[346]SXSW2016開幕!


SXSW 今年もまたSXSW(サウス・バイ・サウス・ウェスト)がテキサス州オースティンを舞台に3月11日から開催される(#1)。アメリカ最大のインディペンデント映画祭の一つであり、近年商業性が強まったと言われるサンダンス以上にもっとも先鋭的で、野心的で、若者たちの熱気に支えられた(ハリウッドから外れた)アメリカ映画の「いま」を感じられる場所として世界的に評価も注目度もきわめて高い。

 日本でもまた、昨年5月からSXSW日本語サイト(#2)が立ち上がり宣伝活動を行っているが、国内映画界での知名度は今ひとつのように見える。その一つの理由はSXSWが映画だけでなく、音楽とインタラクティブを含む複合的祭典であり、日本での浸透もどちらかというとデジタルテクノロジーの文脈から始まっていることに起因しているかもしれない。日本の映画ファンはしばしばメディアアート的アプローチを嫌うからだ。だが、SXSWの重要性もまた、この複合性にあることは間違いない。そこで、SXSWの歴史とその意義を改めて振り返りつつ、本年映画部門のハイライトを幾つか紹介しておこう。

 1987年にスタートしたSXSWは、当初音楽専門イベントであった。だが、映画やインタラクティブ(デジタルメディア)を含む総合的なフェスティバル・見本市へとやがて拡大した。一風変わったこの名称は、アルフレッド・ヒッチコックの映画『北北西に進路を取れ』(原題「North by Northwest」)に因んで付けられたものだ。オースティンで開催されるこのイベントは、現在10日間でのべ10万人を動員し、およそ380億円もの経済効果を当地にもたらしている。オースティン最大の収入源となり、同種のものとしては世界最大と評されるまで成長したのだ。

Tiny_furniture_poster SXSWは、これまで様々なスターを生みだしてきた。たとえば音楽では、ハンソンやジェームス・ブラントがメジャーデビューを果たすきっかけをここで掴み、ノラ・ジョーンズやエイミー・ワインハウスを送り出したことでも有名である。映画では、YouTubeにコメディ動画を投稿し人気者となったレナ・ダナム(HBO「GIRLS/ガールズ」で知られる)が、わずか200万円で製作した処女長編『タイニー・ファニチャー』によって2010年最優秀長編ドラマ映画賞を獲得し大きな話題となった。彼女はその後、HBOの連続ドラマ「GIRLS/ガールズ」の製作・監督・脚本・主演で大きくブレイクしている。

 また、2014年に上映されたジョエル・ポトリカス『バザード』も批評家を中心に高く評価され、オシロスコープによって全米配給された後カルト的な人気を得ている。デジタルメディアにおいては、何よりTwitterやfoursquareが世界的に知られるきっかけを作ったことで知られるだろう。メディアや業界の大御所、評論家によって選出される賞によって権威づけられたものではなく、参加者や観客たちがフラットな空間で共にフェスティバルを楽しみ、その盛り上がりによってムーブメントを作り出していくのがSXSWの大きな特徴であり魅力だと言って良い。

everybody-wants-some-poster 今年開催されるSXSW2016では、オバマ大統領がインタラクティブ部門、そしてミシェル・オバマ大統領夫人が音楽部門でそれぞれキーノート・スピーチを担当することでも話題である。映画部門では、『6歳のボクが、大人になるまで。』に続くリチャード・リンクレイター最新作『Everybody Wants Some』がオープニング上映として3月11日にワールド・プレミアされることが決まっている(#3)。これは、リンクレイターの傑作『Dazed and Confused』(日本では『バッド・チューニング』としてDVDスルー)の精神的続編とされるもので、大学の野球部員たちを演じたアンサンブル・キャストによる思春期コメディ映画になるとのことだ。また、『MUD』や『テイク・シェルター』によって新世代アメリカ映画作家の注目株の一人となったジェフ・ニコルズ最新作『Midnight Special』も上映される(#4)。マイケル・シャノンやキルステン・ダンスト、アダム・ドライバー、サム・シェパードら豪華俳優陣によるSFスリラーで、予告編(#5)からもその出来映えには大いに期待させられる。

