[439]ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の新作『メッセージ』におけるヨハン・ヨハンソンの音楽


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ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の新作『メッセージ』は、テッド・チャンによる短編小説『あなたの人生の物語』を原作としたSF映画である。この作品は、世界の12箇所に地球外生命体が飛来し、その際に地球の人々が直面した緊張を扱っている。表面がつやつやとした黒い三日月形の宇宙船が地球に浮遊するのである。世界規模での未知との遭遇の中で描かれるのは、それらに対する人々の懐疑的な姿や、熟慮する姿である。この映画は、人々の慎重な視線に関するものであり、そこで、どのように人々は未知の生命体への反応を決定するのか、人々はどのような経験するのかについてを描いている。
その音楽は、ヨハン・ヨハンソンが作曲をした。彼は、これまでドゥニ・ヴィルヌーヴ監督とは、2013年の『プリズナーズ』、2015年の『ボーダーライン』で共に仕事をしてきた。そして、今作は、それらに続く2人のコラボレーションとなる。
地球外生命体の思考に対するヨハン・ヨハンソンの音楽は、人々と地球外生命体の緊張関係や、突如現れた物体の到来へ見事に働いている。その音楽は、心の中の動きに合わせて慎重に発展させていくというスタイルである。ヨハン・ヨハンソンは、人々がどのようにコミュニケーションをするのかということに興味を持ち、そのことを音楽で表現しようとした。

「『メッセージ』には、人類学の観点があるのです。それは、言語に関するものです。」

ヨハン・ヨハンソンは、そのように感じ、そこから彼は音楽を作り上げていった。この映画は、明確にエイミー・アダムズ演じる言語学者がエイリアンとコミュニケーションを試みる姿が描かれている。

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そのスコアでは、緊張感のある弦楽器の音が落ちていくように演奏される。またクジラの鳴き声に似た合唱から、呻き声が表現されている。音と言語が発展していく様を描く音が徐々に形成されていくのである。それは、フィリップ・グラスやブライアン・イーノのアンビエントの音楽のようでもある。
また、全能の種との遭遇という観点から、この映画のスコアの背後には、『2001年宇宙の旅』の存在も感じられる。ヨハン・ヨハンソンは、スタンリー・キューブリック監督が使用したような近代のクラシック音楽に影響をされたのではないであろうか。

「私は脚本を読んですぐに、スコアの中に声が大きな特色として入っていなければならないと思いました。私は歌声を使っていますが、リゲティ・ジェルジュからできるだけ離れようと試みました。彼の歌声の音楽は、『2001年宇宙の旅』におけるモノリスのシーン、すなわち、エイリアンの知能のサインのシーンと密接に結びついています。(『2001年宇宙の旅』は、私の最も好きな作品の1つであり、それの裏返しであることは分かっています。)リゲティが使用したような音を持続させたクラスター・コードやミクロポリフォニーと対比させて、スタッカート・ポリリズム、短い音の不規則でリズムのないパターンを使いました。それは、小さい単位で始まり、それから短いスタッカート・ポリリズムの歌声による塊を作り上げるために音を重ねました。また、シュトックハウゼンの『シュティムング』に影響を受けています。彼の上音と和声の歌と、パフォーマンスへの偶然性のアプローチを使いました。ポール・ヒラーが率いるTheatre of Voicesというボーカル・アンサンブルと共に仕事をこなしました。彼らは、広範囲に歌声のテクニックを操ることができました。同時に、全く異なる経歴の歌手とも仕事をしました。彼らは、自身の音を発展させ、同じテクニックを使いますが、彼ら自身のとてもユニークな方法においてだったのです。経験者とそうでない人が合わせて存在し、スコアはとても独特な声を含んでいました。声は、純粋さを保つようにしました。言い換えれば、音の高さを変化させることを除けば、いかなる場合にも音の加工処理をしていないということです。オーケストラと合唱を書き上げるにあたっては、ジャチント・シェルシ、マイケル・ゴードン、ゲオルク・ハース、ジェラール・グリゼー、メレディス・モンクのような作曲家に影響を受けました。」

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ヨハン・ヨハンソンは音楽を書くにあたって、映画のプロダクション・デザインからインスピレーションを受けた。映画において、エイリアンは、エイミー・アダムス演じる言語学者のルイーズ・バンクス博士と話すために円状パターンを用いる。その「表語文字(Logograms)」は、『メッセージ』のために、(プロダクション・デザイナーの)パトリス・ヴァーメットによって生み出されたが、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、音楽に対するアイデアのために、表語文字をヨハン・ヨハンソンに送った。そのとき、自ずと、ヨハン・ヨハンソンの頭にはループするということが浮かんだ。

「多くの音は、アナログの16トラックテープのループ上で、声を重ね、ピアノを叩くことなく、(ピアノ線から響く)音を持続させることで、作り上げました。これは、直接的に映画における円状のモチーフからアイデアを得ました。いわゆる表語文字であり、エイリアンによって使われる書き言葉の形態です。これは、コミュニケーション、言語、時間の本質に関する映画であり、どのようにそれを知覚するのかについての映画なのです。それらすべてのアイデアは、私を魅了し、そこから直接的に音楽の着想を得ました。脚本やコンセプト・アートに基づいたフッテージを観る前に、その音楽の鍵となる要素を決定し、またその多くを(音楽として)書きました。」

