『エクス・マキナ』は、検索エンジンで有名な世界最大のインターネット会社「ブルーブック」に勤務するケイレブが、女性型ロボットのエヴァに搭載された人工知能の実験を行う中で物語が展開していくSFスリラーである。そして、アレックス・ガーランドが脚本だけでなく、初監督を務めた作品である。彼は、過去にダニー・ボイル監督の『28日後…』を始めとする映画でいくつもの脚本を手掛けてきている。
今回、『エクス・マキナ』の音楽を担当したのは、ジェフ・バーロウとベン・サリスベリーである。彼らは、2012年に製作され、アレック・ガーランドが脚本を務めた『ジャッジ・ドレッド』で音楽を作曲したが、その音楽は結局、映画本編に使われることはなかった。しかし、後にその音楽は、Drokkという独立したアルバムで、リリースされることとなる。
Drokkで聴かれたジョン・カーペンターによるシンセサイザーのような音色が『エクス・マキナ』のサウンドトラックにも存在している。また、徐々に速度を緩めていく金管楽器の音色から緩やかなチェレスタの音色まで、独特の要素も散りばめられている。その音楽は、映画における人間と機械の間の緊張を露にさせる。
まずは、今作の作曲家2人がどのようにアレックス・ガーランド監督と出会ったのかについてから始めたい。2012年製作のガーランドが脚本を担当した『ジャッジ・ドレッド』で仕事を依頼される以前には、お互いに面識はなかった。当時のことをジェフ・バーロウは次のように語っている。
ジェフ・バーロウ:「初めてアレックス・ガーランドと繋がりを持ったのは、XLレコーディングスを経営しているリチャード・ラッセルを通してでした。彼は、アレックスの古くからの友人で、私に電話をくれ、アレックスに会って欲しいんだと言いました。アレックスは、『ジャッジ・ドレッド』の映画に取り組んでいました。だから、私は、喜んで会いましょうと言いました。私は、ベン・サリスベリーと共にバンクシー監督の映画(『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ 』)に取り組む予定でしたが、結局のところ、その必要がなくなったのです。私たちは、共に仕事をする機会を待ち望みました。」
しかし、『ジャッジ・ドレッド』のために作曲した音楽は、結局のところ、使われることはなかった。ジェフ・バーロウとベン・サリスベリーの音楽が使われなかった理由とはいかなるものであったのだろうか。そのことについて、続けて2人の作曲家が語ってくれている。
ベン・サリスベリー:「それは、ハリウッドの組織に理由がありました。私たちは、とても明確なアイデアを持っていました。それは、Drokkで聴くことができます。それは、とても明確に美的なものです。アレックスがとても愛し、すべての創作者が愛するものです。それは素晴らしいものです。それから、映画へ出資した人たちは、製作をどのように進めるのかについては異なるアイデアを持っていました。思うに、私たちは、その出資者たちにまったく賛同しませんでした。そのことに関して、悪意はありませんでした。しかし、私たちが取り組もうとしていたその映画、その非常に限定的なスタイルにおいて、変更は、音楽的に酷いものでした。私たちが行おうとしていたことの効果を弱めてしまうのです。そんなところだったよね、ジェフ?」
ジェフ・バーロウ:「その通りです。自分たちが行おうとしていたことに変更を加えたくないと言ったのです。」
ベン・サリスベリー:「つまり、自分たちが『エクス・マキナ』において多くの変更をしなければならなかったのです。なぜなら、映画音楽の作曲家として、常にものごとを行うからです。共同で取り組むのです。しかし、(『エクス・マキナ』においては、)少し異なりました。斬新さから始めることができたので、より良い状況にいました。なぜなら、映画製作者が望む新たな方法において、映画への課題を背負っていたからです。」
『エクス・マキナ』の音楽は、アレックス・ガーランド監督本人から依頼されたことをベン・サリスベリーは明かしている。ガーランド監督は、2人の作曲家に脚本を送り、そこから作業は始まった。しかし、その当時、2人は映像をまだ観てはいなかった。
ベン・サリスベリー:「『ジャッジ・ドレッド』でも、その結末を見届けていませんでした。もし、そのことを再び行うのであれば、本当に早期から取り組もうと考えました。私たちの皆が、再び共に仕事をすることを望んでいました。だから、アレックスのアイデアが固まり次第、脚本を受け取りました。映画製作者が戻り、映像の編集を始め次第、最初のラフカット映像を観ました。私たちは映画のできあがっていく中での一部となっていました。そして、それは、同様にアレックスにとっても良いことでした。彼は、私たちと共同制作ができたからです。」
