U.S. in Progressという映画祭のプログラムをご存じだろうか。現在のアメリカのインディペンデント映画ばかりを上映するプログラムである。現在はポーランドのウォルクロー映画祭と、フランスのシャンゼリゼ映画祭の2か所で、映画祭の1プログラムとして組み込まれており、2011年から毎年開催されている。このプログラムが特徴的なのは、アメリカのインディペンデント映画作家たちが自分の作品をそこで上映し、知識のある観客たちと一緒に考え、場合によってはこれからまた手直しをしてもっと良くしていって、のちに上映するときには援助しましょう、というwork in progressの方法で映画を作っていくのが目的のひとつであるということだ。
 work in progressの方法で映画を撮って、「自分の映画をいいと思うのは作った本人だけだ。しかし、なぜそれが良いのかという根拠を、自分で説明できなければならない」と、『God Bless the Child』の共同監督であるRobert Machoianは語っている。自分の作品を他人に説明し、自分では気が付かなかったが無意識のうちに作品に付与していた意味を他人に発見されるという経験は、特に若い映画作家にとって重要なものになるだろう。
 『God Bless the Child』では、演技経験のない子供を登用して、母親に見捨てられた子供たちをリアルにとらえている。脚本はあるけれど、子供たちが自発的に生み出すめちゃくちゃなエネルギーは、さながらドキュメンタリーのようである。共同監督のもう一人Ojeda-Beckが言うには、このストーリーはRobertの父がかつて実の母親に「兄弟の面倒を見るように」との書置きを残して出ていかれてしまったという話にインスピレーションを得て、そしてRobertの息子を使って撮るという方法をとったのだそうだ。
 この映画は、音響デザイン、色彩、作曲、など多岐にわたって優れていると高い評価を獲得し、ヨーロッパの配給会社の目に留まることになる。2015年のサンダンス映画祭に出品されることも決まった。しかしそれに加えて、監督の側は、このプログラムで人間関係が広がることに価値を見出していた。「表彰式がおわったらみんなで飲みに行こう。もっと深い話をするためにさ。」
 2012年にU.S. in Progressで注目を集め、ヨーロッパの配給会社からプリント代と宣伝費を獲得した『I Used To Be Darker』のプロデューサーは以下のように語る。「インディペンデント映画は一般受けするようなジャンル映画でないことが多いし、特にインターナショナルな配給会社から注目されるものでもない。それでも上映に集まった映画人同士で関係を築くこと、作品を完成させるまでにいろんな人に見せて、様々な意見をもらって作品を良くしていくことが、インディペンデント映画がごみごみと混在する中から頭一つ抜けるためにずっと重要なことだ。」
 また、映画祭で審査員を務めたアーティスティックディレクターによると、AFFが称賛するのはこの手の野心だという。「編集やストーリーテリングの上手いアメリカ的な映画作りと、作家主義のヨーロッパ的な映画作りの間のギャップを埋めること、つまりアメリカの映画をヨーロッパで流行らせるための何か特別な工夫なんかは、必要ないと思っている。一風変わったコンセプトと、彼ら自身のかなり個人的な物語、それでいいのだと思う。彼らの勇敢で新鮮なアプローチは、ハリウッドでは生まれない。そういう国籍も慣習も乗り越えた面白い作品がインディペンデントの作家から生まれるのが、私たちの希望です。フランスのヌーヴェル・ヴァーグだって、その頃のフランスの観客に感銘を与えたのはアメリカ映画だったのですから。」
則定彩香
横浜国立大学 教育人間科学部
http://www.ioncinema.com/…/2015-robert-machoian-rodrigo-oje…
http://www.indiewire.com/…/how-challenging-american-indies-…
http://www.americanfilmfestival.pl/artykul.do?id=1040


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