fortnight-poster-2016 2016年カンヌ国際映画祭のラインナップが発表された(#1)。会長がジル・ジャコブからピエール・レスキュール(カナルプリュスの元最高経営責任者)に代わって2年目の今年は、アルモドバルやアサイヤス、ダルデンヌ兄弟、ドラン、ジャームッシュ、ケン・ローチ、ブリュノ・デュモン、アラン・ギロディ、クリスチャン・ムンギウ、ブリランテ・メンドーサ、ジェフ・ニコルズ、ニコール・ガルシア、ショーン・ペン、パク・チャヌク、ニコラス・ウィンディング・レフン、ポール・ヴァーホーヴェンら過去の受賞者あるいはスター監督がずらりとコンペに並び、きわめて華やかな顔ぶれとなっているが、同時にやや新鮮味に乏しい印象も否めない。コンペ外で上映されるイギー・ポップのドキュメンタリーを含めジャームッシュの作品が2本並んでいるのは特筆されるべきだろう。ジェフ・ニコルズは2月のベルリン国際映画祭に出品された『Midnight Special』に続く新作『Loving』でコンペを競う。また、オープニングではウディ・アレン『Cafe Society』が上映され、「ある視点」部門に深田晃司監督と是枝裕和監督の作品が出品される。コンペの審査員長にはジョージ・ミラーが選ばれ、シネ・フォンダシヨンと短編部門の審査員長は河瀬直美がつとめる。2016年のカンヌ国際映画祭は5月11日から開催される。

 一方、カンヌ国際映画祭にはメインの映画祭とは独立した平行部門が幾つか存在する。監督週間、国際批評家週間、ACIDらがそれである。それぞれ、フランス監督協会、フランス映画批評家組合、独立映画配給協会ACIDによって運営されている。中では、今年IndieTokyoで長編処女作『若き詩人』を配給公開したダミアン・マニヴェルの第二作『Le parc』がACID部門に選ばれたことをまずお伝えしなくてはならない(#2)が、これらの部門ではそれぞれ独自の趣向を備えたセレクションを行い、コンペティションは行われず、メインの映画祭とはまた違った意義を持つイベントとしてそれぞれ高く評価されている。ここでは、ラインナップが発表されたばかりの監督週間について少し詳しく紹介することにしよう。この部門は、昨年アルノー・デプレシャン『あの頃エッフェル塔の下で』、デニズ・ガムゼ・エルギュヴェン『裸足の季節』、チロ・ゲーラ『大河の抱擁』などが上映され大いに盛り上がった。日本でも前2作は公開され、『大河の抱擁』も京都ヒストリカ国際映画祭で上映された。(#3)

img_67451_112855 まず、監督週間のオープニングを飾るのはイタリアの巨匠マルコ・ベロッキオ(新文芸坐シネマテークで『母の微笑』と『エンリコ四世』を上映したばかりだ)の最新作『Fai bei sogni(美しい夢を描く)』である(#4)。これは東京国際映画祭で上映された『私の血に流れる血』に続く作品で、マッシモ・グラメリーニの小説を脚色したものである。グラメリーニはスポーツ新聞のジャーナリストとして知られ、政治問題を扱ったコラムも数多く発表している。『美しい夢を描く』は2012年にイタリアでベストセラーとなった彼の小説第二作である。著者の自伝的内容で、9歳の時に若くして亡くなった母親の喪失感に苦しむ主人公がある女性の助力で精神的に回復していく様子を描いたものだという。『ローマに消えた男』『フォンターナ広場』などのヴァレリオ・マスタンドレアが主人公を演じ、『アーティスト』『ある過去の行方』のベレニス・ベジョが共演している。原作ものではあるが、ベロッキオが好んで描く題材(母親の死、女性との精神的つながり、トラウマを抱えた主人公)であり、大いに期待させられる。(#5)

gael-garcia-bernal-neruda-2 ピノチェト独裁政権時代の反体制派選挙キャンペーンをユニークな視点で描いた『NO』が日本でも大きな話題となったパブロ・ララインの『Neruda(ネルーダ)』も上映される。これは、『イル・ポスティーノ』の原作者としても知られるチリの国民的詩人でありノーベル文学賞受賞者パブロ・ネルーダが冷戦時代に政府から弾圧を受けた炭鉱夫たちのストライキを擁護したことから政府から追われる身となった史実に基づいている。『イル・ポスティーノ』の前日譚だと言って良いだろう。ネルーダを追う刑事役でガエル・ガルシア・ベルナルが出演している。(#6)

 アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞を受賞し、日本でもようやく公開が決まった『シチズンフォー』のローラ・ポイトラス監督最新作『Risk(リスク)』もまた監督週間で披露される(#7)。この作品でポイトラスは、『シチズンフォー』のエドワード・スノーデンと共にデータ・ジャーナリズム最大の立役者となったウィキリークスのジュリアン・アサンジを取り上げているとのことだ。

 87歳になるチリの鬼才アレハンドロ・ホドロフスキーもまた『Poesia Sin Fin(終わりなき詩)』を携えてカンヌに現れる。物語は監督自身の若き日の回想であり、後にラテン文学の巨匠となるボヘミアン・アーティストたちとの出会いが描かれているとのことだ。IndieGoGoを通じて制作資金をクラウドファンディングしたことも話題となった。(#8)

11224272_10206777004816984_2139249160696441664_o クロージングで上映されるポール・シュレイダーの新作『Dog Eat Dog(食うか食われるか)』は、既に制作段階から注目を集め、配給権が各国で飛ぶように売れた作品だ。舞台はロサンジェルス。前科者の3人が誘拐のために雇われるが、ぶざまな犯罪がやがて制御不能に陥っていく過程が語られているとのことだ(#9)。ニコラス・ケイジ、ウィレム・デフォー、そしてポール・シュレイダー自身が出演している。

 監督週間の全てのラインナップは、以下の通りである。

“Sweet Dreams,” directed by Marco Bellocchio (Opening Night Film)
“L’economie du couple,” directed by Joachim Lafosse
“The Aquatic Effect,” directed by Solveig Anspach
“Like Crazy,” directed by Paolo Virzi
“Mercenaire,” directed by Sacha Wolff
“My Life as a Courgette,” directed by Claude Barras
“Neruda,” directed by Pablo Larrain
“Raman Raghav 2.0,” directed by Anurag Kashyap
“Tour de France,” directed by Rachid Djaidani
“Risk,” directed by Laura Poitras
“Two Lovers and a Bear,” directed by Kim Nguyen
“Therese,” directed by Sebastien Lifshitz
“Wolf and Sheep,” directed by Shahrbanoo Sadat
“Mean Dreams,” directed by Nathan Morlando
“Endless Poetry,” directed by Alejandro Jodorowsky
“Fiore,” directed by Claudio Giovannesi
“Divines,” directed by Houda Benyamina
“Dog Eat Dog,” directed by Paul Schrader (Closing Night Film)

#1
http://www.festival-cannes.fr/jp/article/62135.html
#2
https://www.facebook.com/ayoungpoet/photos/a.934368163295038.1073741828.934321786633009/1041659969232523/?type=3&theater
#3
http://www.historica-kyoto.com/films/world/embrace-of-the-serpent/
#4
http://www.indiewire.com/article/2016-cannes-film-festival-directors-fortnight-lineup-paul-schrader-laura-poitras-pablo-larrain-20160418
#5
http://www.ioncinema.com/news/annual-top-films-lists/top-100-most-anticipated-foreign-films-of-2016-60-marco-bellocchio-sweet-dreams
#6
First Production Stills From Pablo Larrain’s ‘Neruda,’ With Gael Garcia Bernal (EXCLUSIVE)
#7
http://www.theguardian.com/film/2016/apr/19/cannes-festival-directors-fortnight-julian-assange-laura-poitras
#8
https://www.indiegogo.com/projects/alejandro-jodorowsky-endless-poetry#/
#9
Berlin: Nicolas Cage’s ‘Dog Eat Dog’ Fetches Strong Sales (EXCLUSIVE)

大寺眞輔
映画批評家、早稲田大学講師、アンスティチュ・フランセ横浜シネクラブ講師、新文芸坐シネマテーク講師、IndieTokyo主催。主著は「現代映画講義」(青土社)「黒沢清の映画術」(新潮社)。

『アウト・ワン』日本語字幕付上映のためのクラウドファンディング実施中!
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