10月2日、オンラインDVDレンタル及び映像ストリーミング配信事業を行う最大手の会社Netflixが、アダム・サンドラー主演・プロデュースの4本の新作映画を製作し、独占配信することを発表しました。
アダム・サンドラーの近年の主演作はほぼDVDスルー、Netflixも事業展開していない日本の片隅に暮らす私たちにとっては「ふーん」で片づけてしまいそうになるニュースかもしれませんが、アメリカや欧州では大手通信社や新聞社もこぞって報道、翌日以降も複数のメディアで関連記事が続々出てきています。「Forbes」では経済アナリストがこの契約の肝はどこにあって、Netflixがどれだけの収益を見込めるかなどを分析(#1)、「The Guardian」には「アダム・サンドラーの後、Netflixの次なるニッチ(隙間市場)は?」と題されたNetflixの次の事業展開を予測する記事が掲載され(#2)、「Variety」はアダム・サンドラーが長年ファーストルック(優先交渉権)契約を結んでいるソニー・ピクチャーズとの提携がどうなるかに触れています(#3)。私が見た限り特に力を入れていたのが「Hollywood Reporter」で、3日付でNetflixのコンテンツ総責任者テッド・サランドス氏のインタヴューを掲載(#4)、7日にはワーナー・ブラザーズとサンドラーの製作会社ハッピーマディソンとの間で進められていた西部劇の企画“The Ridiculous Six”が白紙に戻ったことを、「彼がNetflixのために4本の映画を製作するという契約はハリウッドのスタジオを苦境に立たせている」という小見出しとともに報じました(#5)。
それらの記事に目を通していて意外だったのは、このアダム・サンドラーの決断をとても重大な契約、驚くべき出来事として受け取る論調が予想以上に多かったことです。たとえば「それ(Netflixとの契約)は長い間ハリウッドのスタジオシステム――家ではなくまず劇場で映画を上映することが前提としてあったシステム――の住人だったサンドラーにとって大きな変動だ」といった記述(#6)、それに類する意見がいくつかの記事で見られました。それも、今年5月に公開されたドリュー・バリモアとの三度の共演作“Blended”を含むアダム・サンドラーの近年の主演作の興行収入が低調にあることを踏まえた上で、です。現在Netflixの会員数は5000万人超(アメリカでは3500万人超)だといいますから、もっと当然の流れとして受け取る向きもあるかと思っていましたが、やはり彼はそれだけの影響力を持つ俳優であり、製作者であるということでしょうか。
Netflixのサランドス氏はサンドラーの作品をこう評価しています。「彼の映画は何度も繰り返し観られています。そしてアダムは最新作の“Blended”に至るまで立て続けに成功を収めてきました。あの映画は約4000万ドル(約42億円)のコストで全世界で1億4000万ドル(約148億円)の収益を上げています。そんな結果をのどから手が出るほど欲しがっている人がどれだけいるか。(中略)彼には私たちと一緒に成長していくようなところがあります。観客は彼が馬鹿な高校生から馬鹿な父親になっていくのを見て自分自身を見つめ直すのです」(#4)
果たしてサランドス氏の見込む通り、アダム・サンドラーはNetflixでも成功を収めることができるのか――。その答えは実際にNetflixで新作が配信されるまで待つことにして、最後にサンドラーの作品について書かれた興味深い批評を紹介したいと思います。それはコメディ作品の情報に特化した「SPLIT SIDER」というWEBサイトで1カ月前、つまりNetflixがサンドラーとの契約を発表する2週間前に公開された、「アダム・サンドラーの映画を監督するってどういうこと?」というタイトルの記事です(#7)。
ここではサンドラーが自身の会社ハッピーマディソンで製作してきた20本を超えるフィルモグラフィーについて、サンドラーが監督としてクレジットされた作品が1本もないにも関わらず、そのイメージや雰囲気に一貫性があり、「なんだかハッピーマディソンがサンドラーのキャリアを連続もののテレビ番組のように動かしていて、雇われた監督はその一貫性を維持するために招かれているように思えてならない」という視点から論じられています。その後の展開をざっと要約すると、サンドラーの作品には彼が演じる主人公を中心とした周りの登場人物の配置やその関係性にある定型があり、デニス・デューガンやフランク・コラチなど度々彼と組んでいる監督はその定型を踏まえ、作品を重ねるごとに彼の演じるキャラクターを育てているが、彼らのもとではサンドラーは俳優として何の挑戦もしていない。一方、ポール・トーマス・アンダーソンの『パンチドランク・ラブ』やジャド・アパトーの『素敵な人生の終わり方』ではサンドラーのキャラクターは事前に予見できず、彼の不安定かつ内省的な部分がむき出しにされている、といったことが書かれていきます。筆者のブラッド・ベッカー=パートンさんが結局、前者と後者どちらのアダム・サンドラーを観たいと思っているかは、今更記すまでもないでしょう。そして、Netflixがアダム・サンドラーと共に作る作品がどちらになる可能性が高いかも……
黒岩幹子
※某スポーツ新聞の会社に勤務しつつ、
boidマガジン(http://boid-mag.publishers.fm/)の仕事もしつつ、
nobody(http://www.nobodymag.com/)や「映画芸術」でもたまに書かせてもらってます
#1
http://www.forbes.com/…/adam-sandler-deal-cheers-netflix-s…/
#2
http://www.theguardian.com/…/adam-sandler-netflix-rob-schne…
#3
http://variety.com/…/adam-sandler-netflix-deal-wont-end-re…/
#4
http://www.hollywoodreporter.com/…/netflixs-ted-sarandos-ex…
#5
http://www.hollywoodreporter.com/…/warner-bros-no-longer-ta…
#6
http://www.hollywoodreporter.com/…/netflix-books-adam-sandl…
#7
http://splitsider.com/…/what-does-it-mean-to-direct-an-ada…/


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