ウニー・ルコント監督の最新作『めぐりあう日』(原題:Je vous souhaite d’ être follement aimée)が7月30日(土)から日本で公開される。先日東京で行われた「フランス映画祭2016」、また、京都シネマでの「フランス映画祭in関西」でも上映され、既にご覧になられた方も少なくないだろう。

 本作は、監督が思い描く「三部作」の第二作目にあたる。第一作目は、2009年に公開された、彼女の長編処女作『冬の小鳥』*1(原題:여행자)であり、そこではルコント自身の経験をもとに、孤児となった9歳の少女が養女としてフランスへ行くまでの様子が描かれている。「自分にとって避けられないこと」*2として『冬の小鳥』を撮った彼女だが、撮影後、「“見捨てられる”というテーマについて描ききれていないという感情があった」*3と言う。そして今度は「フランスで、また違う人物たちの30年後(の再会)について撮りたい」*3と思い、構想を膨らませた。そして出来上がった作品が、今作『めぐりあう日』である。

 理学療法士として働くエリザ(セリーヌ・サレット)は、自身の出自、そして生みの親について知るべく、生まれ育った港町ダンケルクに息子のノエ(エリエス・アギス)と二人でやってくる。また、ノエが通うことになった学校で働いているアネット(アンヌ・ブノワ)は、背中を痛め、エリザのもとへ患者としてやってくる。そして治療を重ねるうちに、エリザとアネットの心にはそれぞれの感情が生まれ、二人は少しずつ行動へと移るのである。

 “見捨てられる”というテーマの映画を続けて撮ったルコントだが、そのテーマに行きつくまでには時間がかかった。それは、『冬の小鳥』を撮り終えたあとで彼女になされたインタビュー*2からも読み取ることができる。「この映画の構想は長い間あなたの胸の内にあったものなのですか」という問いに対し、彼女はこう答えている。「私が書き始めたものは、フランスを舞台とした物語でした。それは、父親とバカンスに出かけた少女の話です。父親が海に行ったまま帰ってこない、その時少女は、親を喪失するということに直面し、観客は父親の死を予感します。」しかしルコントは、10ページから15ページほど書き進めたところで筆を置いてしまったと言う。その時彼女は、「“見捨てられる”という自分の経験を間接的な方法で語りたいのだ」という自分の思いにやっと気付いた。彼女がまず描きたかったことは、親と子の別れ、というよりは、取り残された子ども、“見捨てられた”子どもについてだったのだ。そしてその際、実際に自分に起こった出来事を描く、という方法ではなく、自分の経験した感情を映し出す、という方法をとった。

 ルコントは、親に“見捨てられた”子どもに共通することとして、大きく二点挙げている。一つは、親に幻想を抱く、ということ。もう一つは、言葉の孤児になる、ということだ。それらは今作『めぐりあう日』でのエリザにも見ることができる。

 「再会といっても、初めは(エリザとアネットがお互い)母子の関係とは分からずに、再会させたかった」*4とルコントは語る。「偶然の再会から始める」ことで、もはや「出自の追及」だけではなく、「(事実を)認識する道のり」も問題となるのである。彼女にとって、重要だったことは、「両親に対する幻想的なイメージを抱きながら」成長してきた「子ども」であり、そのような「子ども」がどのように母親を知っていき受け入れていくかを描くことだった。*3

 そのような「偶然の再会」の場所、そしてエリザとアネットの関係が展開していく場所として、監督は「治療室」を選んだ。その発想は、ルコント自身が接骨院に行った際、担当者の腕に体を包まれゆらされた経験からきており、その時強いインパクトを受けた彼女は、そのイメージを映画に使いたい、と思ったそうだ。*4そして、本来であれば母が自らの手で自分の子どもを育てていくが、そうではなく、娘が腕で母の体を包み込み、体の不調を治していくという「肌の接触」を通して、二人がお互いを知っていく様子をルコントは描いた。まるで「言葉の孤児」が言葉を取り戻すように、である。

 「私はあなたが狂おしいほど愛されることを望む」(Je vous souhaite d’ être follement aimée)、映画の原題ともなっているこの言葉は、アンドレ・ブルトンが、生まれてきた娘に対して書いたもの*5であるが、この映画のタイトルにおいては、特定の誰かから特定の誰かへと発せられたものではない。これは「映画自体が発する言葉である」とルコントは言う。「見捨てられた子ども」にとって「父や母が話したかもしれない言葉」は「耐え難くも幸せな時間」に彼らを引き込む、と語る彼女は、25歳の時にこの一文に出会い、それからずっとこの言葉を心に留めてきた。*3そして今回、映像と共に表れてくるこの言葉はきっと、この映画を見た私たちの元にも留まることになるだろう。

 

 

めぐりあう日7月30日(土)より順次公開予定。
『めぐりあう日』(原題:Je vous souhaite d’ être follement aimée
監督・脚本 ウニー・ルコント(Ounie Lecomte)
出演 セリーヌ・サレット(Céline Sallette)
   アンヌ・ブノワ(Anne Bnoît)
   フランソワーズ・ルブラン(Françoise Lebrun)
   エリエス・アギス(Alyes Aguis)
   ルイ=ド・ドゥ・ランクザン(Luis-Do de Lencquesaing)
共同脚本 アニエス・ドゥ・サシー(Agnes de Sacy)
撮影 カロリーヌ・シャンプティエ(Caroline Champetier)
音楽 イブラヒム・マーロフ(Ibrahim Maalouf)
制作 Gloria Film
提供・配給 クレストインターナショナル

 

 

*1 仏韓の映画共同製作協定第一号作品となった。第62回カンヌ国際映画祭特別招待作品。第22回東京国際映画祭にて最優秀アジア映画賞を受賞。『オアシス』(2002)、『ポエトリーアグネスの詩』(2010)で知られるイ・チャンドン監督がプロデュースしたことでも話題となった。

*2 http://next.liberation.fr/cinema/2010/01/08/ounie-lecomte-ce-film-s-est-impose-comme-une-evidence-un-souffle-vital_653289

*3 http://www.journaldesfemmes.com/loisirs/cinema/1451241-ounie-lecomte/

*4 東京で行われたフランス映画祭2016での舞台挨拶・インタビューより(2016/6/26)。

*5 アンドレ・ブルトン『狂気の愛』(André Breton, L’Amour fou, 1937, Gallimard)の最終章、娘に宛てて書いた手紙における言葉。

 

 

 

原田麻衣
WorldNews部門
大阪教育大学芸術専攻芸術学コース4年生。フランソワ・トリュフォーについて研究中。
フットワークの軽さがウリ。時間を見つけては映画館へ、美術館へ、と外に出るタイプのインドア派。


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