クリスマスの今日、米国でのプレミアを迎える、女優のアンジェリーナ・ジョリーがメガフォンを撮った『Unbroken』が物議をかもしている。本作は太平洋戦争にあって捕虜として日本陸軍から虐待を受けた経験を持つイタリア系アメリカ人、ルイ・ザンペリーニ(Louie Zamperini)氏の生涯を描いた作品だ。今年7月に鬼籍に入ったザンペリーニ氏は戦前、「ヒトラーのオリンピック」として知られる(レニ・リーフェンシュタールの『オリンピア』で有名な)1936年のベルリン・オリンピックでアメリカ代表として5000メートル走に出場した陸上選手でもあり、ランナー時代の彼の姿も本作で描かれている。脚本はコーエン兄弟が担当する。

 本作はローラ・ヒレンブランド(Laura Hillenbrand)氏が2010年に上梓し、ベストセラーとなった同名の書籍を下敷きにしている。作品は、ザンペリーニの生涯を讃える内容であるが、その中では日本軍によるザンペリーニ氏への暴行・虐待行為が描かれており、宣材として使われているポスターは確かに過激といってよいものに見える(※1)(このポスターは複数あるうちのひとつ)。本作品のこうした側面が、インターネットを中心に波紋を呼んでいる。

 欧米主要メディアの反応は様々である。英国のGuardian誌では、本作は「語りの変奏や、キャラクターの繊細さといった不必要な装飾を施すこと無く、彼(ザンペリーニ)の驚くべき勇気と生還の物語を描いた」作品として賞賛されている(※2)。アメリカ国内では賛同の声も多い中、ニューヨーク・タイムズ誌は本作を「アカデミー賞獲得へのキャンペーン映画」(※3)であるとこきおろす。

 ジョリー氏は、幾度かのゴシップを経て、現在は俳優のブラッド・ピット氏と夫婦の関係にある。慈善活動に力を入れていることでも知られる彼女がメガホンを取るのはこれが二度目で、前作はボスニア・ヘルツェゴビナ内戦を扱った『最愛の大地』(2001)であるが、筆者は未見であるため、今作がどのような作品であるかは、さしあたっては予告編を見て判断するしか無い(※4)。コールドプレイが本作へのサウンドトラックを提供したことや(※5)、ジョリー氏が水疱瘡にかかってハリウッド・プレミアを欠席したことなど(※6)は、日本メディアでも報じられた。

 太平洋戦争を背景として旧日本軍が描かれており、かつ戦勝国の監督が製作していることから、日本国内で物議をかもすのは、当然といえば当然である。しかし仮にこれが、日本の作家が作った作品であったらばどうだろうか。結局のところ、作品の評価というものは、作品を見て判断するしかないことだろう。果たして、日本での公開はされるだろうか。
 
(※1)http://www.awardscircuit.com/…/check-jack-oconnells-bloody…/
(※2)http://www.theguardian.com/…/unbroken-resilience-louis-zamp…
(※3)http://www.nytimes.com/…/angelina-jolies-campaign-for-an-un…
(※4)https://www.youtube.com/watch?v=XrjJbl7kRrI
(※5)http://www.billboard-japan.com/d_news/detail/24236
(※6)http://www.mtvjapan.com/news/cinema/24937

井上遊介


コメントを残す