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歌手を招聘し、その歌声をそのピアノのドローンと同期させた。1箇所に3台のピアノの音が凝縮されることもあった。ヨハン・ヨハンソンは、奇妙で、神秘的で、忘れられない音を目指したのである。そのために、音の上に音を層のように重ねていくという作業を行った。
また、1箇所において、ロバート・アイキ・オーブリー・ロウを呼び込み、歌声を録音したが、ヨハン・ヨハンソンは、その過程の映像をiPhoneで撮影して、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督へ送るとすぐに、「おお、これはすごい。この5分のバージョンを送ってくれ。」と書かれた返信が来た。
ヨハン・ヨハンソンは、9ヶ月近くの期間をかけて『メッセージ』の音楽を作り上げていった。彼は、ソロ・アルバムも発表しているが、その音楽に取り組む際と、映画音楽に取り組む際の違いについて、音楽制作の時間をどのように使うのかという観点を中心に説明している。

「私は、音に取り組み、音を見つけ出し、何かを作り上げる方法を見つけ出すのには多くの時間を費やしました。…自分が高揚し、聞いたことのないものに目を向けるのです。ソロ・アルバムに取り組むのであれば、その世界にすべての時間を費やすことができます。しかし、映画の場合、スケジュールがあり、締め切りがあります。」

ヨハン・ヨハンソンは、早期に音楽の制作を始めることを好む。それは、しばしば製作準備段階である。彼は、複数の仕事を掛け持ちながら、『メッセージ』の音楽も作り上げた。中断し、他の映画にも取り組むのである。それから、『メッセージ』の作業へと戻ってくる。ヨハン・ヨハンソンによれば、彼にとってのスコアリングとは、音楽を発展させることであり、編集の始まりにおいて、編集者と監督と共に仕事をすることであるという。その際、彼とドゥニ・ヴィルヌーヴ監督は、テンプ・ミュージック(テンプ・トラック)を避けている。(テンプ・ミュージックは、実際に使われるスコアが付与される前に、編集作業において雰囲気や方向性を指し示すために用いられる。今日、ハンス・ジマーを始めとする作曲家が用いている。音楽を専門としない監督が音楽に対する要望を作曲家へ伝えられる一方で、テンプ・ミュージックをそのまま模倣したような音楽が実際の映画にも付与されてしまう等の功罪が指摘されている。)

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ヨハン・ヨハンソンは、同時期に数トラック以上の音楽に取り組む。現在もいくつかのスコアを担当している。彼は、2017年における新たな映像作品のプロジェクトに取り組んでいるが、ちょうどOrphéeと名づけられたインストゥルメンタルのスタジオ・アルバムをリリースしたばかりでもある。Orphéeは、2009年に本格的に始動したアルバムであった。Orphéeには、パイプオルガン、和声、そして、その年によって異なる彼の興味に基づいた多くの変化という特色を帯びている。

「それは、2009年に鳴り響いた音とは大きく異なっています。」

彼は仕事に多くの時間を費やす。『博士と彼女のセオリー』のようなオスカーにノミネートされる作品であっても、彼は1つの作品だけに自分を繋ぎ止めようとはしない。彼がいくつもの作品に着手し、それぞれを進めるということを考慮すれば、彼を厳格に映画音楽の作曲家と呼ぶべきではないのかもしれない。

「私は、自分を映画音楽の作曲家であるとは思っていません。私は作曲家であり、たまに映画音楽の作曲家であるだけです。」

また、アイスランド出身の彼は、「ハリウッドの作曲家」になることにはまったく興味がないと主張する。彼にはプロジェクトを選ぶ基準がある。それは、アイデアが彼の気持ちを高揚させるかどうかである。そのとき、彼は、プロジェクトへ何かをもたらしたいと考える。そして、彼は、才能のある人々と仕事をすることを求める。それゆえに、プロジェクトの規模は、仕事を受けるのかどうかを決定する際には関係がないのである。腕の確かなドゥニ・ヴィルヌーヴのような監督と継続して仕事をする理由はここにある。
ヨハン・ヨハンソンは、一から仕事に取り組み、創作ができることを幸運に思っている。しかし、その際に、彼は、音楽への自信とインスピレーションは必要であると感じている。それは、まさに『メッセージ』において、心を探る音を見つけ出していく忍耐、好奇心、意欲であったのである。

こちらの動画では、ヨハン・ヨハンソンによる解説と共に、音楽の制作風景をご覧いただけます。

参考URL:

http://www.goldderby.com/article/2016/arrival-score-johann-johannsson-denis-villeneuve-amy-adams/

http://www.npr.org/2016/11/13/501935990/composing-an-otherworldly-and-intimate-soundtrack-to-arrival

http://www.slashfilm.com/johann-johannsson-arrival-music/

http://www.billboard.com/articles/news/7572694/film-composer-johann-johannsson-arrival-soundtrack-heptapod-b

http://variety.com/2016/artisans/production/music-sound-arrival-jackie-1201892755/

http://thecreatorsproject.vice.com/blog/premiere-arrival-johann-johannsson-full-track

http://www.filmmusicmag.com/?p=16733

http://consequenceofsound.net/2016/11/otherworldly-loops-a-conversation-with-arrival-composer-johann-johannsson/

http://collider.com/johann-johannsson-arrival-blade-runner-2-interview/#inspiration

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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