「魅力的かつチャーミングであることは、女性が生まれながらにして持っている権利であるー」

世界で初めてモデル・エージェンシーを創立したことで知られるジョン・R・パワーズの言葉によって、スリラー映画”Always Shine”は幕を開ける。
昨年11月末からアメリカにて劇場公開されたこの映画は、親友同士である二人の若い女優を主人公に、彼女たちの関係が崩壊する様を描いている。
昔からの親友であるベスとアンナは、共にハリウッドでの成功を目指している女優である。内気なベスは低予算のホラー映画やコマーシャルでの仕事の結果、雑誌の特集で取り上げられ、成功の兆しを掴む。しかし、感情的な性格のアンナは才能があるにも関わらず、依然として苦しい生活を送っている。関係のぎくしゃくした二人は、息抜きにアメリカ西部の景勝地ビックサーへと旅行に行くが、そこでも互いに対する嫉妬から一層関係が緊張してゆくーといった物語が展開されている。
昨年のトライベッカ映画祭で初上映され、アンナを演じたマッケンジー・デイビスが女優賞を受賞した。また、公開後もFilmmaker誌の選ぶ2016年のアメリカ映画ベスト20に選出されるなど話題となった。*1レビューでは「まるで『ペルソナ』と『マルホランド・ドライブ』と『ルームメイト』が融合したような作品」*2「美と反発心を同時に見せた、一貫して表現力のある映画的な心理ゲーム」*3などと評された。

本作を監督したソフィア・タカールは、ジョー・スワンバーグ監督作”The Zone”に出演するなど、インディペンデント映画での女優を経て映画監督としても活動している。本作について「女優として生きるということは、あなたができうる限りのことで最も厳しく、最もトラウマになる道のひとつでしょう。自分が他人からどのように見えるか、どのくらいセクシーか、どのくらい魅力的でありうるかということを常に意識しなくてはならない」と述べている。*4
タカールはインタビューで、最初に作品の着想を得たきっかけとして自身が身近な女ともだちの成功に対して嫉妬を抱いたことを挙げている。
「私は、自らのアイデンティティはうまくいっているという考えとキャリアから成り立つものだと教えられました。そして成功した人々というのは、私よりも女性らしさが備わっているように思われました。すなわち、内気でもの静かで美しく、完璧な女性の典型のように見えたのです。私は全ての友人に対して怒り、疎遠にし、その友情を危ういものにしました。しかしそれがきっかけで、私の人生におけるとても大きく野心的な物語に遭遇したということに気づいたのです。
(中略)私の映画作りは、自分が直面している問題について他者と語り合うことからはじまっていて、それによって内容を深めることができると思っています。」*2

以前の作品*5に比べ、心理スリラーやホラーといった要素を明確に持った映画を撮ったことについて尋ねられたタカールは、ホラー映画というジャンルについてこのように語っている。
「私たちがこの作品をジャンル映画的に作ろうと思った理由の一つは、より多くの人々に作品を観てもらいたかったからです。(『ブレア・ウィッチ』などの脚本家)サイモン・バレットは、私の前作を観て「ラストは誰かが死ぬべきだった」と言いました。私はそれに全面的に同意しています。(中略)
この映画のテーマ、自己実現された人間でありたいならば、たとえ自分自身が思うようになれないことがあってもそれを認める必要があるということ、そしてもし怒りと激情を抑圧するならば本来の自分らしさを保つことは困難であるということーをいったん受け入れてからは、ジャンル映画的に作品を作ることはやりやすかったと思います。」
また、タカルはホラー映画というジャンルにおいて、女性に対して繊細な描写を行うことを望んでいる。
「数々の低予算のホラー映画で、ヌードの女性が叫んで走り回るだけの姿をさらしているのを目撃してきましたが、私はそのような表現は女性に対して拒絶的であると思ったし、好きになれませんでした。そういった映画を鑑賞している人々に対して、それとは違った楽しみ、ホラー映画における女性の表現の希望になるような何かを見せたかった。」*4
映画評論家のシェイラ・オマッカリーは”Always Shine”について、「”Always Shine”は、過剰な自意識と投影により自身を見失う悪夢に没入するような作品です。その奇妙さが作品の魅力のひとつでもあります(私はより斬新であってほしかったと思っていますが)。ここで本当に恐怖を感じさせるものは感情です。女性たちは重圧を感じていて、ひとつの幻想を等しく破壊してしまいたいという欲望を抱えている」と批評している。*6

タカールはこの作品を撮るにあたり、『ペルソナ』『三人の女』『イメージズ』などといった作品を参考に観たという。これらの作品はいずれも女性を主人公に、そのアイデンティティのゆらぎを重要な要素として描いている。”Always Shine”の以前から、女性を美的対象としてだけではなく、美を通じてその内面を描く意図を持った作品は数多く存在しているだろう。それがしばしばホラーやスリラー、サスペンスといった要素を備えているのは、それらの表現する不可解さ、複雑さといった不安を呼び起こす感情が、美という価値観における女性の立場の不安定さに通じているからではないだろうか。

参照
*1http://filmmakermagazine.com/100793-the-20-best-american-films-of-2016/#.WGXb15FWBis
*2http://filmmakermagazine.com/98341-writer-director-sophia-takal-on-persona-female-aggression-and-her-psychological-thriller-always-shine/#.WFf6-pFWBit
*3http://www.cutprintfilm.com/reviews/three-rivers-film-festival-always-shine/
*4http://www.indiewire.com/2016/12/filmmaker-toolkit-podcast-director-sophia-takal-always-shine-feminist-horror-episode-15-1201752218/
*5タカールは2011年に映画”Green”を監督している。この作品は恋人の仕事のためにNYから田舎町へと引っ越した若い女性を主人公に、そこでの新たな友人関係から彼女が抱えてゆく嫉妬と倦怠感を描写しており、”Always Shine”との関連性が指摘されている。
http://www.imdb.com/title/tt1826684/?ref_=nm_flmg_act_25
*6http://www.rogerebert.com/reviews/always-shine-2016

吉田晴妃
現在大学生。英語と映画は勉強中。映画を観ているときの、未知の場所に行ったような感じが好きです。映画の保存に興味があります。


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