今日は映画監督/俳優のオーソン・ウェルズについての記事を2つ紹介します。
 オーソン・ウェルズの生涯とその製作活動を追った『Magician: The Astonishing Life and Work of Orson Welles』(『魔術師――オーソン・ウェルズの驚くべき人生とその作品』)(ChuckWorkman監督)が12月にロサンゼルスでプレミア公開されます。
 作品はウェルズの生涯を忠実にドラマ化したもの。「1915-1941: The Boy Wonder」と題された第一章では、ウェルズの少年時代から20代までが描かれています。ウェルズの20代は――それはアメリカの大恐慌期とほぼ重なります――多くの事件で満ちています。初の舞台演出作品『マクベス』のヒットをはじめ、もちろん1938年10月30日の有名なエピソード――SF小説『宇宙戦争』のラジオ・ドラマバージョンを迫真の演技でこなしたウェルズの声に、リスナーは本当に火星人が攻めてきたと信じ込みパニックになった――も描かれています。※1
 ウェルズ作品からの映像もふんだんに使われ、いかに彼が一作一作で自身のスタイルを向上させていったかを伝えるドキュメントとしても見ることができるようです。既に古典として名高いウェルズの生涯を描く本作はRKOをはじめとしたハリウッドの歴史とも関連して、アメリカ映画愛好者にとってきわめて関心度の高い、魅力的な作品なのではないでしょうか。スピルバーグ、スコセッシ、リンクレイターなどのインタビュー映像も作品には含まれているそうです。※2
 2つ目の記事はウェルズの未完作品『The Other Side of the Wind(『風のあちら側』)』の話題です。Royal Road Entertainment社は4半世紀にわたる家族を含む権利保持者との交渉の末、とうとう本作を公開する権利を得ました。※3 ジョン・ヒューストンを主演に迎え、ハリウッド映画監督の映画製作を描いた本作は、同じく未完の『Don Quixote(ドン・キホーテ)』とともに、公開が待たれていた作品です。ウェルズの生誕100年にあたる来年2015年の公開が決定したと同社は発表しています。
 本作を論じた著書を来年刊行するジョシュ・カープ(Josh Carp)氏は本作の公開は「オズ大陸、あるいは失われた墓標を見つけるほど」困難な状況だったといいます。※1 1985年に逝去したウェルズは、その最後の15年間の大半をこの作品に費やしました。彼の死後、権利関係のトラブルもあり、長らくフランスでお蔵入りになっていた本作の公開に尽力したのが、製作当時のプロデューサーもつとめていたフランク・マーシャル氏。スピルバーグのプロデューサーも経験した彼は、「これが最後のチャンス」と語り、「テクノロジーの利もあって、最終的な編集は滞り無く進めることができた」とニューヨーク・タイムスの記者に伝えました。(※3)
  ここ数年間、東京ではウェルズの特集上映はみなかったように思います(大阪ではこの夏特集があったようです※4) 生誕100周年の来年、東京でも特集上映がおこなわれることを期待します。
※1 http://variety.com/…/film-review-magician-the-astonishing-…/
http://variety.com/…/orson-welles-final-film-2015-release-…/
※2 http://moviepilot.com/…/stunning-trailer-for-orson-welles-d…
※3 http://www.nytimes.com/…/hollywood-ending-near-for-orson-we…
※4 http://www.planetplusone.com/special/post_191.php

文責:井上遊介(映画批評MIRAGE 編集委員)


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