[359]トム・マッカーシー監督作『スポットライト 世紀のスクープ』におけるハワード・ショア作曲の音楽について


トム・マッカーシー監督の『スポットライト 世紀のスクープ』は、第88回アカデミー賞において、作品賞、脚本賞を受賞した。そして、その映画を支える役割として、音楽もまた、台詞や映像に比するほどに観客に映画の意図を伝えてくれる。
『スポットライト 世紀のスクープ』は、2002年1月に、アメリカ東部の新聞「ボストン・グローブ」に掲載された事件がテーマとなっている。それは、地元ボストンの数十人もの神父による児童への性的虐待を、カトリック教会が看過してきたというスキャンダルである。
その映画の音楽を担当したのは、ハワード・ショアである。彼は、デイヴィッド・クローネンバーグ監督との数々のコラボレーションでその名を馳せた。そして、ピーター・ジャクソン監督の『ロード・オブ・ザ・リング』3部作及び、『ホビット』3部作の大規模なオーケストラによる音楽によって、さらにその名を世界に知らしめることとなった。
ハワード・ショアが『スポットライト 世紀のスクープ』の音楽を作曲することを決めた理由とはいかなるものであったのであろうか。まずは、このことについて、彼の発言から探っていきたい。

「物語がとても濃密で、脚本が素晴らしかったのです。トム・マッカーシーとジョシュ・シンガーが物語にこれほどの素晴らしい脚本をもたらしてくれました。このように素晴らしい何かを手に入れたとき、その1部となりたいと思います。できるだけの誠実さと心を持って、物語を伝えたいと思います。」

HowardShore2013さて、トム・マッカーシー監督とのコラボレーションにおいて、どのようにハワード・ショアは音楽を作曲していったのだろうか。そのことについて、ハワード・ショアは、以下のように説明してくれている。

「私たちは、映画のテーマに取り組むことから始めました。それは、教会の圧力であり、丘の上の都市が舞台となっています。調査報道であり、非常に重大で、服従であり、共謀です。私たちはまた、遺産となるジャーナリズムというアイデアについて話し合いました。その物語は、2000年、2001年に起きたことであり、インターネットを使っていなかった時代であったからです。調査の観点において、異なった時代です。それから、私たちは、子供たちについて話し合いました。犠牲者であり、物語の悲劇的な結末なのです。
そして、私は、楽曲を書きました。それらのテーマに基づいた楽曲です。私は、映画から離れてそれらのアイデアに基づいたテーマやモチーフを書きました。より物語や脚本に基づいたものです。私はその方法を気に入っています。それから、映画が編集に近づくと、まさに映画へのスコアリングを始めます。映画の中にスコアを付けるために、それらの作曲した楽曲を用いて、映画に合わせて音楽を書き始めます。」

作曲法においては、物語のテーマを主眼に置いてるがゆえに、特定の登場人物を中心に据えてテーマ曲を書くという方法とはアプローチが異なる。つまり、『スポットライト 世紀のスクープ』においては、ライトモチーフのような特定の人物に音楽を作曲するという手法が中心に用いられていないということであろう。そのことについてもハワード・ショアは続けて話している。

「テーマとして、物語は余りに濃密なのです。物語のさらなる広がりの側面や調査における悲惨な側面を扱っていますが、それらの楽曲を作曲したいときに、登場人物に取り組む必要がありませんでした。そして、それはこの映画でこの方法(映画のテーマに基づいて作曲をする方法)を使用することを選択した理由なのだと思います。」

しかし、一方でハワード・ショアは、音楽によって登場人物に焦点を当てているとも話している。それは、遺産となるジャーナリズムのための音楽でもあるからである。調査報道についての物語であり、そこにテーマがある。そして、そのテーマは、登場人物の記者とは切り離せないのである。この意味において、映画全体のテーマに基づいて作曲する手法と登場人物に対して作曲する手法は、必ずしも矛盾するとはいえないであろう。

