日本でも大人気の北欧デザインを象徴するファッションブランド「マリメッコ」。戦後間もない1951年のフィンランドでこのマリメッコを創業したアルミ・ラティアは、優秀なデザイナーと共に今までにないデザインのファブリックを作り出した。ただ服を売るのではなく、新しいライフスタイルを発信することにこだわり、当時では珍しい女性起業家としてビジネスの世界に果敢に飛び込んでいく。破産の危機、家族との軋轢などの数え切れない困難と向かい合いながら、美への探究心や従業員達への愛を絶やないアルミ。波乱と激しい情熱に満ちた彼女の人生を描いた「ファブリックの女王」(原題:ARMI ELÄÄ! )を監督したのは、アルミと親交があり、マリメッコの経営にも携わっていたフィンランドの巨匠 ヨールン・ドンネル。今回は、作品についてヨールンが語った言葉をいくつか紹介したい。

 まず、なぜアルミ・ラティアの人生をフィルムに収めようと思い立ったのか。「彼女が亡くなった時、僕はスウェーデンに住んでいたから葬儀にも顔を出せなかったんだ。僕は初期のマリメッコの役員だったから、彼女達が困っている時はいつだって助けたし、アルミとは20年来の付き合いがあった。だから、彼女のストーリーになんだか取り憑かれたようになっていた。」

 この映画が印象的なのは、アルミを演じる舞台女優の目線からアルミの一生が浮き彫りにされる「劇中劇」の構造を取っている点である。なぜあえて舞台のリハーサル中という設定を映画に取り入れたのか?

1398334224923_0570x0342_1398334707610「最初は舞台上演を目指してアルミの資料を集めていたんだけど、舞台用にはあんまり良いものが集まらなくて。だから代わりに、映画にしようと思ったんだ。それでも舞台上演というアイデアは残っていて、映画の中に取り入れることにした。ある劇団がアルミの人生と仕事についての作品に向けて稽古をしている、という風に。そうすれば撮影の大半がセットで済むから、制作費も時間もカットできる。僕はそういう映画の作り方が好きなんだ」。

さらに、「アルミが生きた時代にはフェミニスト運動が盛んになり始めた。彼女自身は運動に参加していなかったけれど、独立したその生き方が結果としてフィンランドを代表する新しい女性像を作り出した。だからといって僕はフェミニスト運動についての映画を作りたかったわけじゃなくて、それをほんのほのめかすくらいでよかった。つまり、アルミという人物自身は『主役』として描くべきではないと思ったんだ。伝統的な伝記映画の方法でアルミを描くのではなく『劇団のリハーサル』という設定の中でなら、アルミを演じる女優の目線で俯瞰的にアルミを描くことができる。時間軸や出来事を自在にミックスすることも可能になる。こういう方法で、彼女の仕事や、仕事に対する姿勢、ビジネスウーマンとしての困難や挑戦を強調したかった」とも語っている。

 「劇中劇」は、古典作品から用いられている手法であり決して珍しいものではないが、この作品でも興味深い効果を提示している。もう一人の「主役」という目線を用いて、アルミの人生に起こった出来事を追っていく。劇中劇を落とし込むことで人物像や感情を浮き彫りにしていく、新しい「伝記映画」として捉えることができるのではないだろうか。監督自身にとって思い入れの深い人物だからこそ生み出すことのできた独特な手法だと思う。舞台という設定を存分に活かした、色鮮やかなファブリックを身にまとってモデルたちが踊るショーの場面にも注目したい。現在全国で上映中。

参考URL

http://www.indiewire.com/2016/02/legendary-finnish-filmmaker-jorn-donner-looks-to-his-past-and-films-future-in-armi-alive-24153/

http://www.screendaily.com/features/interviews/jorn-donner-armi-alive/5082436.article

http://cineuropa.org/it.aspx?t=interview&l=en&did=284961

 


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