ラフカットの映像を観た後、作曲が始まった。その『エクス・マキナ』の音楽について具体的に述べてくれている。
ベン・サリスベリー:「私たちは、とても早期の段階からアイデアを持っていました。そうだよね、ジェフ?アレックスは、(女性型ロボットの)エヴァのためにとてもシンプルで、願わくば魅惑的で、美しいテーマ曲が必要なことを理解していました。つまり、とても純真で、その作曲作業は自分たちが早期の段階で行ったことでした。私たちはまた、ぞっとするホラーの要素があることを理解していました。だから、私たちは、早期に音の世界に取り組むことができたのです。」
エヴァは、音楽的な個性であるテーマ曲を持っている。その音楽を組み込んでいくことについて、様々な要素の中で、映画の中の音楽を構築していくということに焦点を当てて説明している。
ジェフ・バーロウ:「それは実際に雰囲気を高めます。」
ベン・サリスベリー:「エヴァから離れた要素が存在するのです。それらは、エヴァと関係していますが、登場人物以外の要素です。(さらに、)恋に落ちるという要素があります。そのことをより良い方法で組み込みたかったのです。そこには、おそらく、2つの要素があります。実際に恋に落ちているという要素と、それから、徐々に高まっていく閉所恐怖症の緊張です。」
さて、その音楽における音や楽器は、シーンやプロットにおいてどのように選ばれたのだろうか。
ジェフ・バーロウ:「その選択は奇妙なのです。私たちは、全体においてドラムを一切使っていません。私は、ドラムを使用してきた経験がありますが、しかし、多くの異なった楽器を試しました。それは、間違ったことのように聞こえます。変わった映画に取り組むことであったのです。なぜなら、アクションがなく、1つの場所で、たった3人の登場人物で、台詞の時間以上の音楽の制作をしたからです。だから、音や楽器の選択にとても早期に取り組むことはできませんでした。古いオルガンを用いました。いくつかのショットは、とても長かったからです。音を残すために、ペダルを使いました。ペダルによってとても長い残響を生み出したのです。ペダルを使ってオルガンを演奏し、またシンセサイザーを演奏しました。Drokkでも、同様のシンセサイザーを使いました。このゆっくりとした速度の感覚を保ちたかったのです。まったく鋭い音ではないのです。思うに、ドラムの音は、鋭すぎるのです。」
ベン・サリスベリー:「明らかに伝統的なオーケストラのスコアを求めてはいませんでした。また、私たちは、伝統的なシンセサイザーのスコアを求めてはいなかったのです。Drokkのスコアと同様のこともしたくはありませんでした。その要素は、明らかに存在していますが。思うに、Drokkへの単純な反応であったのかもしれません。しかし、それは、自然に近い人間の音と電子の音の混合でなければなりませんでした。そこに、人間の要素と現実的な楽器を求めたのです。だから、本物のギターを用い、チェレスタやオルガンといったシンセサイザーよりも、より自然に近い楽器を用いました。このことは、物事をゆっくりとさせます。その物事とは、すべて現実的な楽器から創り上げられるのです。この曲がった金管楽器も同様なのです。だから、思うに、人間の世界から来ているすべてがそうなのです。」
ジェフ・バーロウ:「実際に、そこに自然のものが多く存在しています。実際の人間のもの、そして、それは、手で扱われています。その方法と対照的なことといえば、(例えば、)プラグは単に差し込むだけです。それは、シンセサイザーを使うことと似ています。ホルンは、現実味を感じさせます。シンセサイザーとは異なるのです。ホルンは、本当に物事をゆっくりとさせます。思うに、それは、映画の速度であり、物事とは、思っているようなものではないという現実の感覚を発展させてくれるのです。」
今回の作曲に当たって、影響を受けた音楽は存在するのであろうか。ベン・サリスベリーは、ジョン・カーペンター、タンジェリン・ドリーム、クリント・マンセル、クリフ・マルティネスといった作曲家の名前を挙げて説明をしてくれている。
ベン・サリスベリー:「Drokkは、(ジョン・)カーペンター、タンジェリン・ドリームといった種の音楽によって、明らかに系統的、遺産的、ノスタルジックな感覚を持っています。これには、ある程度、影響を受けています。『エクス・マキナ』の音楽は、Drokkと少しばかり関係があるからです。しかし、私は、何か他のサウンドトラックを聴いたり、そのことについて話したりしているとは思っていませんが、そうですよね?『エクス・マキナ』の音楽は、明らかに、オーケストラの音ではないサウンドトラックに帰属しています。クリント・マンセルは、とても良い例です。そして、クリフ・マルティネスやその手の作曲家もそうです。しかし、私たちは、何も参考にはしていないのです。アレックスは、いかなるものも参考にはしないということをとても大切にしています。」
