[399] ヴェルナー・ヘルツォークがオンライン講義スタート


既に70本を超える作品を発表し、現在まで絶え間なく映画と人類について探求を続けているドイツの巨匠、ヴェルナー・ヘルツォーク監督がこの夏、オンライン上で映画製作について講義を行う。映画監督によるオンラインの講義はこれまで多くの例がなく、話題を呼んでいる。

 今年73歳になるヘルツォークは、ニュー・ジャーマン・シネマの旗手として『ヴォイツェグ』(1979)『ノスフェラトゥ』(1979)などの純然たるフィクションだけでなく、『アギーレ 神の怒り』(1973)『フィツカラルド』(1982)といった人類学的な探究心を背景とした作品などで知られる。近年では、ドキュメンタリーや史実への関心をより強め、今年のサンダンス映画祭には「Lo and Behold, Reveries of the Connected」を出品(※1)。インターネットの起源と人類に与えた影響を考察するドキュメンタリー作品ということだ。数年前にも3Dで撮影された「世界最古の洞窟壁画」が公開され日本でも話題になったほか、2014年にはニコールキッドマンを主演に迎えたイラク王国建国に関わった女性の伝記映画「Queen of Desert」を発表している(日本未公開)。2012年に大きな議論を呼んだ「アクト・オブ・キリング」(ジョシュア・オッペンハイマー監督)にもプロデューサーとして参加するなど、その活動は近年ますます力強いものとなっている。

ヘルツォークはこれまでにも、次世代の教育になみなみならぬ力をそそいできた。2009年には「Rogue Film School」(「ならずもの映画学校」)なるフィルムスクールを設立。この授業では「ゲリラ映画製作術」が伝授され、授業は基本的にヘルツォグとの一対一の対話で進められるとのことだ。「Indie Wire」誌には、この授業を実際に受講した生徒のレポートも掲載されているが、徹底的に映画監督になるための“理念”を教え込むような授業形式だったようだ。元生徒はヘルツォークの授業について、次のように記述している。

「ヘルツォークは温かくも真摯で、ユーモアがあり、気さくだった。朝食や昼食の際は私たちと話し込み、その後日光の下で話を続けたりもした。8時間にも及ぶ対話形式の授業のあと、教室の外で会ったりすると、私が授業を楽しんだかどうか、そしてなにか具体的な経験を得られたかどうか知りたがった。」(※2)

 これは我々が持つヘルツォークのイメージ——確かにユーモアにはあふれてはいるが、気難しく、怒りっぽそうな・・・——と、およそ異なるもだ。すでにキャリアの頂点にありながら衰えを知らないヘルツォークが、今回新たに開始した教育プロジェクトが「マスタースクール」でのオンライン授業である。

 この授業が最初に話題になったのは今年5月。オンラインで様々な授業を行う「マスタークラス」はスポーツやダンスなどの授業を含み、映画界ではすでに、俳優のケビン・スペイシーが演技についての授業を開講していたが、巨匠監督のヘルツォークの参加は各メディアが大きく取り上げた。「Slate」紙によると、ヘルツォークの授業は合計20のビデオによって進行し、授業時間はあわせて5時間とのこと。オンラインということで、インターネット環境が有ればいつでも受講ができるのが魅力のひとつとされるが、ヘルツォークはこれまでの「Rogue Film School」などで教えてきた映画撮影の理念的な教育にとどまらず、「ストーリー・テリングや撮影技術、ロケーションの選定、資金集め」など、実践的な授業を行うと発表している。(※3)
IndieWire紙で、「マスタークラス」での方針について問われたヘルツォークは次の様に答えている。

「映画製作について重要なことはこの『マスタークラス』ですべて習得できるだろう。(中略)マスタークラスでは、ある意味で、映画監督になるために必要なすべてを織り込んである。それは一般の映画学校では教えられないことなんだ。この二十年間、多くの若者が私からの教育を望んで、クルーになりたいとか、スタッフになりたいと言って近づいてきたが、(マスタークラスは)彼らへの具体的な解答になっているはずだ」

「マスター・クラス」では今後も『ソーシャル・ネットワーク』などで知られる脚本家のアーロン・ソローキン授業が開講を予定しているとのこと。従来「現場」が重視される映画教育に、新たな方向性を示すプロジェクトとなるかどうかが、今後注目される。(※5)

※1 https://www.youtube.com/watch?v=Zc1tZ8JsZvg
※2http://www.indiewire.com/2014/09/12-things-i-learned-at-werner-herzogs-rogue-film-school-69693/)
※3
http://www.slate.com/blogs/browbeat/2016/05/18/werner_herzog_is_teaching_online_classes_through_masterclass.html)
※4http://www.indiewire.com/2016/07/werner-herzog-reddit-ama-filmmaking-master-class-1201704987/

※5「マスタークラス」のHPはこちら。ヘルツォーク自身による授業の説明もアップされている。▶︎https://www.masterclass.com/classes/werner-herzog-teaches-filmmaking

井上二郎
「映画批評MIRAGE」という雑誌をやっていました(休止中)。文化と政治の関わりについて(おもに自宅で)考察しています。趣味は焚き火。


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