the-alchemist-cookbook-photo-by-adam-j-minnick-563 『バザード』で注目を浴びたジョエル・ポトリカスもまた、『The Alchemist Cookbook』を手土産にSXSWへと帰還する(#6)。自らを疎外する社会への憎悪とジャンル映画への偏愛、そしてクールでスタイリッシュな作風による特異なキャラクター探求で知られるポトリカス最新作は、深い森の中、トレイラーで猫と暮らす世捨て人の青年が錬金術を学ぶことを通じ、意図せず超自然的な悪と出会ってしまう物語を語るとのことだ。さらに、『ダラス・バイヤーズクラブ』などで知られるジャン=マルク・ヴァレが監督し、ジェイク・ジレンホールが主演する『Demolition』(#7)やポール・ルーベンス主演『Pee-wee’s Big Holiday』、セス・ローゲン&エヴァン・ゴールドバーグ共同監督作『Preacher』(#8)なども話題になっている。ドキュメンタリーでは、77年のヒット作『トランザム7000』の舞台裏を通じてバート・レイノルズとハル・ニーダムの友情を描いた『The Bandit』(#9)、あるいはインターネット・ミームが二人の12歳の少女による殺人未遂を引き起こした事件を描く『Beware the Slenderman』(#10)などが注目されている。

(追加)
FilmStill-261 SXSW2016の短編ドラマ映画部門コンペティションにエントリーされた『Jumpers』をVimeoで鑑賞することができる(#11)。これは、匿名の映画プロジェクト「Takeaway Scenes」がリリースしたものだ(#12)。彼らは厳格に規定されたルールに則って短編映画制作を行う集団であり、また同じルールに則ったものであれば他の製作者からの応募も受け付けている。その厳格な規則と禁欲主義、集団性、秘教的な雰囲気は、ラース・フォン・トリアーらが立ち上げたドグマ95を想起させる。Takeaway Scenesが制定したルールは、以下の通りである(#13)。

1:2-5人の俳優によって構成されること
2:戯曲の脚色ないしオリジナル脚本に基づくこと
3:1ショットで撮影し、カットやVFXなどの使用は認めない
4:カメラは演技者に従属し、その演技を邪魔してはならない
5:自然光ないしランプなど現実的に存在するもの以外の照明を行ってはならない
6:俳優は演じる役柄の背景を自ら書き込むこと
7:撮影後、(本人の希望があれば)俳優の同席の元、採用するテイクの選択を24時間以内に行わなくてはならない
8:場面内にソースを持たない映画音楽の使用を認めない
9:参加者全員が匿名であること。また公の場で当該作品ないしTakeaway Scenesに対する自らの関与を決して明かしてはならない
10:作品はTakeaway Scenesの公式チャンネルと名称/番号を通じてのみリリースされる

 『Jumpers』は、屋上から飛び降りようとする若者を説得する中年男性の姿を描いた作品で、絶え間なく夜空を彩り続ける花火や二人の俳優の演技、その距離感など、きわめて複雑で高度な映画演出力を感じさせる作品に仕上がっている。Takeaway Scenesは、短編映画が映画作家の名刺代わりに使われることへの反感からも、匿名というルールを採用したと述べている(ただし、こうした説明は毎日変更されるとも)。『Jumpers』はSXSW2016にて3月12日に上映される。

#1
http://www.sxsw.com/
#2
http://sxsw.jp/
#3
http://www.theguardian.com/film/2015/nov/17/richard-linklater-everybody-wants-some-sxsw
#4
http://schedule.sxsw.com/2016/events/event_FS19356
#5

#6
http://schedule.sxsw.com/2016/events/event_FS19402
#7
http://schedule.sxsw.com/2016/events/event_FS19377
#8
http://schedule.sxsw.com/2016/events/event_FS19357
#9
http://schedule.sxsw.com/2016/events/event_FS19470
#10
http://schedule.sxsw.com/2016/events/event_FS19354
#11

#12
http://www.takeawayscenes.com/
#13
http://www.takeawayscenes.com/rules/

大寺眞輔
映画批評家、早稲田大学講師、アンスティチュ・フランセ横浜シネクラブ講師、新文芸坐シネマテーク講師、IndieTokyo主催。主著は「現代映画講義」(青土社)「黒沢清の映画術」(新潮社)。

大寺眞輔(映画批評家、早稲田大学講師、その他)
Twitter:https://twitter.com/one_quus_one
Facebook:https://www.facebook.com/s.ohdera
blog:http://blog.ecri.biz/
新文芸坐シネマテーク
http://indietokyo.com/?page_id=14


コメントを残す