nocturama ベルトラン・ボネロの長篇最新作『ノクトラマ/夜行少年たち』(Nocturama, 2016)が世界各地の映画祭で公開されるに至っている。今年9月のトロント国際映画祭やサンセバスチャン映画祭など5つの映画祭でスクリーンにかかった後、ここ日本においても、10月25日から11月3日にかけて行われた東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門にて合計3回の上映があった。

 さて、そのような状況の中で多く目にするのが、この映画が持つ「二つのリズム」に関する批評である。確かに本作は、孤立と連帯、外と内、動と静、といった具合に、映画の前半部分と後半部分の特徴が相反するものとなっている。ではなぜ、ボネロはこのような手法をとったのか、そこで生み出される効果はどのようなものなのか、彼になされたインタヴューを紹介しつつ、考えてみたい。

 大まかな話の流れはこうだ。午後2時7分、別々の場所にいる若者たちが目的地に向かうところから前半は始まる。「同時多発テロ」という目的が果たされる午後7時16分までの「現在」、つまり犯行の様子が淡々と続くなか、フラッシュバックにより、「そこで何が起きているのか」を補足する最小限の「情報」が示される。そして、それぞれが任務を終え、営業を終えたデパートの中に集まってきてからが物語の後半部分だ。ここでは、ただ彼らがその「城」で翌明け方までの時間を過ごす様子が描かれる。

 このような対立構造の発想について、「(脚本を)書き始めた時からあった」とボネロは言う。「いずれにせよ、それが曖昧なものであったとしてもある種のコントラストを映画に入れることが好きなんだ。そのようなコントラストは映画に深みを与え、観客をより引き込むことになる。それが編集において実現されるのか、音楽においてか、あるいはプロットにおいてか、様々ではあるものの、それは私がこのところの3、4作品においても意識したことだ。」*1
 そして今回は、主人公の若者たちがデパートの中に集合していくシーンを堺に、「現実」と「理想」のコントラストを描いた。「デパートの中」というのは「この映画における最も重要な要素の一つ」であるとボネロは語る。「彼らは行動しているのだが、それは待つという行為なのだ」彼は自分にこう言い聞かせ、「待ち続けている時の緊張感をどのように作り出すか」ということを考えた。そして、「彼らを世界から切り離し」、彼らにとって「『完璧』である理想的な世界」を「デパート」の中に作る、というアイデアに行き着いたのである。*1
 その閉じられた理想的な世界は、撮影方法によっても強調されている。前半は「全てロケーション撮影」であるのに対し、後半は「全てセットでの撮影」だという。*2また、緊張感のある彼らの「行為」に観客を集中させるため、「なぜ彼らがこのような行動をするのか」は重要視しなかった。*1

nocturama2 そしてもう一つ、話題となっているのが「テロリズム」という題材だ。アメリカの映画情報サイト「THE PLAYLIST」では、この題材ゆえに、カンヌ国際映画祭やヴェネチア国際映画祭に出品することができなかったのではないかとさえ指摘されている。*3それについて本当のところは分からないが、最後に、このような映画を撮ったいきさつについてボネロ自身の言葉を紹介したい。
「私には現代的な映画を撮りたいという欲があった。というのも、その頃はちょうど、『メゾン ある娼館の記憶』(L’Apollonide: Souvenirs de la maison close, 2011)を撮っていた時だったから。そうして現代社会について考え始め、そのような中でテロリズムというものが私をかきたてたんだ。」*1
 そして彼は、「多くの理想、夢、純真さ、エネルギー、そして願望」を持っている「27、8歳」の若者たちを主人公に設定し、物語を構築していった。*1
 そのセンシティブな題材から、監督の意図しない解釈をなされたり、論争が起こったりするのではないか、という記者の質問に対し、ボネロは、ゴダールの言葉を引用してその答えとした。「問題なのは、政治的な映画を撮ることではない。政治的に映画を撮ることだ。」*1

 この作品の要となっているのは、現代社会を生きる登場人物たちの「心的態度」であり、それが彼らに何をさせるのか、「その時」彼らが何をしているのか、ということである。一般公開がなされたのは未だフランスのみであるが、今月もAFI Fest(アメリカ・ロサンゼルス)、ストックホルム国際映画祭、と映画祭での出品は続く。今後の動向に注目したい。

 

 

*1 http://www.ungrandmoment.be/interview-bertrand-bonello-nocturama/
*2 http://cineuropa.org/ff.aspx?t=ffocusinterview&l=en&tid=3007&did=313177
*3 http://theplaylist.net/bertrand-bonello-takes-meticulous-look-millennial-terrorism-nocturama-bfi-london-film-fest-review-20161013/

原田麻衣
WorldNews部門
京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程在籍。フランソワ・トリュフォーについて研究中。
フットワークの軽さがウリ。時間を見つけては映画館へ、美術館へ、と外に出るタイプのインドア派。


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