この映画には、ジェフ・バーロウとベン・サリスベリーにより作曲された楽曲以外の音楽も使われている。Invadaと契約をしているCUTSというアーティストの楽曲である。そのアーティストの楽曲が使われることとなった経緯とはどのようなものであったのだろうか。
ジェフ・バーロウ:「Invadaと契約しているCUTSと呼ばれるアーティストのトニーが参加しています。彼は、オーディオヴィジュアルのアーティストで映画製作者です。彼は、その自身の作品のためにこの楽曲を書いています。私は、彼のアルバムを持っていました。その中の1つのトラックである‘Bunsen Burner’です。車の中にそのアルバムを置いていました。私は、本当にその曲を気に入っていました。アレックスは、外から何か持ち込みたい音楽があれば、そうしてくれと言いました。」
ベン・サリスベリー:「そこにテーマ曲のようなものが必要のなかったことは、私たちの3人と音楽編集者の皆が知っていた数少ないことでした。私たちは、結末を構築するテーマ曲、しかし、テーマ曲の発展から離れて、少しばかり際立つことが必要であるようなテーマ曲に取り組みました。それから、トニーのトラックがありました。彼は、『エクス・マキナ』の音楽の軸を与えてくれたのです。だから、私は、そのトラックを取り入れることができました。そのトラックの少しの断片を本当に僅かに先に取り出したのです。」
ジェフ・バーロウ:「その通りです。映画の中で彼のトラックをリバースエンジニアリング(分解して分析すること)しました。それは、よく試みることなので、うまくいくのです。そのトラックの拍子は、その音楽から少しばかり取り出すと、“do-do do-do do-do”となっていました。」
ベン・サリスベリー:「私たちは映像の上でそのことを思いついたのを思い出しました。ジェフが(感極まって)「おお、腕の毛が立っている。上手くいったんだ!」と言ったのです。」
ジェフ・バーロウ:「また、彼は、シンセサイザーで異なる方法を試みました。彼のフィルターはとても開かれており、そのことは、さらに現代の音を加えてくれたのです。それは、音として必要なことであり、今を実現することです。酷いダンスのトラックではなく、幸福のリズム、そこに唸るようなリズムを加えるのです。それは、必要なことであり、大成功でした。すべてがとても微妙に音色を弱めていたのです。」
また、映画の中には、ディスコのダンスシーンがある。そこに使用された歌曲についても語ってくれている。
ベン・サリスベリー:「それは、オリバー・チータムによる‘Get Down Saturday Night’という曲です。私たちは、その楽曲については話せることはありません。アレックスがその曲を選んだのです。なぜなら、(アレックスが)撮影の中でそのことを思いついたからです。」
そのディスコ音楽は、とても奇妙な感覚で挿入されている。ベン・サリスベリーによれば、それは、映画の中に緊張を壊すためであるという。しかし、一方で、その奇妙さは、さらなる緊張を増幅させるとも語っている。
さらに、Savagesというバンドの曲も用いられている。
ジェフ・バーロウ:「当初、映画の中で、Savagesによる2曲のトラックを用いていました。1曲は、ちょうどエンドクレジットの始まりに流れます。」
ベン・サリスベリー:「1曲目はそこで流れます。‘Husbands’という曲です。実際に、映画のエンドクレジットの開始となる曲です。」
ジェフ・バーロウ:「しかし、重要なこととは、『エクス・マキナ』が、とても、とても素晴らしい音と映像であるということであり、目を見張るようなオープニングであるということです。異なる映画に置き換えるならば、マーベル映画のような感覚に近いです。本当に素晴らしく、わくわくさせるマーベル映画です。その後に、1時間の対話の中へと誘われるのです!」
参考URL:
http://consequenceofsound.net/2015/04/breathing-machines-geoff-barrow-and-ben-salisbury/
http://nerdist.com/ben-salisbury-and-portisheads-geoff-barrow-discuss-their-score-for-ex-machina/
http://www.factmag.com/2015/04/10/geoff-barrow-ben-salisbury-ex-machina-soundtrack-interview/
http://www.exmachina-movie.jp/story.html
宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。
コメントを残す