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『スポットライト 世紀のスクープ』は、カトリック教のスキャンダルが主題となっているが、ハワード・ショアは、2008年の映画『ダウト〜あるカトリック学校で〜』で、カトリック学校の性的虐待の疑惑を主題に掲げた映画の音楽を担当した経歴がある。このように、この2作品には、物語において共通点がある。
また、『スポットライト 世紀のスクープ』において、ハワード・ショアは『ロード・オブ・ザ・リング』のような大規模なオーケストラ(96の楽器編成のオーケストラ、8人から10人のソリスト、60人の成人の合唱団と50人の子供の合唱団)を起用した音楽ではなく、ピアノを中心とした非常に小さな楽器編成によってレコーディングを行った。『ダウト〜あるカトリック学校で〜』も、12から15の楽器編成でレコーディングが行われたが、小編成のオーケストラを起用したという点においても、今作と似ていることをハワード・ショア自身が認めている。
その『スポットライト 世紀のスクープ』の音楽は、10の楽器編成の室内楽団によってレコーディングがなされた。中心となるピアノ以外には、フェンダー・ローズとハモンドのエレクトリックキーボード、クラシカルハープ、バウロン、アイリッシュドラム、小さな打楽器、アコーディオン、フィドル、エレクトリックギター、エレクトリックベース、6本の弦のアコースティックギター、マンドリン、フレンチホルンが用いられている。この楽器編成の中でピアノを中心とした理由について、ハワード・ショアは以下のように話している。

「ピアノはとても優雅な楽器です。同時に、私は、ピアノを真実を語る楽器であると考えました。真実を探る映画であり、ピアノの黒と白の性質は新聞の黒と白の性質に関連していると思いました。そのことが気に入ったのです。また、そのピアノとの関係性には、このような物語を伝えるために無限の可能性がありました。つまり、音楽とは、本質的に感情的な言語なのです。しかし、ピアノは、過度に感情を強調し過ぎることなく、自分が書く感情の度合いを判断するのに使うことができたのです。ピアノは、10の編成の楽器のオーケストラにおいて中心となっている楽器です。その構成は、和声の言語であるのです。先ほども述べたように、その(黒と白の)対位法は、すべてのテーマとモチーフにおいて用いています。それから、それらの演奏は、アンサンブルが織り成す本当に小さな世界が描き出すそれぞれのシーンで、そのスコアを映画の中に配置するために創造され、そして、演奏はそのアンサンブルによって創られています。」

ハワード・ショアは、映画のスコアを書く際に、テーマに基づいて、どのように音楽を使うべきなのかをシーンごとに考えている。テーマとは様々な異なるアプローチによって用いられ、その最適なテーマの使用方法をシーンごとに見つけ出しているのである。そして、10人のオーケストラもシーンによって、彼が考える適した形で楽器の編成が組まれている。

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また、ハワード・ショアは『スポットライト 世紀のスクープ』のようなドラマに音楽を付けるとき、どのように「動きの活力」を「登場人物の人間性」や「伝えようとする物語」と釣り合わせているのだろうか。

「…このことに対しては、明確な答えを持っています。私は作曲家としての直感を持っています。何がそれらの集団に適切であるのか、ある方法において特定の過程をどのように特徴づけていくのか、シーンにおいて台詞は存在するのかどうか、または台詞が存在しないのかどうか、そして、その点において音楽は物語を伝えているのかどうかについての感覚です。その物語を伝えるために使われる技法は変化するのです。」

ハワード・ショアにとって、今回の作曲に当たって挑戦的であったこととは、現代と過去との時代の差と向き合うことであった。先の発言にもあったようにインターネットが使われていない時代であったがゆえに、デジタルではなく、アナログの方法によって記者たちは事件の調査をしたが、そのアナログであるという側面をスコアの中に反映させたと、彼は語っている。

