アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督は、彼の作る映画や会話の中であっても、決して手加減しない。彼の長編作品『アモーレス・ぺロス』(2000)では、あまりに酷いドッグ・ファイトのシーが描かれていたりして、メキシコ出身のイニリャトゥ監督の残酷で直接的な描き方は、強い反響を、時には好意的でない反響を呼ぶことも少なくない。
 彼の最新作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』は、イニャリトゥ監督の新たな出発を意味するような作品になっている。これまで良作にも関わらず映画祭の賞レースではなかなか振るわなかったが、バードマンでようやく妥当な評価がされるようになったと言っていいだろう。
 以下にFilmcommment誌で行われたイニャリトゥ監督のインタビューを訳す。
――新作『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』は、自身をなくしたアーティストの映画です。バードマンが、主演ミッシェル・キートンの抱える不安を口にしますが、監督もご自身のバードマンがいるのでしょうか。
ええ、間違いないです。僕のはあんなかっこいいのじゃなくて、ハゲワシだね(笑)
――バードマンは主役の彼に、やりたいことから手を引かせようと説得をしていましたが?
ええ。作品の制作を進めるときに、僕らはその作品の矛盾とか欠点にぶつかる。偽りたくなることもある。それは制作の作業の一部だね。制作の複雑さはここにあると思うよ。だから、2歩進んで1歩下がるように、その矛盾に立ち向かわないといけないんだ。だから作品を作っているときは苦しい。本当に、何より苦しいことだと思う。でも作品を作る人なら、だれでも対面しなきゃいけないことなんだ。
――現在の批評の役割についてはどう思いますか?
正直に言うと、個人的には、ありがたいなと思っているんだ。と言うのも、年に700本もの映画が公開されていて、95%は駄作だと思うんだ。それが世界と言うものだからね。で、批評家には感謝している。映画批評を読むことで、興味をもってその映画を見ようと思うからね。
でも、僕が映画祭の審査員になった時に、20本の映画を見た。2本は良くて、1本はまあまあだった。1本は素晴らしかった!で、残りの16本は堪えられなかったね。そして、その20本は、僕に大きな影響を及ぼした。この影響というのは、言い換えれば毒だよ、毒。良いものを食べるために、まずい料理を食べなければいけない。でも、良い作品にあたる前にはそのまずい料理で舌が馬鹿になってしまっている。こういうわけで、批評するのは好きじゃないんだ。批評するのはとっても難しいことで、700本も見ていれば、簡単に毒に冒されて正しい判断ができなくなる。だから、リスペクトしていて、感謝していて、かつ、そんなに出来の悪い作品ばかりを見ていて本当に作品の価値を判断できているのかと疑ってもいる。
――ずっと前だけど、あなたはとってもフランクにヒーロー映画について話してくれたね。それはあなたの言うところの毒なのでしょうか。
僕にとっては、ヒーローっていうのは完璧で、正しい、人間がどうあるべきかという妄想を具現化したものなんだ。それはほとんどファシスト的で、虚しさの伴うものだよ。そして人間は、その完璧なヒーローの、まさに反対のものなんだ。ヒーローのような人には出会ったことがないね。
僕は人間にとっても興味があるんだ。人間は高次元で、矛盾していて、欠点ばかりで、怒りや不安に悩まされる。でも同時に、美しくて、感傷的で、僕を魅了する愛すべき生き物なんだよ。完璧なスーパー・ヒーローの価値というのは、統制された考え方になるように観客を扇動するところにある。
今の世代は人間の欠点とか可能性というものに惹かれないし、そういう人は僕らが見てもつまらない。これが、僕が今恐れていることなんだ。もう人間というのは分析や観察の対象ではないし、人間の欠点を目の当たりにすると自分をそこに見出して悲しくなるとかで、あんまり登場人物を見つめられなくなってしまった。最近は俳優の演技の質がどんどん落ちているんだけど、多分その理由は、スクリーンの人間を見るのが恥ずかしいんだろうね。悲しいことだよ。
――たくさんの人が指摘していることと思いますが、この作品は、イニャリトゥ監督のこれまでとは違って、明るいトーンの作品になっています。監督にはどんな変化があったのでしょうか。
扱うものが変わったとは思わないんだけど、アプローチの仕方が変わったかな。正直に言うけど、映画業界の人が、映画を撮るのがどんなに難しいことかというのを主張しているのを聞くと、「ああ、この人たちはまだ第三世界とかの、働くには本当につらい環境に身を置いたことがないんだなあ」と思うんだよね。僕らの苦労はそんな程度じゃないよと(笑)。
僕は制作をするうえで生じる困難には逃げずに立ち向かう。また、作品が多くの人に愛されること、自分を表現すること、あらゆるものを脱ぎ捨てることにもためらいがない。何が言いたいかっていうと、僕がいかに真剣に撮るものの苦しみを知っているかということで、それを知っているから、ある意味でリアリティを裏切るだろうということだ。
そこにはもっと意識されるべき、賞賛されるべき、その価値を認められるべき自尊心の、悲しみや苦しみがあるんだ。もしそういった感情を自分自身から切り離せば、もっと楽しい話になるだろう。同時に悲劇にも喜劇にもなるんだけど、でも、もしこれをもっとシリアスに扱うと、あまりに感傷的になってしまうだろうというのも僕は知っている。だから今回は、アーティストの複雑な心情という実際にある悲劇を、面白い形で撮ることにしたんだ。その方がずっと本当らしく見えるでしょう。
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』は、すでに様々な映画祭で計119もの賞を獲得している。アカデミー賞にも今年度最多9部門でノミネートされており、オスカーの行方も気になるところだ。日本では4月公開予定。
則定彩香(のりさだちゃん)
参考
http://www.filmcomment.com/…/interview-alejandro-g.-inarritu
IMDB
http://www.imdb.com/title/tt2562232/
Official International Trailer
https://www.youtube.com/watch?v=uJfLoE6hanc


コメントを残す