アカデミー賞のノミネート予想が盛り上がる季節がやってきた。多くの人がそれぞれ部門ごとに様々な作品について言及しているが、今日は特に作曲賞の話がしたい。あなたはアレクサンドル・デスプラ(Alexandre Desplat)という名前を聞いたことがあるだろうか。聞いたことがないという人は、簡単に調べてみてほしい。彼の名前は知らずとも、彼の手掛けた映画音楽は、必ずと言ってもいいが、聞いたことがあるはずである。それほど、彼は今までに様々なジャンルにわたって数多くの作品に作曲してきた。
 ただ、彼は数々の映画祭で数々の作曲賞を受賞しているものの、アカデミー賞においては、6つの作品で作曲賞にノミネートされてきたが受賞には及んでいない。しかし今年は、かれの念願のアカデミー賞チャンスの年だ。今年はノミネート有力とされている『Monuments Men』、『グランド・ブダペスト・ホテル』、『GODZZILA』、『The Imitation Game』、『Unbroken』の5本の作品に楽曲を提供している。その中でも、『The Imitation Game』の評価はかなり高い。
 『The Imitation Game』は、モーテン・ティルダム監督の最新作。暗号解読者アラン・チューリングの数奇な人生に基づいた作品で、第二次世界大戦において世界最強と言われたドイツの暗号エニグマを解読しようと奮闘するチューリングの孤独と苦悩を描いた伝記的映画である。
 『The Imitation Game』の音楽が素晴らしいのはそのメロディで、その旋律はキーボード、クラリネット、チェレスタ・ハープの、早いアルペジオに突き動かされるようだ。デスプラは、オーケストラの演奏からサンプリングしたピアノの音をつかってコンピューターによって作曲した。初音ミクでおなじみのボーカロイドと同じ方法だ。そのピアノの音は、正確なときもあるし、でたらめな時もある。チューリング言う非同時性を表しているのである。たとえば、オープニングで使われている音楽は、さざ波のようなキーボードの主旋律。この旋律はその後にかかる曲でも、違うテイストで引用されるのだが、これがなんともほろ苦い雰囲気を演出している。
 デスプラは、『ファウンテン 永遠に続く愛』や『ブラック・スワン』の劇中音楽を手掛けたクリント・マンセルに代わって『The Imitation Game』の音楽を作曲することになった。3週間だけで作曲したデスプラは、チューリングのエニグマ理論を実践したと言えるだろう。彼は監督のモーテン・ティルダムとは会ったことがなく、代表作『ヘッド・ハンター』も見たことがなかった。しかしすぐにティルダムの人間性や彼のユーモラスな映画を、そしてカンバーバッチの演技と、物語にフラッシュバックを挟む演出法を気に入って、すぐに引き受けることを決めたのだった。
 「すぐに、ピアノでファンクとアコースティックを混ぜたような音楽がいいんじゃないかと提案したんだ。電子ピアノと、ベースと、いろんなものを、コンピューターで編集したものをね。人がピアノを演奏すると、ロマンチックとかクラシカルになりすぎることがあるんだけど、抽出したピアノの音をつかってコンピューターで作曲した『The Imitation Game』のピアノの主旋律は美しくて独特。だけどシンプルさと従順さが同時にある。まさにこの映画みたいな音楽だよ。それからアランとクリストファーのシーンではできるだけ情熱的に、悲劇的な雰囲気がでるようにした。アランがクリストファーの死を理解するこのシーンがとっても感動的で、僕の好きなシーンの内の一つなんだ。このアランのシーンにはあえて、クリストファーのテーマを使ったよ。まるで長い旅をしてきたような感じがする。この映画の冒頭からの長い旅を経て、ようやくここにたどり着いた。」
 もちろん脚本や演出、カンバーバッチや彼の脇を固める俳優たちの演技など注目すべき点はさまざまだが、映画の重要な要素として特にこの作品では、音楽が関わっていることは注目すべきである。ほかの部門と合わせて、『The Imitation Game』はアカデミー賞争いにどう食い込んでいくだろうか。日本での公開は2015年3月を予定している。
則定彩香
横浜国立大
参考
http://blogs.indiewire.com/…/how-composer-alexandre-desplat…
公式HP
http://theimitationgamemovie.com/
IMDb『The Imitation Game』
http://www.imdb.com/title/tt2084970/


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