。若いミュージシャンのカップルMとC(役柄に名前は与えられていない)は、テキサス州のピアノのある古い家に引っ越しをするが、Cは家の前で交通事故に遭い死んでしまう。Cは白いブランケットを頭から被った”幽霊”となって、Mが残された家の周りをさまよいはじめる。
FilmMaker誌の記事は作品について、「ロウリーは映画において、観客を怖がらせることや、典型的な幽霊物語を語ることには興味がない。ここでの彼の狙いは、幽霊物語というジャンルと伝統的なストーリーテリングが、いかにして時間と死の運命に対する不安を内包しているのか探求することである。この映画を体験するということにとっては予想や先入観など機能しないというだけでなく、言葉の代わりに詩的な画面作りによって作品が成り立っているという点から、私は映画のプロットについて詳しく触れたいとは思わない。」と紹介している。*1

“A Ghost Story”、怪談と題されたこの映画について、ロウリーは自身のインスタグラムで「これはホラー映画ではありません」と述べている。*2「この映画はおそらく怖くないでしょう、あなたがつぎの10の事柄にぞっとさせられない限りは。」10の事柄というのは、窓をじっと見つめる会話のない場面・沈黙・風・パイ・モダンポップミュージック・古いテキサスの家・クリケットの音・次元の境界線・風景・2秒間の骸骨であるが、これらの要素は鑑賞者による作品のレビューでもしばしば触れられている。とりわけ多くの注目を集めているのが、恋人を亡くし途方にくれるM(ルーニー・マーラ)が涙を流しながらパイをむさぼる様子を5分以上の長回しで捉えたことだ。あるレビューはこのように評している。
「”A Ghost Story”には、静かで力強い無数の瞬間が存在している。Mがキッチンの床に座ってパイを平らげる様子を我々は観ていて、皿をこするフォークの音だけが聞こえるなか、時間だけが静かに蓄積してゆく。それは無意味で不必要なシーンのように思われるが、彼女が満たそうとしている虚しさを観客に示している。Mがベッドシーツを洗濯しなかったり、ゴミ箱を空にすることがないのも、同様の喪失感を表しているだろう。いったいどのようにして、彼の存在の痕跡を消してしまう危険をおかすことなどできるだろうか。」*3

IndieWire誌では、ロウリーがこの映画を作った経緯について詳しく触れられている。*4
“A Ghost Story”が上映されたサンダンス映画祭のNEXT部門は、気鋭だがまだ大きな作品を作ったことがなく、今後のブレイクが期待できる作家の映画を紹介することを目的としているという。FilmMaker誌はロウリーについて、「今年のNEXT部門で作品が上映された作家は、いずれも特色ある作品を以前に作っているが、ロウリーと同じような大きな予算環境で映画を撮った経験を持つ作家はいない」と書いている。*1 2本の長編映画を監督した後、ディズニー映画の監督に抜擢されたロウリーは特異な存在であったことが窺える。
ロウリーは『ピートと秘密の友達』を作るなかで、人生における急激な飛躍から、しばしばあらゆることから解放されたいという不安に没入したという。
「2年間の間、ある日全ての物事が意味を失い蒸発するのではないか、という考えが何度も頭をよぎった。私は日々多くのトラブルに対処していた。」そんな折に、ロウリーがヴァージニア・ウルフによる短編小説『幽霊屋敷』の一文「何時に目が覚めても、ちょうどドアが閉まるところだった」*5という一文に着想を得たのが”A Ghost Story”だという。(この言葉は映画の冒頭にも挿入されている。)かつてウルフが「幽霊や幻と、それらの人生と時間に対する関係性への捉えがたい観点は完全に呼応している」と書いたように、その芸術の片鱗を映画を通して探求したい、とロウリーは書いている。
また、“A Ghost Story”のきっかけとなった出来事として、ロウリーと妻が引っ越しをするか否か対立したーロサンゼルスに引っ越そうという妻に対し、ロウリーはテキサスに留まりたいと主張したーことを挙げている。「私が毎日寝たベッドがなくなり、大好きな居場所だった椅子がなくなることを思うと、本当に悲しかった。私は家を去りたくないと思った。(中略)しかし、その家は賃貸だったーそれは私たちのものですらなかった。あの家は映画の中で終わりを遂げたものにとても似ていると思う。」
ロウリーは『ピートと秘密の友達』を完成させた3日後には、”A Ghost Story”の撮影に取りかかったという。

先述のレビューは”A Ghost Story”について、以下のように締めくくっている。
「監督は、まるで到着することがないのに聞こえる列車の鼓動のようなイメージで映画を覆った。それは映画に潜む主張ー時間に対する無関心さに結びついている。ここでは夢や霊的なものと、そこで交わされるコミュニケーションとはまるで繋がりがなく、実際、劇中で唯一意味のある会話は、野心の無益さに酔った政党哲学者による独白のみだ。
“A Ghost Story”は、熱心なシネフィルによってのみ楽しまれる単純なアート作品ではない。それは美しく、全く文字通りに、心につきまとう我々の脆弱な人間性の肖像である。それがこの世における我々の実存を声高に肯定するものではないということは、人々を気落ちさせることかもしれない。しかし対照的に、デビッド・ロウリーは時の経過とともにただ価値を増していくような力強い作品を作り上げた。」*3

“A Ghost Story”は、現段階ではアメリカ国内での配給が決定している。また、デビッド・ロウリー、ルーニー・マーラ、ケイシー・アフレックらは数年おきに共に映画を撮ることを計画しているといい、こちらも注目を集めそうだ。*6

参照
*1filmmakermagazine.com/101438-sundance-david-lowerys-a-ghost-story-is-a-major-achievement-and-a-curious-next-entry/#.WJGOkZFWBiu
*2http://theplaylist.net/david-lowery-says-sundance-entry-ghost-story-rooney-mara-casey-affleck-not-horror-film-teases-details-20170113/
*3http://www.popmatters.com/review/sundance-2017-before-i-fall-a-ghost-story/
*4http://www.indiewire.com/2017/01/a-ghost-story-david-lowery-interview-making-of-rooney-mara-casey-affleck-sundance-2017-1201774735/2/
*5『幽霊屋敷』ヴァージニア・ウルフ著/柴田元幸訳/MONKEY vol.5(スイッチ・パブリッシング発行)より
*6https://thefilmstage.com/news/rooney-mara-casey-affleck-and-david-lowery-plan-to-shoot-a-new-film-every-few-years/

吉田晴妃
現在大学生。英語と映画は勉強中。映画を観ているときの、未知の場所に行ったような感じが好きです。映画の保存に興味があります。


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