スザンヌ・オステン監督

スザンヌ・オステン監督

2007年に亡くなった映画監督、イングマール・ベルイマンの未発表脚本を映画化することが報じられた。
この脚本は『レベッカとの64分間』“Sixty-Four Minutes With Rebecka,”と題され、ベルイマン、そして親交があったことで知られるフェデリコ・フェリーニと黒澤明の共同作品のために書かれたものだという。1969年ごろ完成したものの実現せず、2000年代までその存在が知られていなかった。
政治運動の巻き起こる1968年を舞台に、妊娠したことにより周囲から精神的に疎外された聾唖の女性教師が、性的にも政治的にも解放されることを模索する物語が展開されているという。*1

監督はスウェーデン出身の72歳の映画監督、スザンヌ・オステンが手がける。オステンはインタビューで、脚本について「彼の映画には常に力強い女性の存在がありますが、この脚本でベルイマンはそれをより掘り下げています。スウェーデンを大きな変化の波が通り過ぎた1969年という時代の最中にありながら、ベルイマンは驚くべき流儀でその時代精神を捉えているのです。本当に素晴らしい脚本です。」と述べている。
「脚本は現実と夢の間を絶え間なく揺れ動いています。まるで悪夢のように、主役のレベッカは様々な危機的状況に置かれ、そして突然に場面が終わります。私は”不思議の国のレベッカ”と呼んでいたほどです。
『レベッカとの64分間』は、自身の求める救いのために見いだされ、克服される女性のセクシュアリティについて探求している脚本です。それが素晴らしいことだとは思いません。しかし、複雑な性的関心を含んだ物語と、純粋でロマンチックなラブストーリーとは、比較されるものでもあるでしょう。この脚本が書かれた時代にそれが議論されはじめたのです。(中略)
ベルイマンの脚本において一番興味深い点は、受け取る人それぞれの視点によって様々に解釈が可能なものであるということです。
この脚本で仕事をすることはあらゆる解釈やイメージを連想させられて、驚くほどの楽しさを感じています」*2

ベルイマン財団のCEO、ヤン・ホルムバーグ氏によると、『レベッカとの64分間』は「ベルイマンの全ての作品における、失われたパズルの1ピースのような存在」であるという。
「ベルイマンらしく、非常にスリリングな脚本ですー夫婦関係における危機、あるいは複雑な母と娘の関係のほか、彼の他の作品には殆ど見いだせないような暴力的なセックス描写、同性愛や強いフェミニスト的観念が、ベルイマンの持つ”コミュニケーションの困難”という大きなテーマのなかに存在している」*2

脚本は11月6日にオスマンの演出によりラジオ・ドラマとしてスウェーデン放送にてプレミア放送されたのち、ベルイマン生誕百周年の2018年の公開を目指して制作に入るという。
スウェーデンでは2018年に向けて、”Bergman Revisited”と題して気鋭の監督6人に出資し、ベルイマンの作品や人生に何らかの形で関連した短編映画を制作するプロジェクトも企画されている。*3
そこで語られている「実際のところ、全く彼の作品の影響をうけていないものを作ることの方が難しいほど、ベルイマンはスウェーデン映画にとって重要な人物です」という言葉からも、ベルイマンという映画史上の巨匠がいまだ非常に大きな存在であるということが窺える。

参照
http://www.reuters.com/article/us-sweden-bergman-idUSKCN12Q2HQ
*1http://www.indiewire.com/2016/10/ingmar-bergman-script-made-into-film-suzanne-osten-1201740712/
*2http://www.dn.se/kultur-noje/film-tv/unknown-bergman-script-from-the-60s-to-be-filmed/
*3http://www.ingmarbergman.se/en/blog

脚本の抜粋をこの記事(http://www.dn.se/kultur-noje/film-tv/read-an-exclusive-excerpt-from-bergmans-unknown-script-sixty-four-minutes-with-rebecka/)で読むこともできる

吉田晴妃
現在大学生。英語と映画は勉強中。映画を観ているときの、未知の場所に行ったような感じが好きです。映画の保存に興味があります。


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