「時代の事柄に関するいくつかのことに対しては、挑戦でした。中盤のシーンにおいて、記者が新聞の切抜きを見つめ、マイクロフィッシュを使います。それは、もはや知られておらず、まったく使われなくなった技術です。(そのことは)確かではありません。それはまだ使われているかもしれません。しかし、繰り返しますが、これは、調査がインターネットから隔絶して行なわれてたことを描いている映画なのです。コンピュータが使われていないのです。調査の側面では、アナログなのです。私は、そのことを音楽としても反映させ、その時代とも合わせたと思いますが、そのことは、少し労を要することであり、それらのシーンのための適切な音調を見つけ出すことでした。」

michael-keaton-spotlightさらに、最後のシーンにおける音楽の使い方について、ハワード・ショアが自身の映画の解釈を交えて話している。映画における主要人物の1人であるロビーの表情に着目した上で、音楽は変化し、観客は映像だけでなく、音楽からも意味を感じ取ることができるようになっている。つまり、このような音楽を作曲する際には、映画音楽の作曲家は、映画におけるシーンの解釈を読み取る優れた能力が問われるのである。そして、その最後は、彼にとって印象的なシーンとなっている。彼は、『スポットライト 世紀のスクープ』へ取り組んだ中で、特に思い出すことがあるかどうかについて問われ、以下のように答えている。

「マイケル・キートンによって演じられる登場人物のロビーが、映画の最後にスポットライトのオフィスに戻ってくるのが最後のシーンです。そして、彼は振り返って、キャメラが彼に近づきます。彼は何も言いませんが、音楽が変わります。その音楽の変化は、彼が始めたことを成し遂げた彼の表情に合わせています。電話が鳴り、そこに興味が向きます。物語は、新聞の中のことであり、彼が望んだやり方で物語を解決します。それは決して勝利であるとはいえません。なぜならば、この種の虐待が続いていた世界の国々のリストによって、少しばかりの悲劇の覚書で、映画は幕を閉じるからです。しかし、彼の顔を見ることによって、希望のかすかな光を感じることができるのです。彼のおかげで世界が変わっていくことを願うことができるのかもしれません。」

ハワード・ショアは、優れた仕事をこなすためには絶えず苦難があると述べている。しかし、一方で光の瞬間があり、希望のかすかな光が差し込むことがあると話す。それは共鳴する何かを創り上げたときなのである。『スポットライト 世紀のスクープ』のような映画において、最高の瞬間とは、幅広い観客に映画を受け入れられることであり、その映画が観客に共感を呼んだときであるという。物語を心から誠実に伝えることによって、幅広い人々によって受け入れられる方法を実現し、その物語を伝えることができる喜びと希望が与えられるのであるとハワード・ショアは語っている。

参考URL:

http://spotlight-scoop.com/intro.php

http://blogs.indiewire.com/thompsononhollywood/listen-how-howard-shores-spotlight-score-became-his-most-haunting-work-20151204

http://www.musictimes.com/articles/60300/20151231/film-composer-howard-shore-talks-spotlight-soundtrack-score-more-exclusive.htm

http://www.filmmusicsociety.org/news_events/features/2016/010416.html

http://www.ibtimes.com/spotlight-movie-composer-howard-shore-reveals-challenges-making-music-boston-globe-2236705

http://www.awardsdaily.com/2015/12/23/interview-howard-shore-talks-composing-spotlight/

http://www.hitfix.com/news/howard-shore-on-his-quietly-haunting-score-for-spotlight

http://blogs.wsj.com/speakeasy/2015/12/30/lord-of-the-rings-to-spotlight-howard-shore-reflects-on-5-famous-scores/

http://collider.com/howard-shore-spotlight-interview-tom-mccarthy/

http://www.billboard.com/articles/news/6814186/howard-shore-spotlight-film-score-interview

http://www.ascap.com/playback/2016/01/radar-report/howard-shore-spotlight

http://www.awardscircuit.com/2015/12/21/interview-legendary-composer-howard-shore-inspired-score-spotlight/

宍戸明彦
World News部門担当。IndieKyoto暫定支部長。
同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科博士課程(前期課程)。現在、京都から映画を広げるべく、IndieKyoto暫定支部長として活動中。日々、映画音楽を聴きつつ、作品へ思いを寄せる。


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