「歴史上はじめてのイラン風モノクロ吸血鬼ウェスタン」と銘打たれた「無国籍映画」が現在アメリカで公開され大きな話題を呼んでいる。そのエキセントリックな風貌とあけすけな言動で知られたアンナ・リリー・アミールプールの長編処女作『ア・ガール・ウォークス・ホーム・アローン・アット・ナイト(A Girl Walks Home Alone at Night)』(以下『ガール』)だ。サンダンスでプレミア上映されて以降、様々な映画祭で上映されてきた同作は、既に海外の映画批評家から数多くの絶賛の言葉を受けている。たとえば「次世代のタランティーノ」と呼ばれ、「『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』が現在のジャームッシュなら、『ガール』はデビュー時のジャームッシュが撮ったようなヴァンパイア映画だ」といった賛辞が並んでいる。
また、ニューヨーク・タイムズのA. O.スコットは、次のように評価している。
「彼女の造形したヴァンパイアは、悲しい世界の孤独な歩行者だ。ロサンゼルスを撮影地に白黒で描かれたその街(バッド・シティ)は、まるでチェコ・ヌーヴェル・ヴァーグの背教者によって夢見られた異世界のようである。アミールプールは、ロックなペルシャ風フェミニズムストーリーをそこで語るが、主人公は女性的弱さと復讐者の強靱さの両方を象徴している。この作品に込められた怒りは、ジャームッシュ的クールさと無邪気なまでにイノセントな無法者のロマンチシズムによってバランスが取られている。」(#1)
著名な映画評論家デイビッド・トムソンはさらに熱狂的な評論を寄せ、『ガール』が今年ベストの1本であるとまで断言している。(#2)
「『ガール』は、『インターステラー』や『ゴーン・ガール』より優れていると言うだけでは全く十分でない。そんな比較はメジャー映画を喜ばせるだけの話であり、アンナ・リリー・アミールプールによるこのダーティな輝きを放つ処女作の光を鈍らせるだけの話だ。それは、彼女の先行者であるデヴィッド・リンチの最高の作品と比較するだけでもまだ足りない。『ガール』は、ジャン・ヴィゴやジャン・コクトー、ルイス・ブニュエルらとの比較に於いて語られるべき作品であるのだ。」
『ガール』の監督アンナ・リリー・アミールプールの言葉は、既にIndieTokyoのこちらの記事(#3)で一度紹介してあるが、公開を機に様々なメディアに掲載されたインタビューから、さらに幾つかの発言を拾っておこう。(#4)(#5)
■デヴィッド・リンチやタランティーノからの影響を問われて
「そう言われるのは嬉しいことよ。だって、彼らはすごい人たちだから。リンチのことを考えると私の胸は高鳴るの。彼はものすごいクリエイターで、ある意味で私のヒーローでもある。でも、彼にはすごく影響されてるけど、それは彼の映画や仕事ぶりを真似してるって意味じゃない。彼の映画は彼の脳味噌そのもので、とても固有のものなの。だから、彼の作ったものに影響されたと言うよりは、彼が自らに対してとてもオープンであることに影響されたと言うべきね。リンチは自分の脳の最も暗い部分を探求するような人で、私も自分の脳に対して同じことをしたいと思ってる。」
「『ガール』の準備を始めた時に考えていたのは3本の映画で、それは『ランブルフィッシュ』と『ワイルド・アット・ハート』と『ウェスタン』だった。いや、もっと多かったわね。『続・夕陽のガンマン』とか。とにかく西部劇が大好きなの。あと、『ガンモ』もそう。あれは私の人生で最も重要な作品の1本だわ。」
■ハリウッドでのキャリアを求めるか聞かれて
「有名な会社からエージェントとマネージャーを付けられたことがあるの。1年以上に渡ってクリエイティブな面で去勢され続けたわ。スクリプトの変更ばかり求められて。クソみたいな案だったけど、それが彼らのベストの案なのよ。結局、私は自分が知ってることをやることに決めた。安っぽく聞こえるかも知れないけど、それが本当なの。もちろん、人によって違うことね。私は誰かにどうやって恋に落ちるかなんて教えられない。同じように、どうやってクリエイティブなモチベーションを得るかなんて教えられないわ。」
「結局、こういうのはその場になってみないと分からないことなんだけど、数ヶ月前、私は『悪魔のいけにえ4』を撮らないかってもちかけられたの。もちろん大きなスタジオの仕事になるわよね。断ったんだけど、その提案は嬉しかった。あんたらの考えは最高だよ、って思ったわ。私が引き受ける仕事じゃないけど、彼らがそう思ってくれたのは嬉しかった。ああ、素敵ね、ありがとう、でもやんない、って感じかな。」
「(『ガール』の前にオファーされていた2つの長編映画企画について)脚本を弄ってばかりで、あの俳優のためだとか、この助成金のためだとか、ああいうのは本当に間抜けで馬鹿げた映画の作り方だと思う。だって、目的のために何かを作ろうとしている訳で、クリエイティブであることとは真逆だから。クリエイティブとは、自分自身に問うことであり、そこに何かを見つけることなのよ。もし最初からゴールとか目的地が見えていたとしたら、私たちは何も見つけることなんてできない。」
■映画学校について聞かれて
「(UCLAには)映画の作り方を学びに行った訳じゃないの。映画の撮り方を教えるなんて、誰かにファックの仕方を教えるようなもの。できるわけない。ファックの仕方を学びたければ、自分でファックするしかないのよ。決まってるじゃない。」
「フィルムメイカーは自分の冒険的な側面を守らなければいけないの。私は探検家であり、発明家でもある。(『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の)ドク・ブラウンは私が一番親近感を持つキャラクターだけど、彼は狂人よ。彼は自分のアイディアに閉じ込められた狂人で、でも自分がやりたいと思ったことは成し遂げる。デロリアンは、彼が目的を持った狂人であり続けるためにこそ動かなくちゃいけない。そして、誰もが自分自身のデロリアン見つけるべきなのよ。」
大寺眞輔(映画批評家、早稲田大学講師、その他)
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12/19(金)19:30『自分に見合った顔』
12/26(金)19:00『私たちの好きな八月』
ミゲル・ゴメス特集@新文芸坐シネマテークにて上映!
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#1
http://www.nytimes.com/…/new-directors-new-films-festival-o…
#2
http://www.newrepublic.com/…/girl-walks-home-alone-night-re…
#3
https://www.facebook.com/inside.indietokyo/posts/551813921614576
#4
http://www.indiewire.com/…/ana-lily-amirpour-is-the-raddest…
#5
http://www.fastcocreate.com/…/director-ana-lily-amirpours-g…


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