今年3月に日本での公開が始まるミア・ハンセン=ラヴの最新作『未来よ こんにちは』(原題:L’avinir)。本作は離婚や母の他界、仕事の解雇などで多くを失ってしまったひとりの女性の物語でありその未来についての映画である。本作は第66回ベルリン国際映画祭で監督賞を受賞した。

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ナタリー(イザベル・ユペール)は夫のヘインツと、愛というよりむしろ彼らの習慣や知的利益から成り立つ結婚ではあったが充実した結婚生活を長年続けていた。しかし突然夫は他の女性と恋に落ちたことをナタリーに告げ、彼は家を出て行ってしまう。さらに長年介護を続けていた母親も突然他界してしまった。人生の災難といわれるものに度々見合われるその季節は夏がちょうどはじまろうとしているころだった…

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仏語原題は『L’avinir』である本作。その英語タイトルは情報公開当初では『The future』であった。しかしミアは後々、現タイトルである『Things to come』へと変更している。この意味と翻訳における言語の問題についてミアはこう語っている。

「わたしにとって、英語と仏語という異なる言語によって異なるタイトルを持つというのはとても理にかなっているとおもいます。映画のタイトルというのは、その映画の物語に入り込むための”扉”としての役割を持っていると、つまりその物語への入り口であるとおもうのです。

しかし『L’avinir』と『Things to come』で異なる意味を表しているわけではありません。たしかに「L’avinir」が意味するのは「The Future」なのですがそれではあまりにも多くのことを含んでしまいます。私は「The Future」が指すものよりより近いところにあるものとしての意味合いを出したかった。そこで『Things to come』にしてみると、その感覚が得られたのです。翻訳するにあたり直訳ではなく意訳をするほうが伝えたいことが伝わることは多くあります。だから翻訳という問題はとても面白いとおもう。」

では、情報公開後での変遷のもとに置き換えられたタイトルにある「The Things」にあたるものは一体何だろうか。

ミア・ハンセン=ラヴの多くの映画は彼女自身の問題さらにいうと”愛”にまつわるものをテーマにしている。前作『EDEN』(2014)では90年代フランスのクラブシーンを背景にひとりのDJの成功とその絶頂期からあらゆるものを失っていく過程を、その周りにある愛と友情とともに描いた。(これはミアの実兄に基づいた作品であり、実際に主人公にも妹がいる設定になっている。今作も母がモデルになっていることをインタビューで語っている。)彼女は今作においても作品の中心にあるものは愛であると、The Film Stageのインタビューで印象的に語っている。

「この映画においての”The Things”にあたるものはとてもシンプルなものです。それはおそらく人生の愛だろうことを映画の中で明確に表しているとおもいます。しかしこの映画にはパラドックスがありもします。あなたはこう言うでしょう、これは”愛の映画”ではないと。なぜならナタリーは再び誰かと恋に落ちることなしで生きていく方法に行き着いているからです。それは彼女が愛なしで、ここでは男性からの愛なしで生きる方法をみつけているということを指します。しかしそのような、誰かからの愛が不在しているからといってそれが愛についての映画でないわけではありません。

わたしは、彼女が前に進む欲望を失わなずに生きる意味を見つけることをたすけるもの、最終的に彼女自身を救うのは人生における”愛”だとおもいます。それを自分ひとりでつかみ見いだすことは不可能かもしれないし、その前に定義づけることもむずかしいなにか神秘的でミステリアスなものです。さらにそれはとても深いところにあり、それでいて重要なもので、わたしたちに真の意味での”自由”を結びつけてくれます。

そしてわたしは、映画は、それへの探求そのものだと思います。あなたがあなたの人生でいかに成功するか、そのようなものにはとらわれない内面的な自由への。」

『未来よ こんにちは』は、3月25日より順次公開。

参考URL:
http://cineuropa.org/nw.aspx?t=newsdetail&l=en&did=290644

インタビューの引用:
https://thefilmstage.com/features/mia-hansen-love-on-abbas-kiarostami-her-obsession-with-heat-and-the-meaning-of-things-to-come/.

三浦珠青
早稲田大学二年生。都内の映画館でアルバイトをしています。岡崎京子と映画と本が好き。


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